国・地方で相次ぐ不祥事…「議員」を“辞めさせる”にはどうすればいい?  “元議員”の弁護士に聞いてみた

国会、地方議会の「議員の不祥事」がたびたび報じられる。そのたびに「責任の取り方」が問題になり、「議員辞職すべき」との議論が巻き起こる。しかし、実際には議員の地位にとどまるケースも多い。そのようなケースに対し、有権者の立場からどのような手段をとりうるか。国会議員と地方議員とでどのような違いがあるのか。国会議員秘書と市議会議員を務めた経歴をもつ三葛敦志弁護士に解説してもらった。

国会議員を「辞めさせる」方法は?

まず、国会議員を辞めさせる方法はあるのか。この点について、憲法・法律上、「リコール」のような手段は定められていない。議員の身分を失わせることができるのは以下の2つのケースに限られている。

・議員の資格争訟裁判(憲法55条)
・議員の懲罰権(憲法58条)

いずれも「議員」ではなく「議院」の権能である。

議員の資格争訟裁判は「実は被選挙権がなかった」など、議員になる法的資格に問題があるケースに限られており、しかも議席を失わせるには出席議員の3分の2以上の多数による議決が要求されている。

他方、議員の懲罰権については、「院内の秩序」を乱した場合に限定されており、かつ「除名」は出席議員の3分の2以上の多数による議決が必要とされている。

このような厳格なしくみになっているのはなぜか。

三葛弁護士:「最大の理由は、議院の多数派が少数派の議員の地位を容易に奪うことができないようにするためです。

国会議員一人ひとりは国民の直接選挙によって選ばれた『全国民の代表』です(憲法41条)。これは少数派の議員でも変わりません。

議院の多数派を握っているからといって、簡単に少数派の議員の身分を奪えることになると、『全国民の代表』としての職責を全うできなくなります。

だからこそ、議院が所属議員を辞めさせることができるケースは、法的な資格がない場合や、議院の秩序を乱した場合などの場合に限られているのです。

記憶に新しいところでは、2023年3月に参議院がガーシー(東谷義和)議員に対し、国会に出席しなかったことを理由として議場での陳謝を求める処分をし、それでも登院しなかったので最終的に除名処分を下しています。

ガーシー氏にはさまざまな問題行動がありましたが、結局、除名処分の決定打となったのは、一度も登院しなかったことです。

国会議員にしかできない仕事は、議場に出席して議論して『決める』ことです。ガーシー氏はそれを一切しなかったので、懲罰の対象となるのは当然だったといえます」

では、その国会議員を選んだ国民による「リコール」のような制度はなぜ存在しないのか。

三葛弁護士:「理由は3つあります。第一に、有権者の人数が多くなりすぎます。

第二に、国会議員は選挙区から選出されてはいても、あくまでも『全国民の代表』なのでその選挙区だけで決めるのは問題があります。

第三に、党派性を帯びやすくなり、前述した多数派による少数派の追い落としの問題につながります。

一時の感情で『懲らしめてやろう』というのが議員の身分を失わせるというかたちで可能になってしまうのは危険です。特に、本人が認めてない場合に人民裁判のような形で辞めさせることがいいのか。

国政を左右する立場の人について、国民の悪感情を煽って『だから辞めさせよう』というのは悪用される可能性も否定できず、まずいと考えます」

この点について、憲法学者の学説のなかには、国会議員が使途を定めて給付された費用を私的流用した場合等に限ってリコールの制度を導入することは、憲法に違反しないとするものがある。

三葛弁護士:「その学説が言いたいことは理解できますが、そのようなリコール制度を認めると、こじつけ的に利用され、悪用される危険が考えられます。

多数派による少数派の追い落としの危険につながってしまわないか、疑問があります」

地方議員を「辞めさせる」方法

地方議員の場合、国会議員と異なり、議員に対するリコールの制度がおかれている。所定の署名数を集めて住民投票(解職投票)を要求し、その解職投票で過半数の同意があれば、議員は失職する(地方自治法80条、83条)。

