働き方改革で推奨されてきたテレワークだが、最近、「コミュニケーション不足」や「サボってもわからない」などの理由で実施率が低下傾向にある。
そんななか、NTTドコモの研究機関、モバイル社会研究所(東京都千代田)が2024年5月27日、「テレワークが仕事の疲れを軽くする」という報告を発表した。
睡眠によって休養がとれるうえ、日常生活も充実するという。なぜ、ポジティブな効果があるのか。調査担当者に聞いた。
ネガティブ評価から、過去最低の実施率に減少
公益財団法人・日本生産性本部(東京都千代田区)が2024年2月7日に発表した「第14回働く人の意識調査」によると、テレワーク実施率は3か月ごとの調査のたびに低下し続けており、調査開始時の2020年5月には31.5%だったのが、2024年1月には過去最低の14.8%に下がっている。
モバイル社会研究所の調査(2024年2月)は、全国の20歳~79歳の仕事をしている男女4178人が対象。テレワークが仕事の精神的な疲れにどう影響すると思うかを、3つの視点から多角的に聞いた。
(1)テレワークを実施しているかどうか/性別年代別、(2)日常生活が充実していると感じているかどか、(3)睡眠によって休養が取れていると思うかどうか、という3つの角度だ。
【図表1】が、(1)のテレワークの実施に有無別に聞いた結果のグラフだ。それによると、実施していない人の63%が「とても疲れが軽くなる/やや疲れが軽くなる」と回答した一方で、10%の人は「とても疲れが増す」と回答した。
(図表1)テレワークが仕事の疲れにどう影響すると思うか:テレワーク有無・性別年代別(モバイル社会研究所作成)
一方、実施している人は80%が「とても疲れが軽くなる/やや疲れが軽くなる」と回答し、「とても疲れが増す」と回答した人は3%だけだった。性別年代を問わず、テレワークの実施者に、仕事の精神的な疲れを軽くなったという肯定的な意見が多いことがわかる。
続いて、テレワーク実施者だけを対象に、(2)の日常生活の充実度とテレワークの関係を聞いた。【図表2】は、「同世代の人と比べて毎日を楽しく生活していると思うか?」という質問に対する回答結果だ。
(図表2)テレワークが仕事の疲れにどう影響すると思うか:生活意識別(モバイル社会研究所作成)
「そう思う」から「そう思わない」まで4段階ごとにテレワークによって仕事の精神的な疲れにどう影響すると思っているかを集計した。
すると、「楽しく生活していると思う」人の43%はテレワークによって仕事の精神的な疲れが「とても軽くなる」と回答した。しかし、「楽しく生活していると思わない」人では「とても軽くなる」と回答した人は20%だけだった。つまり、日欧生活が充実している人のほうが、テレワーク効果に肯定的な高いわけだ。
【図表3】もテレワーク実施者だけを対象に、(3)の睡眠によって休養が取れているかどうかとテレワークとの関係を聞いた。【図表3】は「睡眠によって休養が充分にとれていると思うか?」という質問に対する回答結果だ。
(図表3)テレワークが仕事の疲れにどう影響すると思うか:睡眠意識別(モバイル社会研究所作成)
「十分にとれている」から「全くとれていない」まで4段階ごとにテレワークが仕事の精神的な疲れにどう影響すると思っているのかを集計したグラフだ。
すると、「睡眠によって休養が充分にとれている」と回答した人の46%は仕事の精神的な疲れが「とても軽くなる」と回答した。しかし、「休養が全くとれていない」と回答した人では「とても軽くなる」と回答した人は20%だけだった。
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テレワーク効果と健康向上は、鶏と卵の関係?
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめたモバイル社会研究所の吉良文夫さんに話を聞いた。
――調査から、テレワークを行なうと疲れが軽くなるうえ、いい睡眠がとれるというポジティブな結果が出ていますが、どういう理由からでしょうか。
吉良文夫さん テレワーク実施者と非実施者との間で生じている差異が、必ずしもテレワークの効果とは言い切れないと考えています。
特に睡眠によって疲れがとれない人は、その原因が必ずしも労働環境に起因しているとは限らず、むしろ職場に出勤することで気分転換になっている可能性もあります。
しかし、テレワークによって仕事の精神的な疲れが軽減されると考えている方は、シニア世代においても非常に高い割合で存在していることは予想外でした。
職場に出勤して働くことに関して、多くの方が無視できない精神的な疲労を感じているのだと推測されます。
――なるほど。日常生活が充実している人のほうがテレワークに肯定的という結果も非常に面白いです。
「鶏が先か、卵が先か」という議論にもなりますが、日常生活が充実しているタイプだからテレワークを行なうのか、テレワークを行なうことによって日常生活が充実してきたのか、どちらでしょうか。
吉良文夫さん ご指摘の通り、両方の理由が考えられます。テレワーク実施によって日常生活がより充実するという考え方も可能ですし、同世代の中でも日常生活が相対的に充実していると思っている人のほうがテレワークに肯定的との解釈も可能です。
テレワークの実施率は職種や雇用形態などによっても異なるので、職種や雇用形態などが間接的に影響を与えている可能性も十分に考えられます。