多様な仲間を増もっとやすために参加したファッションショー
――バンクーバー・ファッション・ウィーク(以下、VFW)のお話も聞かせてください。主催者から出演依頼が来たとのことですが、参加を決めたきっかけは何だったのでしょうか?
田中:実は、ファッションショーに対して「物を大量に消費させることを目的に行う」ものというネガティブなイメージがあり、当初はあまり乗り気ではありませんでした。
ただ、VFWは「多様性」をテーマにした唯一のファッションショーであり、1度だけの出演でもOKということでしたので、「今回限り、服を売るためではなく、私たちが実現したい世界をたくさんの方に見ていただくための10分間の舞台を作ろう」という目的で参加しました。
2024年の4月にカナダで開催されたVFWのステージの様子。SOLITらしく、多様性に富んだモデルがランウェイを彩った。写真提供:SOLIT株式会社
――VFWに参加される資金調達の手段としてクラウドファンディングを選ばれましたね。
田中:渡航費用をはじめとする準備資金が必要だったということもありますが、1人でも多くの“仲間”を増やし、「オール・インクルーシブな社会を実現するために、あなたたちの力が必要です」というメッセージを伝えるために、クラウドファンディング(外部リンク)を実施しました。
ありがたいことに初めに設定したゴール(50万円)は3日間で達成し、最終的には104人の方からご支援があり、ネクストゴールの200万円も達成することができました。
VFWに参加したモデルを中心とするSOLITのメンバー。左端が田中さん。写真提供:SOLIT株式会社
――具体的に、VFWのステージではどのような演出をされたのでしょうか?
田中:「とても素敵——あたりまえでしょ」(IT’S SOLIT!-Duh!)をコンセプトに、東京・渋谷のまちを舞台に、朝6時から夜12時までの時間帯をイメージした構成にしました。
今回は、全て現地でモデルを採用することもできたのですが、それでは私たちが作ってきた「多様な人が、自分の好みや体型に合わせて、自分でカスタマイズできる」ファッションをリアルに表現することは難しい。
そこで、ショー全体で参加する14名のモデルの内、一般公募などで選ばれた7名のモデルが企画段階から参加し、一緒にステージを作り上げていきました。
小さなデモカードを全身にまとっているようなドレスだったり、あふれ出てしまった自分の思いを白いドットのワッペンで表現したり、一つ一つのコレクションにはそれぞれストーリーがあります。
ショーに携わったメンバーがそれぞれファッションに対して感じていることを出し合って、朝から晩にかけてデモが起こるようなイメージで演出をしました。
2024年 5月14日から16日までの3日間、渋谷ヒカリエで開催されたイベント「Fashion Values Society」では、実際にVFWで着用されたコレクションが展示された
――ラストでは、皆さんがプラカードを掲げて、まさにデモ行進をされていました。
田中:あのプラカードには「優しい言葉」しか書かれていないんですよ。デモのプラカードというと、「○○反対!」や「○○やめろ!」などキツイ表現になりがちですよね。
意思表示することはとても大切ですが、もしかしたら相手にも、何かそれをやめられないなんらかの事情があるのかもしれない。だから私たちはあのプラカードで「あなたたちも一緒に、こっちの世界に来ない?」とか「あなたのために私たちは活動しているんだよ」と伝えました。
VFWのステージのラストでモデルたちが掲げていたプラカード
――とても素敵なメッセージですね。SOLITがミッションに掲げる「オール・インクルーシブな社会」を実現させるために、社会にはどんな取り組みが必要だと思われますか?
田中:世の中は生産性の高い人や、効率的に稼げる人ばかりが高く評価されがちですが、そうではない評価軸の必要性を強く感じています。
私にはいつも相談に乗ってくれて、おやつを出してくれる祖母がいます。彼女は効率的でも収益を上げるわけでもないかもしれませんが、私にとってはお金や何物にも代えがたい、とっても必要な存在です。
そういった、人や社会の幸福につながる価値のようなものが評価されて、表に出られる仕組みが広がればいいなと思いますね。
VFWの会場で配られたSOLITの取り組みや思いが綴られた冊子
――では最後に、「オール・インクルーシブな社会」を実現するために、私たち一人一人にはどんなことができるでしょうか?
田中:「見て見ぬふりをしない」ということでしょうか。
もしかしたら、自分が声を上げることで誰かを攻撃したり、傷つけたりするかもしれない。失敗するかもしれない。そんな思いから、違和感があっても見て見ぬふりをしてしまっている人も多いと思うのですが、そのままでは社会は変わらないし、議論も生まれないですよね。
誰かを一方的に攻撃するのではなく、対話をすること。失敗してしまったら謝って、周りはそれを受け入れ、成功したらみんなで褒め合う――そんな当たり前の関係ができにくくなっているように感じるので、まずは「1日1回、誰かを褒める」からスタートするのもいいかもしれません。
多様な人も、動植物も、地球環境も「全て取りこぼしたくない」と話す田中さん
編集後記
「誰も、どれも取り残さない」ために、一人一人との対話を大切にされている田中さん。「衝突することもあるけれど、何もしないよりはずっといい」という言葉がとても心に残りました。
取材を通じて、さまざまな理由からファッションの選択肢が制限されている人がたくさんいることを知ると同時に、これまで自分や身近な友人、家族たちが「ちょっと不便だけれど、これしかないから仕方ない」と何となく受け入れ、諦めていたことが、本当は変えられるのかもしれない。そんな勇気をもらいました。
まずは、身近な人の「困り事」に耳を傾け、相手がどうしたら少しでも快適に暮らせるようになるか、一緒に考えることから始めてみませんか? その先にはきっと優しい社会が待ち受けているような気がします。
撮影:永西永実
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〈プロフィール〉
田中美咲(たなか・みさき)
1988年生まれ。立命館大学卒業後、東日本大震災をきっかけとして福島県における県外避難者向けの情報支援事業を責任担当。2013年8月に「防災をアップデートする」をモットーに一般社団法人防災ガールを設立。第32回「人間力大賞(現:JCI JAPAN TOYP)」経済大臣奨励賞を受賞。2018年2月より社会課題解決に特化したPR会社である株式会社morning after cutting my hairを創設、代表取締役。2020年9月より、「オール・インクルーシブ経済圏」を実現すべくSOLIT株式会社を創設、代表取締役を務める。
SOLIT 公式サイト(外部リンク)