航空燃料「SAF」の普及が地球温暖化を防ぐ一助となる

飛行機などに使われる航空燃料は、基本的に原油を燃やして精製するため、航空需要の増加に伴い大気中のCO2(二酸化炭素)の量も増えています。

そんな中、次世代の航空燃料として注目を集めているのがSAF(サフ)です。SAFは「Sustainable Aviation Fuel(サスティナブル・アビエーション・フューエル)」の略称で、廃食用油や植物・動物油脂、廃プラスチック、未利用木質など、化石燃料以外の原料から作られる「持続可能な航空燃料」の総称。従来の航空燃料の性能を維持しながら、CO2の排出量を大幅に削減できるため、現在、廃食用油の価値が世界的に上がっており、争奪戦が起きています。

一方で、日本国内ではほとんど普及しておらず、天ぷら油など飲食店で揚げ物に使われた廃食用油は、家畜の配合飼料原料になっていたり、海外にそのまま輸出されたりしています。

そんな中、全国各地から廃食用油を引き取り、バイオディーゼル燃料(※1)(C-FUEL※2)生産を行っているのが株式会社レボインターナショナル(外部リンク)。同社では廃食用油や、その他さまざまな原料からバイオ燃料を製造する研究開発に取り組むほか、2022年に日揮ホールディングス株式会社(外部リンク)コスモ石油株式会社(外部リンク)と3社で合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー)を立ち上げ、国内初の国産SAF大規模生産の実現に向け、プラント(生産設備)建設を行っております。


1.バイオ(バイオマス)燃料とは動植物などの生物から作り出されるエネルギー資源のうち、石油などの化石燃料を除いたもののこと。ディーゼルは船舶・航空機・車両などに広く使われるエンジン

2.レボインターナショナルの技術を使用し製造した、廃食用油が原料のバイオディーゼル燃料。レボインターナショナルの登録商標

今記事では、レボインターナショナルの炭素源循環推進部に所属する立田真介(たつた・しんすけ)さんに、改めて同社の取り組みや、SAFが切り開く可能性についてお話を伺いました。


レボインターナショナルの公式サイトトップページ。画像提供:株式会社レボインターナショナル

コロナ禍を経て、航空分野におけるCO2の排出量が増加傾向に

――まずはレボインターナショナルの設立背景や、事業内容について教えてください。

立田さん(以下、敬称略):会社設立は1999年ですが、それ以前からボランティア団体として発足し、河川の空き缶回収などを行う活動を行っておりました。

代表を務める越川哲也(こしかわ・てつや)は当時、廃食用油からバイオディーゼル燃料を作る技術を、京都大学の名誉教授であった故・清水剛夫(しみず・たけお)より学び、自身でも研究開発に取り組んでいました。

この技術を本格的に事業展開するにあたって会社を立ち上げ、当初は軽トラック1台で京都の飲食店さんを巡ってお声がけをしては、廃食用油を引き取っていたそうです。

それまで、廃食用油は1缶につき500~1,000円の産業廃棄物処理費を払い、業者に引き取ってもらうのが一般的でしたが、レボインターナショナルでは量にかかわらず1回5円で買い取る形をとることで、飲食店さまには非常に喜んでいただきました。

こうした動きが広がって、安定的に原料である廃食用油を引き取る仕組みを構築すると同時に、技術開発も続け、高品質なバイオディーゼル燃料「C-FUEL(シーフューエル)」を製造すると共に、新たな原料や技術を用いて、SAFやHVO(※)などの製造・研究開発に取り組んでいます。


水素化植物油。植物油と動物性脂肪から製造されたバイオ燃料

――国土交通省(外部リンク)によると、日本のCO2総排出量(2022年度)のうち、運輸部門からの排出が18.5パーセントを占め、国内航空のみだと5.1パーセントとのことでした。航空は環境負荷が高い交通手段であるといわれていますが、これは増加傾向にあるのでしょうか?

