デジタル製品パスポートのファッション業界への導入は、どうエコ活動につながるのか?

製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するために、さまざまな情報が記録されたデジタル証明、デジタル製品パスポート(DPP)。循環型経済に向けて、エコ政策に取り組む欧州連合(EU)は、自動車で推進していたデジタル製品パスポートを、2027年から繊維・ファッション産業にも導入する予定だという。マリ・クレール インターナショナルのイタリア版デジタル記事よりお届け。

ファッションにおけるデジタル製品パスポートは、私たちの買い物の仕方を変えるだろうか?

EUは2027年以降、衣料品やアクセサリーは環境への影響や生産工程の原産地を伝える必要があると定めた。それは本当に、私たちが買う量を減らしながら、より良いものを購入するのに役立つのだろうか?

まずはあまり知られていない、時に不可解な事実から始めよう。この地球上で毎年どれだけの数の衣服、パンツ、Tシャツ、靴、バッグが生産されているのか、正確には誰も知らない。その結果、どれだけの衣類やアクセサリーが店や倉庫に売れ残り、埋立てや廃棄物になるのか、誰も知らないのだ。

すでに数年前のもので、ウルトラファストファッションの爆発的な普及は含まれていないかもしれないが、いくつかの推測によると、年間800億から1500億着の衣服が生産され、そのうち70〜80%しか販売されていない。残りの衣服は、誰にも着用されることなく、捨てられるという不可解な道をたどることになる。

ファッション業界は長い間、過剰生産の問題に関して、自主規制や透明性を保つことができなかった。ちょうど私たち消費者が、ワードローブに詰め込んだまま、着ることもないものに制限をかけることができなかったように。

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EUは、持続可能な循環型繊維製品戦略の一環として、すべてのファッション、繊維、革製品を対象としたデジタル製品パスポート(DPP)の導入を2027年に予定している。このデジタルパスポートは、例えば生産量、素材、原産地、二酸化炭素排出量や水の消費量といった情報を消費者に伝えるために製品に添えられるものだ。

より信頼性の高いEUのデータによると、毎年5トン(1人当たり12kg)の衣料品が捨てられており、他の衣料品にリサイクルされているのはわずか1%に過ぎない。

「デジタルパスポートは、何よりも循環性のためのツールとして作られました。収集された情報は、製品のライフサイクル全体をカバーし、使用後や未販売品に新たな使い方を促したり、新たな回収・リサイクルの連鎖を供給したり、製品をレンタル、中古、修理などの異なるビジネスモデルに割り当てたりするためのものです。だから、管理されるデータセットにはメンテナンス、修理、リサイクルなどについての指示とアドバイスが含まれます」と「4sustainability」のCEO兼創設者で「YHub」の共同創設者であるFrancesca Rulli(フランチェスカ・ルッリ)は説明する。

前者(「4sustainability」)はファッションの環境・社会的影響を削減するためのサービス提供や持続可能性を保証するブランドであり、「YHub」はファッションのサプライチェーンのトレーサビリティと持続可能性のための革新的なサービスとデジタルプラットフォームを提供する、イタリア初の持ち株会社である。

「デジタル製品パスポートは、消費者がより意識的な購買決定をするために必要な情報を見つけ、持続可能性と循環経済問題に対する意識を高めるのに役立つことは間違いありません。意識的であろうとなかろうと、グリーンウォッシュ(エコに取り組んでいると見せかける)やソーシャルウォッシュ(社会的課題に取り組んでいると見せかける)において、操作されるリスクが減り、ブランドが消滅することも少なくなるでしょう」。

実際には、QRコードやその他の要素で、一連のオンラインデータや情報にリンクすることになる。そのデータフィールドはまだ正確に定義されていないが、Rulli氏はこう続ける。

「最終的な目標は、2030年までにEU市場に投入される繊維製品が、耐久性に優れ、修理やリサイクルが可能で、有害物質を含まず、社会的・環境的権利を尊重して製造されることです。そして、生産チェーンは環境および社会的リスクの観点から監視されます。消費者は製品の組成、推定平均寿命、使用方法とメンテナンス方法、マイクロプラスチックの放出の可能性、さまざまな生産段階に関連する水とエネルギーの消費とCO2排出、使用済み製品の管理方法、有毒・有害化学物質、回収と再利用のための情報などにアクセスできるようになるでしょう。

また、透明性という点では、製造工程の地理的情報です。これはつまり、少なくとも製品が店頭に並ぶまでの主な過程を消費者が再構築できるようにすべきだということです」

初めてのデジタルパスポートの実験は、実はいくつかすでに始まっている。というのも、データ収集プロセスは非常に複雑であり、一部の企業やブランドは、すべてのプロセスとサプライヤーを正確に追跡するために、今すぐにでも始めようと考えているからだ。

