パナソニック「LUMIX」カメラ製品サイトで“写真素材”使用し謝罪…カメラマン弁護士「衝撃的」 法的問題も指摘

パナソニックから発売されているフルサイズミラーレス一眼カメラ「LUMIX S9」の製品サイトで、機能説明等に用いられていた写真が、有料画像サイトから利用許諾を得れば誰でも使用できるいわゆる「写真素材」だったことが判明し、SNS等を中心にカメラ愛好家から批判の声が噴出。先月31日、パナソニックが謝罪文を公表する事態となった。

カメラマン弁護士「非常に衝撃的」

製品サイトの写真は、カメラを選ぶ上で参考にする人も多いだろう。カメラマンとしての活動も行っている寺岡航弁護士も、今回の騒動について「非常に衝撃的なものでした」と話す。

「カメラを使用するユーザーにとっては、撮れる写真こそが当該カメラによって得られる最終的な成果物ですから、そのような写真が撮れると勘違いしてしまいかねない写真がサイトに使われることについて不満の声が上がることも無理からぬことでしょう」

カメラ販売サイトでの「写真素材」使用には法的な問題あり?

商品サイトで“商品ではない”カメラで撮影された写真を使用し、宣伝に用いていた場合、消費者をだますような表示を禁止した「景品表示法」や、「詐欺罪」等の法律に抵触しないのだろうか。

寺岡弁護士は、詐欺罪の成立は難しいとしつつ、「“優良誤認表示”として景品表示法に抵触している可能性はある」という。どういうことか。

まず、景品表示法の対象である「表示」とは、次のように規定されている。

「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう」(法2条4項)

さらに内閣総理大臣の指定のひとつとして、『情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)』が上げられている。(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3号))

このことから、インターネットにおけるメーカーの商品サイトでの写真掲載は「表示」にあたるとして、寺岡弁護士はこう説明を続ける。

「今回のケースの場合、景品表示法の『不当表示』、その中でも『実際のものよりも著しく優良である』と示す『優良誤認表示』(法5条1号)が問題になってくると思います」

「イメージです」表記あっても“優良誤認”と言えるか?

消費者庁は、公正取引委員会(平成15年10月28日)において、景品表示法の運用に下記のような指針を示している。

〈景品表示法による不当表示の規制は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者の適正な商品・サービスの選択を確保することを目的として行われるものであることから、「著しく優良であると示す」表示に当たるか否かは、表示の受け手である一般消費者に、「著しく優良」と認識されるか否かという観点から判断され、また「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、一般消費者による商品・サービスの選択に影響を与える場合をいう。(不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針)〉

「こうした消費者庁の指針を前提として考えた場合、仮に『写真はイメージです』などの注意書きがあったとしても、写真によっては“著しく優良に表示した”と言える場合もあり得ると思います。

カメラという商品は写真や動画を撮ることがその目的ですから、どのような写真が撮れるかという点が消費者にとっては重要です。本来そのカメラで撮れる写真とは全く異なる写真(たとえば、精細さ、被写体の追従性能、色味などがそのカメラを使っても撮れないような写真)が同商品のサイト上で使用されていたとすれば、『イメージです』等と注意書きがあっても、消費者にとってみれば、イメージのような写真が撮れるのだろうと感じますから、著しく優良であると示されている状況と考えられると思います」(寺岡弁護士)


S9のサイトで使用されていた写真素材(Reddogs/shutterstock)

詐欺罪の成立が難しいワケ

ちなみに詐欺罪の成立が難しい理由は、「詐欺罪の成立には客観的な詐欺行為に当たる必要があるため」(寺岡弁護士)だという。

「どのような写真が撮れるかはカメラを選ぶ重要な要素にはなりますが、イメージ写真のみで購入を決める人はプロアマ問わずいないのではないでしょうか。

程度問題ですので、本当に“全く”イメージ写真とかけ離れた写真しか撮れない場合には欺罔(ぎもう)行為に当たる余地もある…とは思いますが、多少違う程度であれば、カメラの購入を決定する重要な事項に誤認があったとは認められにくいと思います」

また、仮に欺罔行為であったとしても、詐欺罪の成立には、企業側に詐欺の故意が必要であり、「内部資料や決裁書などに虚偽の画像であることを認識している旨の記載があれば別ですが、そうでなければ故意の立証は非常に難しいでしょう」(同前)

弁護士としての評価、カメラマンとしての思い

今回の騒動を受けてパナソニックは、冒頭のように謝罪文を公表し、再発防止策として以下のような対策を講じることを明らかにした。

①現在のLUMIX製品WEBサイトに使用している画像の詳細確認を行い、必要な修正を早急に実施する。
②今後制作するLUMIX製品紹介ページで使用する画像については、「全て自社カメラ製品で撮影した画像を使用する」こと、「使用する画像については使用機材を明記する」ことを明確に規定し、WEBサイト制作プロセスにおいて、画像の詳細確認を行う仕組みを構築し、再発防止を徹底する
(参考:https://panasonic.jp/dc/info/20240531.html)

寺岡弁護士は、パナソニックの再発防止策を評価した上で、「弁護士としては、インターネットサイト等についても弁護士のチェックを入れるなど、予防法務的な発想も大切と伝えたい」と話す。

一方、カメラマンとしての思いは異なるようで、最後にこう言い添えた。

「メーカーが最初からカメラを使用するユーザー目線で考えてくれていれば、問題になることが事前に分かったのではないかという思いがあります。メーカーにはカメラを購入するユーザーの視点からサイト作成やWebマーケティングを考えてほしいと思います」(寺岡弁護士)