サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No41となる今回は、本誌No127に登場した『アンコール』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。


毎回恒例、川村さんによるサンドイッチの精密なスケッチ。

サンドイッチを買えるまでに、何度行っただろうか?

ランチタイムがピークになるタイミングでお店に着くとすでにパンはなくなっていて、幾度も買えなかったのだ。『アンコール』は店に入ると目の前に、大きなココット鍋や陶器のバットが並んでいる。中身はおかず。この店はセミオーダー方式で、手順はこうだ。まず、サンドイッチにするか、ボウル(丼みたいなもの)かを選択し、もしボウルにするのであれば、お米か米麺、あるいはキヌアのいずれかひとつを選ぶ。次に、おかず。日替わりで用意される5〜6種類からひとつ選んで、隣に置かれた“本日の温野菜”(2種類)もチョイスする。加えなくても、1種だけでもOKだ。そして最後に生野菜。ラインナップは、ニンジン、大根の酢漬け、キュウリ、コリアンダー、レタスのなかから加えたいものをリクエストする。もちろん、全部のせも出来る。サンドイッチは、自家製マヨネーズが欲しかったら、最初にそれも伝える。サンドイッチ用のパンは、近所のブーランジュリーからドゥミ(ハーフサイズ)・バゲットを買っていて、それが出払ったら終わり。オープンは12時で、13時を少し回ったくらいに着くと、売り切れていることが少なくない。


入り口から入ってすぐのところに並ぶおかずは上から見るとこんな感じ。必ずベジタリアンのためのおかずもあって、右上は珊瑚色のレンズ豆のカレー。


こちらが生野菜。にんじんのマリネと大根のマリネは味付けが異なる。湿らしたキッチンペーパーがかけてあるのはコリアンダー。乾かないように、営業開始直前の出番待ち。

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「アジアではきっと、どの国でもそうだと思うけれど」

取材の日、“子どもの頃、前日の料理の残りを、翌日パンに挟んでサンドイッチにすることはありましたか”と『アンコール』のオーナー、マチューに尋ねた。すると彼はもちろん!と答えたあとに、前述の発言をしたのだ。お父さんがイタリア人、お母さんはカンボジア人で、彼自身はフランス生まれのフランス育ち。フランスでは、たくさん仕込んだ料理が残った次の日には、それらを具にサンドイッチにして食べることがよくある。具は、たとえば、ローストチキンやポトフだったり、キャロット・ラペや根セロリのサラダを活用したりもする。だから聞いてみたのだけれど、彼の頭に浮かんだのはアジア人のお母さんの料理だったのだろう。“でも普通そうじゃない?”という口調で言われて、さっと思い巡らした。「いや、日本ではそんなにしないと思う」と答えてから、改めて考えた。日本では、やっぱり圧倒的に、ご飯と合わせて再活用するケースのほうが多いのではないだろうか。それで、思った。おかずをご飯にのせるか、パンで挟むか。もしかしたらパンという選択は初めてだったかもしれない。


まず最初にメインとなるおかず。次に温野菜。ここまで入れて、生野菜のショーケースの前に進み、加えたいものをさらにリクエストする。