静岡県にある犬のブリーディング会社で、住み込みの従業員に対して行われた長時間労働とハラスメントについて、会社側に損害賠償を請求する訴訟の概要を説明する記者会見が18日に行われた。
訴訟の概要
被告は静岡県浜松市にあるブリーディング会社「有限会社クランバーアップ」。同社の代表取締役は、世界的なテリア専門のブリーダーである露木浩氏。
原告は現在25歳の男性。2019年3月に動物専門学校を卒業し、同月、クランバーアップ社で住み込みによる勤務を開始。2023年5月3日、午前2時に自室に入ってきた露木氏とチーフマネージャーのM氏から叱責を受け、同日にクランバーアップ社を退職した。
その後、2024年3月22日、東京地裁に提訴。
請求金額は未払い残業代が約912万円、付加金が約765万円、慰謝料が約330万円。合計で2000万円以上となる。また、2023年5月分の未払い賃金3日分の支払いも請求している。
昼食は取れず休日は週に1日、朝5時から深夜1時まで業務を行う日も
クランバーアップ社ではブリーディングおよびトリミングのモデルとして、ジャックラッセルテリアとボーダーテリアなどの犬種を70頭以上所有。また、顧客から数頭〜20頭の犬を預かっている。
原告は、社の所有する犬や預かっている犬の世話とトリミングなどの通常業務のほか、露木氏がドッグ・ショーに参加する日には同行業務を行っていた。休日は週1日、通常業務は7時から20時まで、その間の休憩は朝食・夕食の各30分のみ。多忙のため、昼食をとる時間はなかった。
ショーに参加する日は、準備のために朝5時から業務が始まり、現地での業務が終了するのは19時。その後もクランバーアップ社の犬舎に戻って片付けなどの業務を行うため、当日の業務が終了するのは早くて深夜の1時だった。
住み込みという特殊な形態の業務であったことから、雇用契約では所定労働時間数を定めず。しかし、原告が勤務していた当時、ほとんどの月で、労基法に基づく月平均所定労働時間(1ヶ月あたり約173.8時間または174.26時間)を超えた時間外労働を110時間~150時間行っていたこと、最長で合計の労働時間が約370時間となる月もあったことから、多額の未払い残業代を請求するに至った。
5月にWebで開かれた第1回期日の際、地裁に提出された準備書面によると、被告側は「ドッグショーへの同行は、自己研さんのために原告本人から同行を願い出たものであるため、労働時間に該当しない」などと主張して、原告側に反論している。
午前2時に部屋に押し入られ、脅迫や侮辱を含んだ叱責を受ける
2023年5月3日、原告は当時交際していた同僚の女性と共に自室で就寝していたところ、午前2時に露木氏とチーフマネージャーが部屋に押し入り、原告と同僚女性を事務所に呼び出す。その後、午前6時30分頃まで叱責した。
原告は当時の様子を録音しており、一部をYouTubeに公開している。
露木氏らによる叱責の音声が納められた動画
叱責には「調子こいてんじゃねえぞ、このクソガキ」「ヤクザの世界だったら指詰め。どうやってケジメつけるんだ」と威圧する内容のほか、「一番怒らしちゃ駄目な人を怒らせた。俺たちをなめてる。この業界で生きていくんだったら、どっかでつながるんだよね」と、ブリーディング業界における原告の進路を妨害することを示唆する、脅迫のような内容も含まれていた。
また、男性器を表す俗称を用いながら、原告を性的に侮辱する発言も多数含まれている。さらに、露木氏は叱責の最中に何度も「うなり声」を上げていた。
さらに、露木氏は叱責を終えた数時間後に原告の携帯電話を取り上げ、原告がハラスメントの証拠として記録していた写真や録音データなどを消去したという。
叱責は脅迫・侮辱・プライバシーの侵害などを含むハラスメントであったとして、原告側は慰謝料を請求。ハラスメントは他の日にも行われていたが、証拠が残っていないことから、5月3日の出来事だけを請求の対象とした。
一方、準備書面によると、被告側は「原告が過去に複数の女性社員にセクハラ・パワハラを行い退職させるに至った」「“犬舎敷地内で性交渉を行わない”という約束を、原告が破った」などと主張。
また、原告と同僚女性が性交渉を行うために犬を屋外に放置したことなどを指摘しながら、「叱責の程度として行き過ぎた点があることは否定できないが、違法性はない」と主張している。
会見の最後に、原告男性は「こういった環境を無くしてほしいと思い、勇気を出して、提訴をした」と語った。
第2回期日では、第1回に引き続き弁論準備が行われる。7月17日(水)にWebで開かれる予定。