5月上旬、三重県の会社員に対し、津地裁(西前征志裁判長)が、懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役3年)の判決を言い渡した。被告は自宅のプリンターで偽の1万円札を印刷し、パチンコ店の景品交換所やコンビニで使用したとして、通貨偽造と同行使の罪などに問われていた。
裁判長は判決にあたり、「偽造の方法は比較的単純で、ホログラムや透かしがなく、取り立てて精巧とは言えない。実際に店で使われ、通貨に対する社会の信頼が害されているが、偽札はすべて回収され、害した程度は限定的」と述べ、「被告が事実を認め、実際に生じた損害を弁償。保釈中に仕事に就き、反省して更生の意欲がみられる」などとし、執行猶予を付けた。
重い罪が科せられる通貨偽造の罪は和銅元年から
この判決に対し、ネット上では「甘すぎる」との声が大勢を占めた。「お金は汗水たらして稼ぐもの」。誰もがそうした感覚を持っているからこそ、偽札をつくり、使う者にはより厳しい目が向けられるのだろう。
偽札をつくったり、偽札と知りながらそれを使った場合、その者は法律で罰せられる。主な取締法規は、通貨偽造・変造罪(刑法第148条第1項)、偽造通貨・変造通貨の行使罪(刑法第148条第2項)などだ。
日本最古の通貨とされる和同開珎(わどうかいちん)が鋳造されたのは和銅元年の708年。その翌年からすでに、”通貨偽造罪”を罰する規定があったといわれる(※)。<みだりに私鋳銭を鋳る者は没官し(公奴婢に落とすこと)、密告した者にはその財産を与える、私鋳銭の利益を求めて私鋳を指示した者または実際に使用した者は、杖200と徒刑を科す>というものだ。
※日本銀行金融研究所HP
最高水準に作り込まれた新紙幣
通貨偽造がいかに社会悪かがよくわかるトピックのひとつといえるだろう。だからこそ、法律による処罰と併せ、通貨偽造の防止技術も新通貨発行のたびに磨き上げられている。昨今は概ね、20年周期で新紙幣が発行され、1984年、2004年、そして今年2024年7月3日に新紙幣が発行される。
世界初を含む10の偽造防止技術が新札には搭載されている(写真提供:日本銀行金融研究所貨幣博物館)
冒頭の事件の偽造は「ホログラムや透かしがなく、取り立てて精巧とは言えない」とされているが、今回の新紙幣に使われている偽造防止技術は世界初の技術が盛り込まれるなど、偽造が想像しづらい、最高水準の紙幣となっている。
例えばホログラムは3Dで、傾けると三次元の肖像が回転。それ以外の図形も見る角度によって変化する。お札といえば透かしだが、最新の紙幣には従来の肖像の透かし、その背景はさらに高精細なすき入れ模様が加えられている。
他にも、紫外線を当てると表面の印章などお札の一部が光る特殊インキの使用、傾けると、表面左右両端がピンク色に光るパールインキの採用など、まるで精巧な芸術品のように最新技術を結集してつくり込まれている。
こうした高度化する偽造防止技術もあってか、偽造通貨の発見枚数は減少傾向にある。警察庁の発表では、2020年に偽造1万円札の発見が2643枚だったのが、2022年には906枚、2023年は583枚と大幅に減っている。キャッシュレス化の浸透も無関係ではなさそうだが、紙幣偽造のハードルの高さに犯罪者も及び腰になっているのかもしれない。
新紙幣に盛り上がる機運の一方で日銀が注意喚起も
20年ぶりの新紙幣発行まで1か月となり、徐々に機運も盛り上がっている。新紙幣関連の展示も行われている東京・中央区の「日本銀行金融研究所貨幣博物館」には、外国人を含む多くの見学者が連日訪れている。また、ネット上では開運グッズとして、新紙幣のレプリカも一足先に販売され、出回っている。
一方で、日銀は、新紙幣発行に伴う注意喚起も行っている。ひとつは、「特定の記番号(※)の銀行券は入手できない」こと。もうひとつは、「従来の日本銀行券が使えなくなることはありません。『つかえなくなる』といった誤情報や詐欺行為にご注意ください」というものだ。
※お札(銀行券)に印刷されているアルファベットと数字
「旧紙幣が使えなくなるかも?」と思っている人は意外に多いかもしれない。それについて日銀は、「現在発行している種類の他、すでに発行されなくなった種類を含め、現在、22種類の銀行券が有効です」としている。具体的には1万円札なら昭和33年に発行された聖徳大使版、1000円札なら昭和25年発行の聖徳太子版でも有効だ。心配は無用だろう。