「コス」が京都の絞り染めで水の流動感を表現。職人との協働の背景は

「コス」は6月5日、京都の絞り染め職人の田端和樹とコラボレーションしたカプセルコレクションを発売する。手筋絞りと雪花絞りの柄をプリントに応用するもので、2柄を用いたセットアップやカフタンドレス、スカーフなど14型をラインアップ。透明感と浮遊感のある柄と素材、そして流れるようなシルエットが印象的だ。コラボはどのようにして生まれたのか。「コス」デザインディレクターのカリン・グスタフソンとたばた絞りの田端和樹代表に聞いた。

コラボの始まりはインスタグラムのDM

コラボレーションが始まったのはちょうど1年前。「水や自然をテーマにしたコレクションを作ろうとリサーチを始めると、キーワードに“絞り”が挙がりました。そして、私たちの伝統工芸や職人技を大切にしたいという思いも重なり、コレクションに“絞り”を用いたいと考えるようになりました。さらにリサーチを進めていくと田端さんの作品と出合いました。たばた絞りは躍動感や流動感があり、私たちが提案したいタイムレスでリラックスした服にマッチすると考えました」と「コス」のカリン・グスタフソン=デザイン・ディレクターは振り返る。


カリン・グスタフソン/「コス」デザイン・ディレクター:
スウェーデン生まれ。2000年に渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション、ミドルセックス大学で学び、名門ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのMA修了。卒業制作が「コス」立ち上げメンバーの目に留まり、06年コスにアシスタントデザイナーとして入社。1年も経たずしてクラシック・ウィメンズウエア部門デザイナーに昇格。11年、ウィメンズウェア・デザインの責任者に。16~19年クリエイティブ・ディレクター。20年から現職。

アプローチはインスタグラムのダイレクトメッセージを用いた。「迷惑メールだと勘違いして半信半疑でした」と田端代表。アトリエの同僚たちとその後の丁寧な対応から「迷惑メールではないだろう」とやり取りが始まり、コミュニケーションはオンライン会議ツールで行い、まずは互いの価値共有や技法の確認から行った。そして具体的な柄やデザインについては「コス」が作成したムードボードを見ながらディスカッションを重ねた。

製造工程で印象的だったことを2人に尋ねると「デジタル画面を通してしか見ていなかった生地を直接触ったときが特別な瞬間でした」とグスタフソンディレクター。田端代表は「協働を通じて新たな発見があり、本来自分が持っている技法とは違うものが生まれたこと。これまでの自分にはないものを引き出してもらいました」と振り返る。

〈左〉カフタンドレス¥31,000(税込)〈右〉工房で絞り染めに取り組む田端代表

当初の計画と完成したコレクションはいい意味で異なる部分も多かったという。その一つがカラーパレットにオレンジを採用したことだ。「もともとは青のバリエーションでコレクションを構成しようと考えていました。けれど、対話の中でオレンジの絞りに話が及び、デザインチーム皆が惹かれて取り入れることになりました」とグスタフソンディレクター。「オレンジの絞りはベースの生地が他と異なり白ではなくベージュだったので、色出しに苦労しました」と田端代表。ブルーに加えてオレンジ、ブラウンのカラーパレットで構成した。

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伝統工芸継承の難しさ

田端代表は伝統工芸の絞りに専念する職人で、千数百年続く京鹿の子絞りを本職に、工房「たばた絞り」で技術を磨く。京鹿の子絞りを生業とする職人は年々減少しており、田端代表はその中でも最年少だ。


田端和樹/たばた絞り 代表
ビジュアルアーツ専門学校大阪校で音響と照明を学ぶ。2005年から絞り染めに従事。京鹿の子絞りを本職に、京都市内にある工房「たばた絞り」で技術を磨きながら、さまざまな作品を手掛ける。2010年、京都拠点のアパレルブランド「SOU・SOU」とコラボレーションを行う。

「幼少期から父の仕事場で伝統工芸に触れてはいたけれど、絞り染めの道に進む気になれず音響工学を専門とするサラリーマンになりました。けれど、伝統工芸職人として家業に従事していた叔父が亡くなったときに、道具を処分するために工房に呼ばれ、これを捨てると思ったらもったいないと感じました。人も伝統も失ったら終わり、後戻りはできません。誰もやらないなら自分がやるしかない。それ以来絞り染め職人としての人生を歩み始めました」。そこから見様見真似で技法を学び、独学で技術を習得した。

〈左〉手筋絞りは細かく畳んでヒダを取り、糸で綴じる。生地が長くなればなるほどまっすぐストライプを表現することが難しい。 〈右〉京都芸術大学でプレスと学生向けにワークショップを開催したときの様子。手ぬぐいの長さ( 約90cm)で挑戦するもヒダを取りながら糸で綴じるというシンプルな工程ながらその難易度の高さを実感。

今回用いた手筋絞りは生地を細かく畳んでヒダを取り、糸で綴じて染めることで縞模様の柄を出す染め方。特に手先の勘に頼って作業を進めるため熟練を要する技法だ。田端代表は「ヒダや畳み方が難しく生地が長いため、まっすぐなストライプを表現するのが難しかったですね」と振り返る。絞る加減で白場を調整しながら納得のいく柄を作成した。

〈左〉雪花染めはアイロンを使いながら生地を正三角形に畳む。熟練者は1反(約13m)のサイズを約40分程度で畳む。多いときは1か月100反(約1300m)を畳む。現在たばた絞りの工房では京都芸術大学の学生4人が絞り染め習得に向けて取り組む。 〈右〉三角形の底辺を浸して染料を吸い込ませると雪の結晶のような柄が浮き上がる。

雪花絞りは、三角に折り畳み底辺に染料を浸し、独自の幾何学模様を染める技法。「柄を細かくできるかとリクエストがあったので、横幅に対して通常4分割で行う雪花絞りを、12分割で染めた。完璧すぎず、不揃い過ぎず。何度も色や模様を調整しながら試行錯誤しました」