雨模様の日々に、爽やかな気持ちになるものを。
梅雨のシーズンでもある6月は、夏至を迎え、衣替えや梅仕事を始める、本格的な夏が来る前の準備期間。また、雨の日が続くからこその花の楽しみもある。家の中に自然を持ち込むことで、ジメジメした心も晴れやかに。沈みがちな気持ちにエールを送るつもりでしつらえたい。
シャクヤク
Paeonia lactiflora
生薬として渡来、別れを惜しむ気持ちを表す。
科名/ボタン 原産地/中国、モンゴル、朝鮮半島北部。紀元前より中国で栽培され、日本には平安時代、鎮静作用のある薬草として伝来。フランスでは聖母のバラと呼ばれ、艶やかでエレガントな花姿で知られる。「5月に盛りを迎える花ではありますが、明るい華やかさをもたらしてくれるので、湿気の多い6月にもぴったりです。中国では別れるときに再会を約束して贈る風習があるそう。引っ越しや転職、異動、遠くに旅に出るなど、次のステージに向かう人に差し上げると、喜ばれると思います」
アナベル
Hydrangea arborescens ‘Annabelle’
咲き始めのグリーンで、爽やかさを演出。
科名/アジサイ(ユキノシタ) 原産地/北アメリカ。梅雨時季の花として誰もが思い浮かべるのがアジサイ。その仲間であるアナベルは、装飾花が集まり、直径15〜30㎝ほどの丸い手毬咲きになる。通常のアジサイに比べると開花期が長いのも特徴。「アジサイは七変化するといわれる植物ですが、アナベルもみずみずしいグリーンから、咲き始めるに従ってだんだんと白く変化していきます。湿気が高く、気温も上がって空気が重たく感じられる頃なので、緑の状態を贈って目から涼をとってもらいたいです」
カラー
Zantedeschia
水滴がつく様が、雨模様に爽快さを与える。
科名/サトイモ 原産地/南アフリカ。花弁に見えるのは萼が発達した、仏炎苞。実際の花は真ん中にある棒状のところ。「カラーにもいろいろな品種がありますが、例えばクリスタルクリアは、名前の通り、透明感のある清浄な印象を受けます」。語源には諸説あるが、カトリックの尼僧が着ける襟(カラー)から、というのもうなずける。「茎が細いので生けたときに優しくなだらかな曲線を描きます。霧吹きをすると仏炎苞に水滴がついて、外の雨とつながるような、きれいな景色が生まれます」
スモークツリー
Cotinus coggygria
空間を引き立てる、煙のようなふわふわな植物。
科名/ウルシ 原産地/南ヨーロッパから中国、ヒマラヤ。花糸が煙のように見えることから、この名前に。イラストのグリーンファウンテンと呼ばれる品種は、白緑色の小さい穂がたくさんつき、初めはピンク、だんだんと緑色になっていく。「基本的には枝なので、ブーケで束ねるときは脇役になることが多いんです。でも、これだけがモコモコとあるのも不思議な感じで素敵だと思います。インテリアを引き立て、特にシャープなインダストリアルな内装に飾るとアクセントになってくれます」
ユリ オトメユリ
Lilium rubellum
品のいい香りを放つ、日本原産の野花。
科名/ユリ 原産地/日本。花びらが小さく、乙女のような愛らしさがある東北地方原産のユリ。ヤマユリほど濃厚ではないが、甘く上品な芳香を放つ。「野山にあるような華奢なユリが好きなんです。個人的な話になってしまいますが、子どもの頃に母親に好きな花を聞いたら、ユリだと教えてくれたんです。母の好きな花を知っちゃったと、すごく嬉しかった。それで今回の贈り花に加えました。オトメユリはそれほど香りが強くないものの、とても優雅。多くの方に喜ばれる花だと思います」
平井かずみ Kazumi Hiraiフラワースタイリスト
草花が身近に感じられる、暮らしに根付いた日常花を提案。東京・恵比寿のアトリエ「皓SIROI」を拠点に、日本全国で花の教室をはじめとしたワークショップや展示を開催。著書に『あなたの暮らしに似合う花』『花のしつらい、暮らしの景色』(ともに扶桑社)など。
illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Wakako Miyake
参考文献:『花屋さんで人気の469種 決定版 花図鑑』(西東社)、『花の名前、品種、花色でみつける 切り花図鑑』(山と溪谷社)
&Premium No. 126 Life with Flowers & Greens / 窓辺に、花と緑を。
人はなぜ、こんなにも花や草木を愛するのでしょうか。植物と触れ合うことは、その美しさを愛でるということにとどまらない大きな喜びを、私たちに与えてくれます。植物とともにある生活は、毎日が発見の連続。 季節の移ろいに敏感になるだけでなく、住まいや暮らしそのものを、心地よく、健やかにしたいと願う気持ちまでもが、ふつふつと湧いてくるように思います。さらに、私たちの中に潜む原初的な感覚の扉をそっと開き、心にやすらぎをもたらしてくれるのです。今号は、花を飾ること、植物を育てることを楽しみながら、心地よく暮らす人たちを訪ねました。
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