夏のボーナスが近づいてきたが、自分の支給額に満足している人がどれだけいるだろうか。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)の調査によると、2人に1人が「賞与が少ない」ことを理由に転職を経験している。そして、自分が理想とする賞与額と実際の額との差が約43万円もあるという。
「そんなに出せないよ」とお困りの企業、そして納得がいかない従業員双方に対する見解を、調査をまとめた朝比奈あかりさんに聞いた。
部長クラス、理想の賞与額と現実の額の差が123万円!
マイナビのキャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかりさんがまとめたのは「夏のボーナスの理想と現実 企業が知るべき従業員の本音【2024年夏のボーナス調査】」(2024年6月6日付)というリポートだ。
調査(2024年5月1日~7日)は、全国の20~50代の正社員のうち4月に転職活動をしたか、今後3か月に転職活動を始める予定の1342人が対象。
「賞与の少なさが理由で転職したことがある」と答えた人は49.2%と約半数に。「一番ではないが、転職理由の1つだった」と答えた人も約3割(28.2%)に上り、賞与の少なさは転職意欲に大いに関わることがわかる【図表1】。
賞与の少なさが一番の理由で辞めた人は、20代が一番多く35.2%だが、その時の平均賞与額は18万4000円だった。50代でも12.5%おり、26万6000円だった【図表1】。
では、いくらの賞与額なら満足だったのか。【図表2】が、自分が理想とする賞与額と、実際の賞与額(前年賞与・今年の予想賞与)の差を表わしたグラフだ。
全体では、理想の賞与額の平均は94万8000円で、実際の額との差は約43万円もある。これでは確かに納得できないだろう。
役職別にみると、興味深い結果が出た。部長クラスの差が飛び抜けて大きいのだ。理想の額がなんと212万4000円もあり、実際の額との差は約123万円に達する。ところが、課長クラス以下では差は30数万円だ。
ところで、賞与額に納得していない人は、同時に、自分に対する評価にも納得していないことがわかった。
【図表3】が、両者の相関関係を示したグラフだ。相関係数は0.765で、統計学上0.7以上は「かなり強い相関関係がある」とされる。
「昨年夏の賞与支給額に納得しているか」という質問に、「そう思わない」人の合計が53.6%だった。一方、「直近の自身の評価に納得感があるか」という質問に、「そう思わない」人の合計が57.6%だった。賞与への納得感が低い人ほど評価への納得感も低い傾向となった。
こうしたことから、朝比奈あかりさんはこう指摘している。
「賞与支給額に対する納得感は、自分の評価に対する納得感と密接に関連しています。賞与額を増やすことが理想ですが、難しい場合でも支給額や評価に対する説明の機会を設けたり、評価制度を改善したりすることで、授業員のモチベーションを高め、定着率の向上にもつながると考えられます」
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20代の生活苦が深刻、4人に1人「子どもをもつのに消極的」
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかりさんに話を聞いた。
――自分が理想とするボーナスの額と、現実にもらう額の差がすごいですね。平均43万円ですが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの今夏ボーナス支給額予想(4月9日発表)では、民間企業で1人当たり40万8770円です。それを上回る額です。
また、理想のボーナス平均額が、94万8000円になっていますが、これは昨年8月に経団連が発表した大企業の夏のボーナス平均妥結額90万3000円を上回る額です。転職を目指す人は、ことボーナスに関しては野望が大きいというか、志が高いのでしょうか。
朝比奈あかりさん 調査では、自分の働きに見合った額を、理想のボーナス額として聞いています。決して非現実的な額ではなく、自分の頑張りや、仕事の成果が正当に評価されれば、このくらいの額になるということだと思います。
また、収入に関する意識が強まっているのは確かです。毎年転職者の調査を行なっていますが、コロナやウクライナ戦争で物価高騰が激しくなった2021年頃から、「給与が低いから転職した」「給与が高いかどうかで転職先を決めた」など、給与が転職の決め手になった割合が非常に高くなっています。
野望があって転職をする方もいると思いますが、単純に生活が苦しい方も一定数いると推察しています。特に若い世代は深刻です。マイナビでは昨年(2023年)11月、20代の正社員を対象に「仕事と私生活の意識調査」を行いました。そのなかで、子どもがいない20代男女に「子どもがほしいか」と聞いたところ、4人に1人以上が「ほしくない」と答えました。
――それはなぜですか。
朝比奈あかりさん 「どんなことあっても、子どもはほしくない」という人も1割以上いました。既婚の男女からこんな意見が寄せられました。「お金が足りない。養育費が払えない」「自分の生活で精いっぱい。子どもを育てる責任が持てない」。なかには「生まれてくる子どもを、不幸にさせてしまう」という人さえいました。ショッキングな調査結果で、深刻さを強く感じました。
――若い世代は、より収入がよい転職先を探さなくてはならないほど追い詰められているということでしょうか。
朝比奈あかりさん 将来への強い不安感を持つ若者は増加しているのではないかと考えています。背景には、終身雇用と年功序列を中心とした日本型雇用の見直しが進んでいることがあげられます。昭和の高度成長期には、若い世代の収入は低かったのですが、企業に残って頑張っていれば、終身の雇用と昇進・昇給が保証されていました。
ところが現在、終身雇用が崩れて人材が流動化しているにもかかわらず、年功序列の部分だけはまだ続いている企業が存在し、若い世代が低収入のまま取り残されています。つまり、若年層にしわ寄せがきているのです。
――なるほど。それで転職理由のトップに「賞与が少ない」を挙げる20代が3割以上もいるわけですね。