海外メーカーから老舗店まで、ライバルの多いスイーツ業界で売り上げを伸ばし続ける「久遠チョコレート」。全国60拠点・40店舗で働く従業員約700人の6割近くが、障がいのある人たち。多様な人々が作るチョコレートは、有名百貨店に認められて催事に出店するほど高い品質を誇ります。
今回話を聞いたのは、今も製造現場に立つことがあるという代表の夏目浩次さん。障がいの有無で雇用を分けず、凸凹のある人たちに「稼げる場所」を作っている理由や、ブランドの今後の目標を伺いました。
「月給1万円って、おかしいよね」
一般企業での就労に困難を抱える障がい者が働く「就労継続支援事業所」。そうした事業所で働く人たちの驚くほど低い給料の金額を、想像できますか?
就労継続支援B型事業所の平均工賃は、1時間につき233円。月額で1万6千円ほどと、一か月の食費にも満たないような金額です。
その一方で、久遠チョコレートの直営店で働く障がい者の平均賃金は月16~17万円。全国平均の約10倍以上の給料をスタッフへ支払っています。
夏目さんは久遠チョコレート以前も、パン工房を立ち上げて障がいのある人が働きやすい環境を提供していたそう。そのパワーと行動力の背景にどんな高い理想があるのか…と尋ねると、少し意外な答えが返ってきました。
「僕は別に、特別な考えを持っているわけではないです(笑) ただ、『1か月働いて得られる給料が1万円でいいのか?』と考えたときに、『そんなのいいわけないよね』って思うんですよね。
はじめにパン屋をやっていたときも、“働いたらきちんと稼げる場所”というのを考えて経営していました。複雑な思考も、障がい者の権利を主張したいとかもなくて、ひたすら進んできた感じです」
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誰も置き去りにしなくていいチョコレート
久遠チョコレート川口店の店内
外から見れば、成功していたように思えるパン工房時代。しかし夏目さんは次の事業を探しており、それが都内のハイエンドホテルや高級ブランドのチョコを手掛けるショコラティエ・野口和男さんとの出会いにつながりました。
「パンの製造は時間に追われる作業が多く、マルチタスクになって発酵に失敗したり、焦げたりしてロスが生まれることが多々ありました。そのスピード感に合わない人を置いていかないと一定の生産数を上げることができなかったので、『何かほかにいいものはないかな?』とずっと探していました。
そのときに参加した異業種交流会で偶然、野口と出会ったんです。僕はそれまでパティシエとあまり関わりがなかったのですが、彼は自分で“チャラ爺”と名乗っていて、面白そうな人だなと感じたんですよね。
機械職人から40代半ばで転身した野口から『チョコレートは正しく材料を使ってロジカルに作れば、誰でも美味しいものを生み出せる』と聞いて、とても興味をひかれました。彼が趣味で改造したスポーツカーに乗り込んで、すぐにラボに行きましたね。
彼のラボでは、日本語学校の学生をはじめとするいろんな人がシンプルな工程を繰り返してチョコレートを作っていました。ベテランのショコラティエばかりが働いているわけではなかったんです。それを見て『これだ!』と思って、彼の仕事の一部を請け負いながらチョコレート作りを始めました」