解職投票の実施に必要な署名数は、自治体の有権者の総数に応じて以下のように決まっている(地方自治法80条1項)。

【自治体の有権者数ごとの署名数要件(有権者総数=Xとする)】
 ①X=40万人以下:X×3分の1
 ②X=40万人超~80万人以下:40万人×3分の1+(X-40万人)×6分の1
 ③X=80万人超:40万人×3分の1+40万人×6分の1+(X-80万人)×8分の1

つまり、有権者総数30万人の場合は10万筆以上、有権者総数100万人の場合は22万5000筆以上の署名があれば、解職投票に持ち込むことができる。

このように、要件は厳しいながらも、地方自治においては国政と異なり、住民の手で直接議員を辞めさせる強力な権限が認められている。なぜか。

三葛弁護士:「地方自治は、住民の身近な課題については自分たちで解決するというしくみです。したがって、憲法上、直接民主制的な制度が採用されており、リコール制度もその一環です。

これに対し、国政は国全体に関する課題を解決するものなので、直接民主制的な制度はなじまないのです。

ただし、議会の多数派が反対派・少数派を追い落とすのにリコールの制度が悪用されるのを防ぐ必要があります。そのために署名数の要件が厳しくなっているのです」

また、地方自治法には議会による懲罰の制度もおかれている。地方自治法、会議規則、委員会に関する条例に違反した場合に懲罰を科することができ、「除名」には3分の2以上の出席の下、4分の3以上の同意が必要とされている(地方自治法135条1項4号・3項)。

有権者にとっては、リコールのハードルが高いとしても、議員や議会内の会派等にはたらきかけ、懲罰権の発動を求めることが考えられる。

ただし、三葛弁護士によると、実際の運用として、地方議会においては、議員を辞めさせることにきわめて慎重であるという。

三葛弁護士:「その理由は3つ挙げられます。第一に、自分もやられかねないという緊張感があります。

第二に、議員は曲がりなりにも住民による直接選挙により選出されています。除名の議決をすることにより、民主主義の結果を否定することになりかねません。

第三に、除名された議員が除名処分の法的な有効性を争って裁判に訴える可能性があります。最高裁の判例によれば、地方議員に対する懲罰のなかでも、出席停止処分や除名処分については裁判所による司法審査の対象となります(最高裁令和2年(2020年)11月25日判決参照)。

したがって、実際には、懲罰として除名処分を下すのではなく、『辞職勧告決議』といった強制力を伴わないかたちにとどめることが多くなっています。

『このままだとクビになるから自分から辞めましょう』と促すもので、民間企業で『懲戒解雇』をちらつかせながら自主的に退職届を提出するよう求める『諭旨退職』と似ています。

トラブルを未然に防止するためのものであります」

不祥事を起こした議員が多数会派に所属している場合、辞職勧告決議を行うような自浄作用は働きにくいのではないか。

三葛弁護士:「議員本人が不祥事を認めている場合と、認めていない場合とで異なります。また、同僚議員からみても『これはまずい』と思うか、『これは守ってやるべきだ』と思うかという評価軸もあります。

いくら多数派であっても、不祥事を起こしたことが明白で、その程度が重大であれば、離党や会派離脱を勧告したり、自発的な議員辞職を促したりするでしょう」

結局、最重要なのは「選挙を通じたコントロール」

現状では、国会議員を有権者が直接辞めさせる法的手段はない。また、地方議員についてはリコールの制度はあるものの、実際にはハードルが高くなっている。いずれも多数派による反対派・少数派の抑圧を防ぐという考慮に基づくものであり、それはやむを得ないことといえる。

しかし、国でも地方でも、議員や政党にとっては、大多数の有権者を敵に回すことは自分の地位を失うことにつながる。最も重要なのは、我々有権者が選挙を通じての民主的コントロールを実効的に及ぼすことにより、議員・政党に自浄作用を持たせることであるといえよう。