コロナ禍を経て「偽・誤情報」対策のあり方が課題になる中、総務省の有識者会議で、ファクトチェックに詳しい識者がファクトチェック団体について厳しい質問を投げかける場面があった。ファクトチェックを行う団体がいかに独立性を保つかという問題だ。

俎上にのぼったのは、ヤフーなどのネット事業者でつくる「セーファーインターネット協会」(SIA)が2022年10月に発足させた「日本ファクトチェックセンター」(JFC)。SIAは過去に警察庁からの案件を受託していたこともあり、JFCの独立性を問う声などがあがった。JFC側はすでに事業は終了しており、今後復活する可能性はない、などと説明している。

2023年11月に初回会合、もう20回開催

発言があったのは、24年5月24日にオンラインで開かれた「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」(座長:宍戸常寿・東京大学大学院法学政治学研究科教授)の第20回会合。この有識者会議は、

「実空間に影響を及ぼす新たな課題の発生に対して、当該課題と多様化するステークホルダーによる対応等の現状を分析し、デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた今後の対応方針と具体的な方策について検討するため」

として、23年10月31日に設置が発表された。初回会合は11月7日で、約7か月に20回、つまり、1か月に3回弱というハイペースで開催されている。

この日の会合の内容のひとつが、ファクトチェック団体によるプレゼンテーションで、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)、JFC、リトマス、インファクトの4団体が登場した。この中でFIJだけ位置づけが異なり、自分でファクトチェックを行うのでなく、ファクトチェックを行う団体への支援を目的にしている。

各団体が公表している資料によると、JFCが最も予算規模が大きく、設立時点では、運営資金はヤフー(現・LINEヤフー)から1年に2000万円、米グーグル社の慈善事業部門から2年間で最大150万ドル(当時のレートで約2億1700万円)の援助を受けてまかなうとしていた。24年1月末現在、この2社に加えてメタ社からも支援を受けていることを公表している。

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IFCNは収入の5%以上を占める資金源の公表求める

上記4団体のうちFIJ以外の3団体は、国際的なファクトチェック団体「国際ファクトチェックネットワーク」(IFCN)の認証団体で、IFCNは収入の5%以上を占める資金源についてウェブサイトで公開するように求めている。リトマス、インファクトは、すでに掲載されている。

JFCのあり方について質問したのは、有識者会議構成員で、武蔵大学社会学部教授の奥村信幸氏。奥村氏はFIJの理事も務めている。論点は大きく3つだ。ひとつが財政の問題。JFCに対する援助は、JFCに対して直接ではなくSIA経由で行われていることや、

「それ(5%超の収入源に関する情報公開)がなされていないまま1年近く放置されている」

と指摘した。

2つ目が、官公庁との関係だ。例えばSIAは17年6月には「インターネット・ホットラインセンター」の運営を警察庁から受託したことを発表している。これが「ファクトチェックはコンフリクト(競合、利益相反)を起こさないのか」という問題だ。

3つ目が運営体制だ。JFCは運営委員会(委員長:曽我部真裕・京都大学大学院法学研究科教授)のもとで編集部がファクトチェック記事を出す体制だが、運営委員会について情報公開がないことも指摘した。

これらの疑問には、直前にプレゼンテーションをしていたJFC編集長の古田大輔氏が主に答えた。古田氏も23年12月までFIJの理事を務めていた。

1点目については、「法人格がJFCにないので、銀行口座は作れない」として、いったんSIAが受け取った上で「ちゃんと切り分けて」いると説明。

透明性に関する課題については「おっしゃるとおり」とも。決算後の法的手続きで公表までに「最低でも、もう数か月はかかるだろう」と話し、「運営委員会でも議論されている」とした。

2点目のSIAの警察庁の事業については、JFC立ち上げ時点ですでに終了しており、今後も復活する可能性はない、とした。