注文住宅設計、施工の㈱Lib Workは2024年1月、国内初の土やもみ殻などを原料とした3Dプリンターハウスを完成させました。建築設計世界最大手のARUP(アラップ、英国)の日本法人などと提携し、建設用3Dプリンターを活用した人の手では表現できないデザイン性の高い住宅を開発。現在は、年内のモデルハウス完成を目指し研究開発を進めるほか、来年には一般発売も計画しています。
今回は、開発に携わった同社設計課の永野真史課長と西田仁誠さんに開発までの道のりや苦悩などについてインタビュー!「住宅版テスラ」を目指した同社の取り組みを取材しました。
お話を伺った方
西田仁誠さん(左)と永野真史さん
永野真史(ながの まさし)さん
大学卒業後、㈱Lib Workに入社。これまで、コーディネータ課および工務課の課長として、部門の管理とプロジェクトの推進に従事。現在は設計課の課長として、プロジェクトの一つである3Dプリンタープロジェクトの管理を行っている
西田仁誠(にしだ じんせい)さん
九州大学大学院人間環境学府空間システム専攻修了後、工務店に就職し手刻みの大工技術を学ぶ。
設計技術を身につけるため㈱Lib Workに入社。大学在学時のコンピューターテクノロジーを用いた活動が認められ、3Dプリンター専属チームに異動
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21年、テスラ車のような“未来の家”開発プロジェクト始動
―3Dプリンターハウスの研究開発はいつから始められましたか?プロジェクトを始動した背景は?
永野 21年から当社の代表と室長の間では3Dプリンターハウスの計画があり、協力会社の選定などを行っていたようです。22年の年が明けてまもなく、「3Dプリンターを使って住まいをつくるプロジェクトを始めよう」と言われたのが私たちにとってのプロジェクトのスタートでした。代表は電気自動車の「テスラ」に試乗した際、これまでの自動車の常識を覆す進化に驚いた一方で、家づくりにおいては、イノベーションが起きていないことに危機感を覚えたようです。このままでは家が欲しいという人がいなくなってしまうのではないか、と。このようにして、当社の「“住宅版テスラ”を目指した、未来の家をつくる」プロジェクトは始動しました。
のち22年7月、オランダとイタリアへ渡り、建設用3Dプリンターを使って建設されたアムステルダムの橋などの視察に行きました。この視察では実際に3Dプリンターを使用している風景も見学することで建築のイメージが沸き、とても良い刺激になりましたね。
―土を主原料とした3Dプリンターハウスは国内初ですね。その案はいつから?
永野 視察の際に、今回採用した3Dプリンターでは土での施工も可能だということを聞き、自然と土を主原料にすることが決まりました。昔は土壁が主流だったように、土を主原料とすることは日本の文化に非常に合っています。また土は再利用可能な資源であるため、当社が目指すサステナブル(持続可能)な家づくり、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現できます。そして何よりも日本には、土を主原料とした3Dプリンターハウスの事例がなかったことからも、全員「土の方がおもしろそう」という意見で一致しました。一方で、「難しいだろうな」という気持ちもあったのも正直なところです。
ー着工まではどのような研究を?苦労したことは。
ねんどでの実験に使用した模型用の3Dプリンター
永野 23年春頃に、小型の模型用3Dプリンターが届き、ねんどを使った研究から始めました。実現可能な形状の研究や、ねんどの硬さの調整には非常に苦労しましたね。水が多すぎるとドロドロになったり、少ないと固すぎて機械がうまく動作しなくなるなどの問題から、硬度計を活用したほか、ねんどの吐出量とスピードの違いなども関係するため、試行錯誤の連続でした。私たちはこれまで建築に携わってきましたが、建築では聞いたこともないような機材をたくさん使い、本当に未知の分野でした(笑)。
また、建設用の3Dプリンターは、一般的な3Dプリンターとはまったく性能が違います。この機材についても非常に苦しめられました。
西田 私は、機材を動かすためのコードを制作することに非常に苦労しました。制作に使用しているソフトはもともと、宝石をデザインするような繊細な造形ができるモデリングソフトで、通常、ハウスメーカーでは使わないようなソフトです。私は23年2月に中途採用で入社し、学生時代にこのモデリングソフトを使っていた経験もあったことから、3Dプリンターハウスの研究開発チームに配属されました。このコードの作成は、研究開発を進める中で一番大変だったことです。
土の代わりにねんどを使い、水分量や実現可能な形状の研究
―23年5月に、イタリアへ機材の研修に行かれましたね。
西田 建設用3Dプリンターの操作の仕方や機材の組み立て方、データの作り方を学ぶため1週間研修に行きました。研修を終えて、建設用3Dプリンターで実現可能なこと、データの作り方などが想像できたため、帰国してからは大型の機材での建設を想定しながら、小型の方での研究に励みました。
永野 研修を終えて「大変そうだな」という印象はありましたが、稼働に向けて操作の復習をはじめ、3Dプリンターハウスに適した土の種類や原料の配合の研究に力を注ぎました。さまざまな形を試し、型枠にはめてひび割れの状況を経過観察するなど研究を重ねました。現在は、土、石灰、もみ殻、わらなどを配合していますが、土の種
類もたくさん試し、現在は淡路島の土を使用しています。