昨年12月7日、「シャネル」がイギリス北部マンチェスターの街頭で披露したメティエダール コレクションのショーは、パリ郊外のアトリエで職人たちが受け継ぐ、最高峰のサヴォアフェール(匠の技)を体現していた。
パリ郊外のアトリエからマンチェスターの街へ
パリ19区と隣町のオーベルヴィリエの境目に位置する25,500平方メートルの建物「le19M」には、アトリエ「ルサージュ」(刺繍)、「ルマリエ」(花細工と羽根細工)、「マサロ」(靴)、「モンテックス」(刺繍)などが集まり、約700人の職人が働いている。「シャネル」のメティエダール コレクションはその職人たちの卓越した技術を称えるコレクションだ。
昨年10月中旬に「シャネル」のアーティスティック ディレクターであるヴィルジニー ヴィアールが「le19M」を訪れ、ショーの舞台が、世界のポップミュージックの街、英国のマンチェスターに決まった。「ロックスターのルックではなく、ミュージシャンに恋する女性がテーマ。ツイードに色を取り入れたガブリエル・シャネルからインスピレーションを得て、弾けるポップさを表現したい」とヴィアール。そのショーに向けて、70着以上の衣装を2週間以内に仕上げるカウントダウンが始まった。
12月7日の夜、ショーの会場となったマンチェスターのトーマス ストリートは、鮮やかな色彩のツイードで溢れた。グリーン、フューシャピンク、オレンジ……。そして、柔らかなレザー、安全ピンを配してダブルCを描いたドレスなどのパンクなスタイルや、キッチュな刺繍、サッカーユニフォーム風のエンブレムなども見られた。
1990年代にマンチェスターの音楽シーンを賑わせたロックのムーブメント「マッドチェスター」の雰囲気も漂う。ザ・スミス、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、オアシスなどの伝説的なロックバンドが生まれたのもこの街だ。英国のカルチャーと「シャネル」のクリエイティブな対話から生まれた活気溢れるコレクションに、会場は高揚感に包まれた。
ショーのバックステージで出番を待つモデルたち。1960年代テイストが漂う、ツイードが主役のルックを纏って
マンチェスターの熱狂から遠く離れた「le19M」のアトリエでは、静謐な空気の中で職人たちが黙々とコレクションの制作に集中をしている。メティエダールは技術の実験室であり、現在、ファッション産業の主要な課題の1つとして取り組んでいるのが持続可能な仕組みづくり。「ルサージュ」では、リサイクルまたはオーガニックコットンの糸のサンプルが工房の壁一面に並べられている。シャネル グローバル ファッション部門 プレジデント兼シャネルSASプレジデントのブルーノ・パブロフスキー氏は次のように語る。
「数年前から、『シャネル』は持続可能な開発に取り組んできました。素材の調達から製造まで、生産プロセス全体にかかる完全な透明性を実現することを目標としています」
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Maison Lesage(ルサージュ)
Anne-Lise Spivac
ツイードテキスタイルデザイナー
すべてはこの織機から始まります。私たちの役割は、スタジオから与えられたインスピレーションを元に物語を語ることです。様々な方法でリサーチを行い、提案します。制約はありますが、一定の表現の自由があるのは魅力的です。今回のショーのために、英国ファッションを象徴する華やかなツイードに取り組みました。私たちの生地はとてもデリケートで、丁寧に取り扱う必要があります。さまざまな糸を組み合わせながら作業をするので、それはまるで数学。ツイードを織ることは、数字と色のバランスを取ることなのです。
「ルサージュ」のツイードテキスタイルデザイナー、Anne-Lise Spivacが「潰したラズベリー」と例えて呼ぶフューシャ色のツイード