2023年の落とし物数は「物品」約2979万点、「現金」約228億円で過去最多…拾得後の対応しだいで「懲役」も!?

2023年の1年間に全国の警察に提出された拾得物は、「物品」が約2979万点、「通貨」が約228億円で、いずれも過去最多だった。要因について警察庁は、昨年いわゆるコロナ禍がひと段落し、人流が復活したことで前年比でも大きな増加につながったとみている。

落とし物の中には、ワイヤレスイヤホン、携帯用扇風機、モバイルバッテリーなどもあり、小型の便利アイテムの浸透で、その種類も多様化の傾向にあるという。

また、「動物」の拾得の届け出も約2万5500点あった。動物については、警察施設に専用設備が必ずしもあるわけでなく、警察職員も専門知識があるわけではない。5月16日の国家公安委員会委員長(代理)記者会見では「動物の健康・安全を保持する上で、警察職員に大きな負担がかかっていることも否めない事実」と述べられている。

持ち物のモバイル化で落とし物増加を誘発

家電製品等のモバイル化による持ち物多様化は、落とし物の増加を誘発。警察業務の負荷となっている側面は否めない。そうした中で警察庁も対策に動いている。

遺失届のオンライン提出、拾得物情報の全国一括検索等を可能とするシステムの拡充などにより、こうした業務の効率化を図っている。

また、動物については、関連の行政機関・団体との連携強化に努め、最適化を進めているという。

拾ったら知っておくべき落とし物のルール

では、落とした人、拾得した人は、より円滑な解決のためにどうすればいいのか。大前提は、落とし物に関するルールと手続きについて知っておくことだ。

<お店などの施設で拾った>

この場合は、警察署ではなく、当該施設に届けるのがルール(遺失物法4条2項)だ。遺失物の占有・管理権は施設管理者にあるからである。拾得者の「権利」の行使を考えているなら、拾ってから24時間以内に届ける必要がある(遺失物法34条3号)ことも忘れてはならない。

届け出ると施設から住所、氏名、連絡先、拾得日時、場所、権利に関する意思、氏名等の告知同意の有無などが確認される。これら手続きを行うことで、後述する「拾得者の権利」が得られる。

<路上などの施設で拾った>

この場合は、届け出先は警察署長になる(遺失物法4条1項)。拾得者の「権利」の行使を考えているなら、拾ってから1週間以内に警察署に届ける必要がある(遺失物法34条2号)。

届け出後に確認される事項は、店などの場合と同じ。確認後は、警察官から「取得物件預かり書」が交付される。この書面が、拾得物の所有権取得後に必要となる。

落とし物を拾った人の権利

落とし物を拾うと、その人に遺失物法によって、次のような権利が認められる。

(1)逸失者に法労金を請求する権利
(2)逸失者が見つからなかった場合、物件を受け取る権利
(3)物件の提出・保管に要した費用を請求する権利

(1)(2)はなんとなく知っている人もいるかもしれない。正確には、(1)は落とし主が見つかった場合にお礼として法労金を受け取ることができるというもの(遺失物法28条1項)。金額の幅も定められており、5%~20%となっている。例えば現金100万円を拾って、持ち主が現れた場合、最大で20万円の法労金を受け取れる可能性もある。

(2)は、落とし主が見つからなければ、拾った人がその所有権を取得するというもの。警察が落とし主を探し始めて3か月が経過して見つからなかった場合、所有権が移転する。それまでは6か月だったが、平成18年の法改正で半分に短縮された。

なお、この時重要になるのが、「取得物件預かり書」。ここに記載された引き取り期間が期限となる。引き取り期間は2か月で、それを過ぎると所有権は都道府県に帰属する(遺失物法36条)。

(3)は意外に知られていないかもしれないが、諸費用の請求を落とし主にできる権利だ。ただし、落とし主が見つからなければ、拾った人が警察署が保管に要した諸費用を負担することもある。

動物は届け出義務なし

ちなみに、2023年度に約2万5500点あった「動物」については、遺失物法4条1項および2項の規定は適用されない(遺失物法4条3項)。動物を拾得した場合は都道府県などに引き取りを求めることができる(動物愛護法35条3項)。そのため、警察署や施設への届け出義務はない。

とはいえ、実際に警察署に届け出られているように、受け取ってはもらえる。また、拾った人が希望すれば、3か月たっても飼い主が見つからなければ、その所有権を取得できる。


この流れを把握しておくだけでも拾得後の対応が円滑に(警察庁HPより)

落とし物については、前述の通り、遺失届のオンライン提出、拾得物情報の全国一括検索等を可能とするシステムがかなり拡充されており、落とし物を拾った人もしくは落とした人はまず、警察庁HPの落とし物の届出・検索のページ(https://www.npa.go.jp/bureau/soumu/ishitsubutsu/ishitsu-todokedekensaku.html)へアプローチするのが最善かもしれない。

ネコババした場合、問われる罪

ところで、もし落とし物、例えば現金の入った財布を届け出ず、「ネコババ」したらどうなるのか…。

まず考えられるのが「遺失物等横領罪」だ。遺失物その他占有を離れた他人の物を横領する犯罪(刑法第254条)で、「占有離脱物横領罪」とも呼ばれる。刑罰は、「1年以下の懲役または10万円以下の罰金若しくは科料」となっている。最長で1年の懲役刑もあり得ることを考えれば、決しては軽くないといえる。

ネコババをして、窃盗罪(刑法235条)に問われるケースもある。たとえば、財布を落としたのを目撃し、落とし主がその場を離れていないのに落とし主に指摘せず、自分のものにした場合だ。また、ショッピングセンター等で施設内の落とし物をネコババした場合は、物の占有は施設管理者にあるので、窃盗罪が成立する。

上記の遺失物等横領罪との違いは、他者の占有を離れている物か否かにある。占有を離れている場合は遺失物等横領罪となり、占有を離れていない場合は窃盗罪が成立する。

窃盗罪になれば、罪は「「10年以下の懲役または50万円の罰金」。最長で10年の懲役刑となることからも、罪の重さがわかるだろう。

落とし物をして困っている人を助けたら

最後に、もし落とし物をして困っている人を目にして、助けたらどうなるのか。ある医師が電車内で財布を落として困り果てている高校生を目にし、名前も告げず6万円を貸した。2019年に沖縄で実際にあった話だ。

その後、医師の連絡先を知らない高校生が地元紙の取材を受け、お金を返したい旨を述べた。メッセージはネットニュースも手伝って医師の耳に届き、6万円は返金され、落とした財布も発見されて6万円も手つかずで戻った。

この話は中学3年生の道徳の教科書に掲載され、3月にその内容が文科省の検定を通過し、2025年春から使用される。