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イタリアとオランダのソフトウェア会社で、繊維とファッション企業の持続可能な移行における価値創造をサポートするRenoon社の共同創始者Iris Sjramiは、次のように説明する。

「ブランドにとってのチャンスは、先手を打って、他の市場プレーヤーと差別化し、イノベーションを生み出す新たな手段に注力することにあるのは確かです。すでに20以上のブランドが、Renoon社とともにデジタル製品パスポートを開始しています。これまで私たちの主要市場はイタリアにとどまっており、最後に提携したブランドは『Dondup』でしたが、すでにデンマークや北欧、フランス、オランダのブランドとも提携しています。EU加盟国以外も動き始めていて、例えば、アメリカ、オーストラリア、トルコの企業数社と交渉を開始しました」

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Renoon社はまた、タンザニアで作られたイタリアのエシカルファッションのスタートアップ、『Endelea(エンデレア)』の支援も支援してきた(Bコープ認証のブランド)。

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もうひとつのイタリアのサステナブルブランド、プラトを拠点とする『リフォ(RiFò)』は、ウールやリサイクル素材を専門に扱っているが、スペインのプラットフォームBComeと協力し、その成果が、いわゆる製品のライフサイクル(LCA-ライフサイクル・アセスメント)を計算するサステナビリティ・パスポートだ。その製品の業界標準と比較したパーセンテージでインパクトが報告され、理解しやすくなっている(徐々に、ブランドはパスポートを取り外し可能なラベルから、衣服に固定されたものに移行しており、購入後も参照できるようになっている)。

Rulli氏は、企業や消費者の考え方や行動に影響を与える真の文化的革命について話すことをためらわない。そして、それは真のメイド・イン・イタリーを実現するチャンスになるだろうと語る。Rulli氏は、ファッションのサプライチェーン(テキスタイル、皮革製品、パッケージング)において、このトレーサビリティとインパクト測定の道を歩み始めた何百ものイタリア企業と日々連絡を取り合っている。

「世間一般で、メイド・イン・イタリーは職人技、品質、スタイル、高級品を意味します。それはすべて正しい。でもサステナビリティは暗黙の了解とはなっていません。メイド・イン・イタリーは、プロセスが透明化されていないのです。インパクト測定をしない。環境・社会的リスクが管理されたサプライチェーンが提供されていない。循環の論理を前提としていないのです。

この定義は、製品の他の典型的な側面とは関係していますが、そのプロセスとは関係していません。一例を挙げれば、衣料品がメイド・イン・イタリーであるという事実は、すべての工程がイタリアで行われ、労働者の権利が尊重され、環境リスクが法律に従って管理されていることを必ずしも意味しないのです。

したがって、『メイド・イン・イタリー』の文字とともに、生産方法、サプライチェーン、インパクトに関する情報が必要です。そうすれば製品は品質だけでなく、持続可能性というポジティブな特性も認識可能です」

最終的な疑問は、最終顧客にとって残る。私たちは、ブランドの水消費量や脱炭素データに関するこれらの記述を完全に理解することができるのだろうか? 製品を構成する部品の生産工程を知ることは、私たちの購買選択に影響を与えるだろうか?

「私は楽観的で、特に将来を見据えています」とRulli氏は結論づける。「ジェネレーション・ギャップがあることは確かです。ほとんどの調査によると、若い消費者はデジタル志向で、サステナビリティの問題に敏感であり、インタビュー対象者の年齢が下がるほどその傾向は高まります。

しかし、『Shein(シーン)』や『Temu(テム)』のような大企業の利益は、残念ながら、善意が一貫した購買行動に結びつくことはほとんどないことを示しています。これは、裏付けとなる情報が不足しているため、責任を持って選択することが難しいことも一因だと思います。

私たちは文化的な革命について話しましたが、これは本格的な文化的革命であり、時間と市場で使える適切なツールが必要です。デジタル製品パスポートは、このようなツールの1つとなる特徴をすべて備えています。つまり、システム内のすべての関係者たち(企業や消費者を筆頭とする)が、的確な教育キャンペーンの支援を喜んで受け入れるようになることが、変化を真に促進するものなのです」

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この文化的な革命はまた、持続可能性のリテラシーを集団的に向上させるための適切な後押しとなるだろう。「Buy less, but better(より少なく、より良いものを)(そして服を長持ちさせる)」は、イギリスのファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの信条の1つだった。彼女は完全には私たちを説得できなかったが、おそらくデジタル製品パスポートがその助けになるだろう。

translation & adaptation: Akiko Eguchi

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