手続きで障害年金の受給は決定したが、思わぬ落とし穴が
FPから話を聞いたAさんは、すぐに通っている病院や最寄りの年金事務所で詳細を確認し、障害年金の請求手続きを行いました。そして、審査の結果、障害厚生年金3級の受給が決まったのです。
障害年金は、障害の程度に応じて受給額が定められています。Aさんが認定された障害厚生年金3級は、日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある状態とされています。
そして、Aさんの受給額は、障害厚生年金3級の最低保障額である年額61万2,000円(月額5万1,000円)となりました。これは障害年金のことを知らずに請求手続きをしないままでは受け取れなかったお金です。また、この先も状態が変わらなければ、更新の手続きをすることで受け取り続けることができます。
一方で、Aさんが足の病気を患ったのは14年前です。本当であればこの14年間で800万円以上を受け取れていた計算です。ところが、受け取れたのは過去5年分の約300万円のみ。年金事務所の担当者はこう言ったのです。「5年を経過した分は時効があるので受給できません」と……。
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時効がある年金はその存在を知ることから
障害年金の受給額決定後、改めてAさん夫婦はFPの元を訪れ、こう話しました。
「今回教えていただいたおかげで、障害年金を受け取れることになりました。知らなければもらえなかったお金なので、ありがたいです。でも年金って時効があるんですね。『年金は自分で請求しなければもらえない』と年金事務所の人にも言われたけれど、金額が金額だけに正直ショックが大きくて、しばらく引きずりそうです」と、率直な気持ちを聞かせてくれました。
制度の存在を知らなかったことで、本来受け取れるはずだった500万円以上を受け取ることができなかったのですから、Aさんの複雑な気持ちもうなずけます。手術をした当時から障害年金を受け取れていたら、お金の不安がなくなり、精神的にもっと楽だったことでしょう。
「通っている病院でこの制度のことを教えてくれていたら」とも思うかもしれません。親切に病院側から教えてくれるケースもあるかもしれませんが、基本的に自分から医師に障害年金受給の意思を伝え、手続きをしなくてはならないのが現状です。
その後、FPはAさん夫妻の将来への不安を解消すべく、手にした300万円の活用方法を提案しました。相談を終えたあと、Aさんはこう言いました。
「足は不自由になったし、障害年金のことを知らずに損した分についても、モヤモヤはあります。でも、病気から回復して生きていること、働くことができていること、そして、何よりいつもそばで支えてくれる妻がいること。本当に感謝しています。これからは、国の制度にもっと関心を持って、大切な家族との暮らしを守っていきます」。妻Bさんと微笑み合う姿はとても幸せそうでした。
社会保険制度は、私たちの暮らしを守ってくれるありがたい存在ではあるものの、なかにはあまり周知されていない制度もあります。障害年金もそのひとつでしょう。
制度を知らないことには活用することもできません。まずは、国の制度を知ることが、ご自身や家族を守ることに繋がります。〈もしも〉のときには、利用できる制度をしっかりと活用できるように、公的機関や専門家に相談するといった行動に移されることを願います。
南 真理
ファイナンシャル・プランナー