立田:そうですね。コロナ禍以前の2019年の航空利用者は45億人でしたが、2024年は47億人に上るという見通しがあり、今後もますます増えると考えられます。また、国際航空分野におけるCO2排出量は世界全体の約1.8パーセントを占めるといわれていて、世界的にもSAFの導入が進んでいます。


参考:航空脱炭素化の取組の進捗について|国土交通省 航空局(令和4年11月)(外部リンク/PDF)

――そもそも「SAF」とはどんな燃料なのでしょうか?

立田:SAFとは石油、石炭、天然ガスといった化石燃料以外の素材から作られる航空燃料の総称で、大きな特徴は従来の燃料に比べて約80パーセントのCO2が削減できること、そして従来の燃料と変わらぬ性能で使用できるため、既存のインフラをそのまま使用できるという点にあります。

国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)では、2050年までに航空分野における温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを掲げ、加盟国ではさまざまな取り組みが行われています。日本においては2030年までに国内の航空燃料使用量のうち、10パーセントをSAFにすることを目標に掲げています。

1リットルの廃食用油からできるSAFは約800ミリリットルで、残りの200ミリリットルは軽油やナフサ(※)などの燃料になります(サファイアスカイエナジーの堺プラントの場合)。

SAFの原料としては廃食用油以外にも、アルコール、海藻類、都市ゴミなども原料になり得るのですが、コスト採算性や燃料製造時のエネルギー投入量を考えた場合、やはり固形物より液体の方が良く、廃食用油が最良の原料であると考えられています。


原油を蒸留・分離した際に得られる石油製品の一つで、さらに熱分解を進めることで、さまざまな基礎化学品を取り出すことができる。参考:プラスチックの原料「ナフサ」とは? プラスチックの種類や課題と、プラスチックのこれからも解説(外部リンク)


廃食油を高圧下で水素化分解・還元処理をすることで、SAFになるという

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国産SAFの製造・普及に向けて、国内初の大規模生産プラントを建設中

――国内では2030年までに10パーセントをSAFに置き換える目標を掲げているとのことですが、現状ではどれくらい普及しているのでしょうか?

立田:残念ながら、国産SAF利用という部分ではほぼ0パーセントです。一部ではテスト的にSAFを導入している企業もありますが、多くは海外から輸入したものです。

――なぜ日本では普及が進んでいないのでしょうか?

立田:そもそも国内にはSAFを大規模に生産できる施設がないということに加えて、安定した量の廃食用油を確保することの難しさがあります。

国内全体で年間約250万トンの食用油が流通していて、その内、再利用可能な廃食用油は約38万トンといわれているのですが、約半数は鶏や豚の飼料に再利用されています。ただし、廃食用油を飼料として使用することは、食の安全性の観点から欧米諸国では全面的に使用禁止されており、こうしたことの周知や、廃食用油をSAF原料として供給する意義を高める必要性を感じています。

最も大きな問題は、廃食用油の3割以上が国外に輸出されているという点です。このままですと、海外に輸出した廃食用油で作ったSAFを、日本の航空会社が高いお金を支払って輸入するというねじれ現象が起きてしまいます。さらに言えば、その輸出入の際には大量のCO2も排出することになるでしょう。

こうした状況下のもと、日揮ホールディングス、コスモ石油と3社合同でSAFFAIRE SKY ENERGYを立ち上げました。現在、コスモ石油堺製油所内に日本初の大規模な国産SAF生産プラントを建設中で、2025年の運転開始を目指しています。

一方、弊社では、現在愛知県田原市にC-FUELやSAF、HVOを生産できる設備を建設しており、2025年初頭には竣工する予定です。


コスモ石油堺製油所内に建設中のSAF生産プラントは2025年から稼働予定。画像提供:株式会社レボインターナショナル

――現在、レボインターナショナルではどんな場所から廃食用油の引き取りをされているのでしょうか?

立田:スシローさまや鳥貴族さまといった皆さんもよく知っているような大手外食チェーンから、個人経営の小さなお店まで、約2万9,000店舗に上ります。店舗ごとに廃食用油が発生する量や保管スペースなどに合わせて、スタッフが1軒ずつ引き取りを行っています。