物価の上昇や円安などの影響もあり資産運用に興味を持っている人が増えている印象があります。新NISA制度も後押ししており、NISA口座を通じて投資初心者の方が初めて株式や投資信託を購入するというケースも少なくないようです。
個別株に投資を行った場合、株主という立場になるため、配当の支払いや株主優待の案内が届くようになります。1つ1つ投資に対する理解を深めていきたいところですが、今回のテーマは「貸株」です。「株を貸す!?」とちょっと難しく感じるかもしれませんが、基本的な仕組みから紹介していきます。
貸株とはどんな仕組み?
貸株とは文字通り株を貸し出すことです。一度購入した株式は証券口座で保管されることになります。都度、配当金や株主優待を受け取ることはできますが、売却するまでずっと保管したままということになります。
現在、株式など有価証券はペーパーレス化により、株券を手にすることはできないためイメージしづらいところがありますが、株券が発行されていた頃は、手元などで保管する人もいたのです。
その株券をそのまま保有しているだけではなく、「しばらくの間、貸してあげるよ。その分、金利をちょうだい」と言うのが貸株となります。貸す相手は口座を開設している証券会社になります。証券会社に株を貸すことで金利をもらうことができます。
証券会社はその株式を、信用取引で別の人に貸すことができます。よって、貸株サービスを通じて投資家から株を貸してもらい、その株券を信用取引をしている投資家に貸し出すことで有効活用が可能になっているのです。
「貸株を貸す?」とさらに分かりにくくなったかもしれません。もともと松井証券が「預株サービス」をはじめたのが最初であると言われています。現在は楽天証券やSBI証券はじめ、特に若い人に人気のネット証券各社は積極的に貸株サービスを展開しています。
ここまでを整理すると以下のようになります。
・購入した株式は証券口座で管理されている
・株式を保有している期間、証券会社に貸し出すことで金利がもらえる
・証券会社は信用取引で借りた株を活用することができる
なぜ金利がもらえるのか?証券会社は借りた株をどうしているのか?いろんな疑問があるかもしれませんが、そのためにはまず理解しておきたい「信用取引」について解説します。
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信用取引とは?
信用取引
【画像出典元】「stock.adobe.com/Golden Sikorka」
保有している株を証券会社に貸し出すことで金利がもらえることを紹介しましたが、「そんなうまい話があるのか?」とまだ疑心暗鬼の人もいるでしょう。そのためには「信用取引」について理解しておく必要があります。
信用取引とは通常の株の売買とは違い、投資家が証券会社からお金や株を借りて、その分の保証金を預けて行う取引です。例えば100万円のA株を買いたい場合、通常であれば100万円の資金が必要です。ただし、信用取引はお金を全額、証券会社から借りてA株を買うことができます。100万円の30%にあたる30万円を保証金として差し入れる必要がありますが、保証金30万円で100万円、実質3.3倍もの取引ができるため、ハイリスク・ハイリターンの取引となります。
一方、お金ではなくA株を借りて売却することもできます。「信用売り」または「空売り」とも言われます。証券会社からA株を借りてまず売却します。その時の値段が100万円だったとします。その後、80万円まで値下がりした場合、そこで買い戻し、証券会社に借りたA株を返します。
一旦、証券会社から借りた株を売却したことで100万円を手にして、その後、その株を買い戻すために必要だったのは80万円であるため、差額の20万円が手元に残ります。これが利益となります。
信用売りは値段が下がることにより利益が出る取引です。この場合も保証金が必要となりますが、やはり保証金に対して大きな取引ができるため短期間で利益や損失が出やすいです。
こういった信用取引は一定の保証金を預けることができる人や投資の知識や経験がある人が対象となります。この信用取引は証券会社からすると大きな取引を短期的に何度も行う投資家がいるため、その分、手数料を受け取ることができ大きな収益へとつながっていきます。よって、信用取引を希望する投資家に「お金を貸す」「株を貸す」体制を整えておくことが重要なのです。
そこで問題なのが、「株を貸す」ことです。信用取引で空売りを希望している投資家に株を貸すためには証券会社が在庫としてその株を保有していなければなりません。どの株でも簡単に貸せるというわけではありません。様々な銘柄を有しておくことで、信用取引を希望する投資家に対応できるのです。よって、信用取引で空売りを希望している投資家に株を貸すために、「貸株サービス」を展開しているのです。
信用取引をしない一般の投資家の人も含め、株券を保有している人から株券を貸してもらうことで有効活用できるというのはこういうことです。収益に貢献するため、株を貸してくれた人に金利を払えるのです。