障害者に対する「合理的配慮」に“限度”は存在するのか 改正法が企業・事業者に課す「義務」を弁護士が解説

2021年に「障害者差別解消法」が改正され、今年の4月1日から改正法が施行されている。

改正法の最大の特徴は、障害者への「合理的配慮」が、公的機関のみならず一般企業(事業者)にとっても「義務」とされたことだ。

施行直前の3月には、映画館で車いすインフルエンサーの中嶋涼子さんに従業員が行った対応が問題視され、イオンシネマが謝罪文を公開した経緯が話題になった。

障害を持つ顧客や従業員への合理的配慮を実現して、法令違反による罰則を避けるため、事業者はどのような点に注意すべきか。企業法務に詳しい伊崎竜也弁護士が解説する。

そもそも「合理的配慮」とは?

ひとくちに「合理的配慮」といっても、具体的にはどんなことを意味しているのか。

実は、障害者差別解消法には、合理的配慮の定義は記載されていない。

しかし、障害者権利条約では「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている(障害者権利条約2条)。

「少しわかりにくいですが、合理的配慮のポイントは、下記の二点です。

1:必要かつ適当な変更・調整であること

2:均衡を失くしたり、過度な負担となったりしないこと」(伊崎弁護士)

「1」については、どのようなものが必要かつ適当な変更・調整であるかは、障害の内容や程度、また企業の事業内容などによっても異なるため、一概には判断できない。

さらに、どのような変更・調整をするかについては、事業者と障害者との間で「建設的対話」をすることが必須であると考えられている。

企業に求められる配慮には「限度」がある

さまざまな障害の特性や、障害ごとの主な対応方法については、厚生労働省のガイドラインにおいて具体例が示されている。

一例を挙げると、車いす使用者は脊髄を損傷しており体温調節障害を伴う場合もあることから、「室内の温度管理に配慮する」などの対策が記載されている。

もっとも、「障害者の社会的な障壁を除去する」という目的のためにあらゆる対応を行うことが求められると、事業者にとっては過度な負担となるだろう。

そのため、上記「2」によって、事業者がしなければならない対応に上限が設けられている。

具体的には、企業が合理的配慮を実践する必要があるのは、下記の三点を満たす場合に限られる。

(1):本来の業務に付随するものであること

(2):障害者でない者との比較において、同等の機会を提供するためのものであること

(3):事業の目的や内容等の本質的な変更に及ばないこと

「たとえば、レストランで食事介助を求められた場合を考えてみましょう。

食事介助は福祉施設やヘルパーの専門分野であり、レストランにおいては本来の業務として取り扱っていません。

したがって、(1)と(3)を満たさないことから、断っても問題はないと考えられます」(伊崎弁護士)

障害者権利条約は2006年に採択

そもそも、障害者差別解消法はどのような経緯で制定されたのか。

「過去、障害者が受けている差別や不利益な取り扱いに対処するため、権利擁護に向けた動きが国際的に加速しました。

2006年に国連が障害者権利条約を採択し、2007年には日本もこの条約に署名しました。

その後、内閣において「障がい者制度改革推進本部」や「差別禁止部会」が設置されて、議論を重ねた末、2013年に障害者差別解消法が制定されたのです」(伊崎弁護士)

2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催後には、障害者との共生社会を実現する動きはさらに高まり、障害者差別解消法の改正につながった。

障害者との共生社会を実現するために

4月から改正法が施行されたことにより、今後、社会にはどのような変化がもたらされるのだろうか。

「改正前は事業者の合理的配慮は“努力義務”にとどまっていたのに対し、改正後には“義務”となりました。

障害者の求めに対して「合理的配慮」をしない事業者は、厚生労働大臣から指導や助言をされたり報告を求められたりする可能性があります(障害者差別解消法12条、8条)。もし報告しなかった場合や虚偽の報告をした場合には、罰則が科せられる可能性もあります(障害者差別解消法26条)。

ただし、罰則によって事業者に「合理的配慮」を強制すること自体は、今回の改正の主な目的とは考えられません。

むしろ、障害者に対する「合理的配慮」に関心が高まって、より良い共生社会に向けて事業者が自発的に行動することを期待するための改正と考えるべきでしょう」(伊崎弁護士)