June.14 – June.20, 2024
Saturday Morning
Title.
室内のためのピアノ小品集 第5番
Artist.
高橋アキ 「七人の侍」「羅生門」など、黒澤作品の映画音楽で知られる早坂文雄による「室内のための」と銘打ったピアノ小品集。
部屋でひとり、つま弾くようにピアノを鳴らし、それに耳を傾けるという行為。それは、コンサートホールという日常と隔絶した空間で音楽と対峙する、クラシック音楽の聴取とは対極にある音楽受容の姿勢と言ってもいい。
早坂はこの作品の作曲ノートで「日本には芸術を生活化するという特性がある」と指摘する。彼が目指したのは「日常生活における深い静かなそして短くとも芸術味に富んだピアノ曲」だ。
この曲集の15の小品はいずれも日本の香りがする。民謡やわらべ歌に潜む日本音楽のDNAを作品へと巧みに昇華したもの、そして、どこか大陸の匂いのする音楽もある。紹介する5番も、空間を感じる音の間合い、笙を思わせる中間部の和音の動きが、やはりどことなく日本(と大陸)を喚起する。
早坂はこの曲集を「孤独な月の夜に、また雨の日やよく晴れた朝にも弾いてくれるであろう」と演奏者に託す。朝に弾いたら、私は一日身が引き締まる。「ピアノ小品」というジャンルで究極の理想。手の届かない永遠の憧れ。
アルバム『室内のためのピアノ小品集』収録。
Sunday Night
Title.
ちんさぐの花
Artist.
坂本龍一 ロック、ポップス、クラシック、そして沖縄やアフリカが、絶妙なバランスで融合した坂本龍一の素晴らしいアルバム、「BEAUTY」の10曲目に収録。言わずとしれた沖縄民謡の名曲「ちんさぐの花」のアレンジだ。
古謝美佐子らが三線の弾き語りを3コーラス終えると、2小節の三線の間奏が、永遠と言っていいほどの回数繰り返される。そしてその上に、シンセのストリングスが静かに立ち現れる。恍惚を誘うその和声や旋律は映画『ベニスに死す』で有名になった、マーラーの交響曲第5番の4楽章を思い起こす。
ある地域の土着の音楽を、西洋音楽のドレミのルールの中に落とし込むという事、それは、西洋音楽の枠組みの中にその音楽性を閉じ込める作業とも言える。それを聴く痛みを少しも感じないかと言えば嘘になる。が、音楽において、この「ちんさぐの花」ほど美しく見事に、異質なものが融合された例を、私はそれほど知らない。
毎年、夏になると必ず沖縄にでかけている。6月はそろそろ旅の計画を立てる時期だ。そして沖縄戦で組織的な戦闘が終わった慰霊の日(6月23日)がある。沖縄を思う日が多くなり、スマホに入れたこの曲の再生回数もぐんと上がる。
アルバム『BEAUTY』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ
音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。
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作曲家、ピアニスト 岩村竜太
新潟市出身、東京都在住。24調24曲のピアノ小品集『Sunday Impression』『Monday Impression』、読書のBGM、”聞くために読む”『Reading to Hear』、雨音と音楽の境界を行き交う『Raining to Hear』、都市のノイズと音楽のコラージュ『CITY』、トイ楽器と生活騒音の共鳴『Symphony』など、常に音楽と音、その聴取のあり方を問いかける作品を発表してきた。