私は現在58歳。飲食店の運営を管理し、サポートする会社の社長を務めています。今でこそ順風満帆な人生ですが、これまで苦難の連続でした。思い起こせばあれはもう30年前のこと……。

心身ともにボロボロに…

30年前の私は、学生時代からの友人と興した会社を軌道に乗せるのに一生懸命でした。ようやく経営が上向きになり、これからというときのこと……。秘書をしてくれていた当時の恋人が、あろうことか私の友人と浮気をしていたのです。

おまけにその現場に遭遇したのは早朝の社内。震えながら私が問い詰めると、2人は謝罪どころか開き直り、そろいもそろって一緒に退職届を出してきたのです。しかもなんと、友人は私に隠れて別会社を設立済み。どんな手口を使ったのか多くの社員を引き抜いていき、おまけに取引先まで奪取してしまったのです。

おかげで私の会社は廃業寸前に……。残ってくれた社員のためにも何とか立ち直らねばと、唇をかみしめて奮闘していた私は、たった数週間でげっそりやせ細ってしまいました。

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応募してきたのは?

そんなある日。人手不足のため社員を募集していたわが社に、杖をついてボロボロの服を着た見知らぬおばさんが応募してきたのです。私としては、即不採用を言い渡してもよかったのですが、せっかく来てくれた方をすぐ追い返すのも気が引けます。面接だけでも、と会議室に通しました。

履歴書を受け取りながらも、内心では大したことはないだろうと思っていたのですが……。なんとビックリ、化粧品&ファッション系の海外の学校を卒業し、宅建だの簿記1級だの、数々の有資格者で、大変優秀な人のよう。落ち着かない様子でキョロキョロとドアのほうを見ている彼女を改めてじっくり見た私は、あることに気が付きました。

「すみません、気に障ったら……。あの、なぜ特殊メイクをしているんですか?」

すると彼女はビックリして私のほうに向き直りました。「ごめんなさい。実は私、面接に来たのではなく、こちらの共同経営者さんに用がありまして……。顔バレしないためにこんなことを……」

そう、この人は、数カ月前に私を裏切った友人の知り合いだったのです。

「彼は辞めました」「えっ?」

初対面ながらなぜか話しやすい彼女に、つい私はいろいろ話してしまいました。すると、彼女のほうも彼に恨みがあり、乗り込むつもりで来たのだとか。詳細は聞きませんでしたが、これも何かの縁。来社は応募が目的ではなかったものの、一生懸命説得し、わが社で働いてもらうことになったのです。