「野心満々の実業家」とか「時代を切り開く挑戦者」といったイメージが強い起業家の世界も多様化が進んでいるようだ。
帝国データバンクが2024年5月28日に発表した「『新設法人』調査(2023 年)」によると、高齢化が進む一方、「パートタイム起業家」とか「副業起業家」とかとか、さまざまなタイプの起業家のラッシュ状態だ。
これは、日本経済が活気づいていることなのか。調査担当者に聞いた。
30~40代が減り、シニアの50~60代が増加
帝国データバンクの調査によると、2023年(1~12月)に全国で新設された企業は15万2860社にのぼり、過去最多を記録した【図表1】。
政府による「スタートアップ育成5カ年計画」をはじめ、経営者保証を必要としない制度を始めるなど、政府、自治体、金融機関による官民一体で起業支援が行われていることが後押ししたとみられる。
現役引退後、経験を生かして起業するシニア層が増え、起業者年齢の高齢化が進んでいる。2023年の平均は48.4歳に達し、過去20年で約3歳高くなった【図表1】。
【図表2】は、起業者年齢を年代別にみた推移のグラフだ。2023年は、最も多いのは「40代」(31.9%)だが、40代の割合は2019年をピークに低下した。
コロナ禍前は4社に1社を占めた「30代」も2割以下に減少。その一方で、「50代」(25.3%)と「60代」(12.2%)で4割近くを占める。
また、近年は大手企業を中心に副業・兼業の解禁が追い風となり、隙間時間を活用する「パートタイム起業家」が増えている。
日本政策金融公庫が2024年1月に発表した「起業意識に関する調査」によると、パートタイム起業家のうち、現在の職業が「勤務者(正社員)」と回答した割合が約4割を占めた。
ビジネスパーソンが会社から給与収入を得ながら、ライフスタイルに合わせて事業活動を行ったり、主婦が特技を生かして自宅を事務所にしたりする「副業の発展形」のような企業が増えているのだ。
また、インボイス(適格請求書)制度に対応するため、法人格を取得した個人事業者もかなりいたようだ。
こうした人たちには「事業経営者」であるという自覚すらない人が多く、先述の日本政策金融公庫の調査では「意識せざる起業家」と名付けている。
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パソコン1台と自宅があれば、誰でも起業できる
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。
――起業家といえば、堀江貴文さんや前澤友作さん、三木谷浩史さんらが20代から30代にかけて次々に会社を興したように、「若い挑戦者」というイメージがあります。
それが最近、30代、40代の起業家の割合が減って、50代、60代のミドル&シニア層の起業家の割合が増えているのはどういうわけでしょうか。
飯島大介さん 起業に対する心理的なハードルが大きく下がったことが大きいと思います。かつては、よほどの覚悟が必要な、人生を掛けた一大事だったでしょう。
最近は、いろいろなタイプの人が起業できるようになりました。ホリエモンさんや前澤さんのように、スタートアップ企業を目指すという気負いや野心がなくても、定年退職後にキャリアを生かしたいシニアの方、ドロップアウトした人、会社が気に食わなくて早めに辞めた人。みんな抵抗感なく、気軽に起業できます。
――日本政策金融公庫の「起業意識に関する調査」をみると、起業にお金がかからないことに驚いています。
調査では、自分の会社の経営に専念する「起業家」と、副業などのつもりの「パートタイム起業家」に分けていますが、「起業家」でも起業費用はゼロの人が3割。50万円未満が3割です。「パートタイム起業家」では、費用ゼロが半数以上、50万円未満が4割で、50万円以上かかった人は1割もいません。
飯島大介さん 今は、パソコン1台と、事務所になる自宅があれば、誰でも起業できますからね。ただし、それで年商1000万円以上稼げるようになるかどうかとなると、別問題です。
インボイス制度も始まったことし、フリーランスの人が税金対策で会社組織にしたほうが得だと思えば、それも起業になります。