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●実は洋食屋が多い京都。花街で愛される『グリル富久屋』の名物メニュー「フクヤライス」を食べてきた。

 カラッと晴れた日が多く、おでかけにぴったりな季節がやってきました。歴史的な名所や風情ある街並みが人気の観光地・京都への旅行を計画している人も多いでしょう。旅の楽しみといえばやっぱりグルメ。京都グルメと聞くと、懐石料理やおばんざいといった、和食のイメージが強いですが、ハンバーグやオムライス、ナポリタンなど昔ながらの洋食も有名です。

 とくに、花街には老舗洋食屋が点在しており、芸妓さんや舞妓さんのリクエストから生まれた名物メニューが楽しめます。累計発行部数350万部を突破した大人気コミック『舞妓さんちのまかないさん』にハマった筆者。舞妓さんたちがどんなものを食べているのか知りたくなり、花街で愛される名店に行ってきました。

花街・宮川町で愛される『グリル富久屋』


レトロなレンガ造りの店構え

 京都には「祗園甲部(ぎおんこうぶ)」「祗園東(ぎおんひがし)」「先斗町(ぽんとちょう)」「宮川町(みやがわちょう)」「上七軒(かみしちけん)」という5つの花街があり、総称して京都五花街(ごかがい)と呼ばれています。

 1907年(明治40年)創業の『グリル 富久屋』は、五花街のひとつ・宮川町に店を構える老舗洋食店。京阪電車・祇園四条駅から徒歩10分、八坂神社や花見小路通といった名所が集まるエリアにあるため、観光ついでに立ち寄れます。

 花街で人気とのことで高級そうなお店を想像していたのですが、訪れてみるといたって普通の洋食屋。華やかなイメージとのギャップに、親近感が沸いてきました。店内では地元の常連さんと思われる方が食事を楽しんでおり、のんびりとした空気が漂っています。


運が良ければ舞妓さんに出会えるかも

 壁には芸妓さんや舞妓さんがお得意先へ配るうちわがずらり。イートイン以外にも、置屋さんにお弁当を配達したり、座敷での宴会用にオードブルを作ったりと、長年花街で親しまれています。

芸妓さんの声から生まれた「フクヤライス」


「フクヤライス」980円

「フクヤライス」は、わざわざ遠方から食べにくるファンもいるという名物メニュー。とろとろの半熟卵の上にトマトやグリンピース、マッシュルームなど色とりどりの具材がのっていて、花街らしい華やかな見た目にテンションが上がります。

 芸妓さんの「やわらかオムライスが食べたい」というリクエストから誕生した「フクヤライス」。ほかのお客さんから「私もあれが食べたい」という声が増え、レギュラーメニューに昇格しました。初めはカニやマツタケといった高級食材を使っていましたが、ハムやトマトに変えて手頃な値段で提供できるようにしたそうです。


カラフルな具材がたっぷり [食楽web]

 一口食べてみると、卵のまろやかさにハムの旨み、プリプリのマッシュルームなど、いろいろな食感と味が口の中を駆け巡ります。ソースやケチャップがかかっていない分、それぞれの具材が際立っていて、いままで食べてきたオムライスとは全くの別物。トマトの酸味がアクセントになり、さっぱりとした味わいです。


ケチャップライスはバターライスに変更可

 卵を2個使った半熟オムレツの下に隠れているのは、ハムと玉ねぎが入ったシンプルなケチャップライス。素朴な味のライスにフレッシュトマトの爽やかさ、ふわふわとろとろの卵が見事に調和していて、初めて食べたのになぜか懐かしさを感じる不思議な味でした。

 食べ終えた後に何気なく口の周りを拭うと、一切汚れていませんでした。もしかしたら、舞妓さん、芸妓さんのおちょぼ口でも綺麗に食べられるよう、ソースやケチャップなしのオムライスを作ったのかも……。「フクヤライス」の誕生秘話に思いを馳せながら店を後にしました。

調査結果

 常連の芸妓さんのリクエストから生まれた「フクヤライス」は、花街の華やかさをイメージさせるユニークな一皿でした。このほかにも、ビーフシチューやカツサンド、ポークチャップなど、昔懐かしい洋食メニューが勢揃い。せっかく京都を訪れたなら、花街ならではのグルメを味わってみてはいかがでしょうか。

(撮影・文◎安達春香)

●SHOP INFO

グリル富久屋

TEL:075-561-2980
住:京都府京都市東山区宮川筋5-341
営:12:00~21:00(L.O.20:30)
休:木曜、第3水曜休