建設用3Dプリンターがついに熊本・山鹿へ
建設用3Dプリンター。実験開始当初は、簡易的なテントを建てて実施
―23年7月、実際の機材を使った実験を開始されました。
西田 23年7月、ついに建設用3Dプリンターが旧山内小学校をリノベーションした第二オフィス「Lib Work Lab(リブワークラボ)」に届きました。当初の予定では、機材は雨に濡れてはいけないため、雨をしのぐためのテント完成後に機材を使っての実験を開始する予定でした。ところが浜田晶則建築設計事務所(東京都)から、デザインの祭典「東京ミッドタウンDESIGNTOUCH」に出展する作品を制作するために建設用の3Dプリンターのノウハウを提供してほしいという依頼が。急遽、足場にブルーシートを張った簡易的なテントをつくり、建設用3Dプリンターを使った実験が始まりました。
実験を開始してからは、2日に1回は機械のトラブルが発生し、機械には、本当に苦しめられました。購入先は欧州のため、時差の都合上、連絡できるのは夕方のみ。浜田晶則設計事務所のスタッフの方にも手伝ってもらいながら、一緒にセッティング関連をできたのは、非常に助かりました。技術提供の末、当時では国内最大規模となる高さ1.4mの土壁の出力に成功!浜田晶則建築設計事務所の建築作品「土の群島」は東京ミッドタウン内の芝生広場に展示されました。
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高さ3メートルの壁を出力、“家そのもののデジタル化”に成功
モデルハウスと同様の高さ3mの壁の出力に成功した際の記念写真
―モデルハウスと同様の高さを出力できた際の感想は?
西田 23年10月、モデルハウスと同様の高さまで成功し、着工を目前に控え、「いよいよだ」と高揚感でいっぱいになりました。しかし、同時に進めていた素材の強度試験で、「もう少し強度が必要」という結果が。それから2週間ほど、材料の配分を変えながらサンプルを何種類もつくりました。11月下旬に着工を予定していたため、着工の前日まで、構造やデザイン、機材を動かすためのコード作成などを行い、本当に慌ただしい日々を送っていましたね。
―着工後はいかがでしたか?
永野 着工後は意外とスムーズで、しっかりと養生期間を設けながら慎重に進めていきました。2週間ほどで3Dプリンターを使った壁だけは完成。その後、大工工事に入りましたが、これ以降も高い施工技術が求められることばかりで試練の連続でしたね。
―着工してから大変だったことは?
西田 円形の形状をとるのが本当に大変でした。3Dプリンターハウスは、すべてが特殊なんです!木造住宅の場合、円形という形状は非常にまれで、一般の木造住宅ではまずない形状です。床材も大工さんがきれいに丸く切り抜いてくださり、本当に助かりました。私は元大工のため、大工工事も一緒に手伝いました。年内には、建物自体はほぼ完成し、目標の「年内完成」も達成できました。
―完成したモデルハウスについて。
完成したモデルハウスの主構造は、木造金物工法、円形で平屋建て、広さは約15㎡。外壁の模様は自由にデザイン可能で、今回は斜め格子のデザインを採用したとのこと。工期は約3週間で、人の手では表現できないデザイン性の高い住宅を実現できることが特筆すべき点です。今後は、工期の短縮や大工をはじめとする職人の高齢化、人材不足など、業界の課題解決にもつなげる狙いがあります。
―完成していかがでしたか?24年中には100㎡規模のモデルハウス完成予定ですね。
永野 研修後に「目標は23年内に完成」という話を聞いた時は、正直「無理だよ」と思いましたが、さまざまな障壁に直面しながらも、目標を達成できたことは非常にうれしく思います。現在は年内のモデルハウス完成に向けて研究開発を進めていますが、現状よりかなり規模が大きくなるため、素材の強化などさらなるブラッシュアップが必要です。当社が目指す「サステナビリティ」や「サーキュラ―エコノミー(循環社会)」を実現しながら、強固な素材の開発など研究を進めています。問題は次々に起こりますが、一つ一つ解決することを楽しみながらやっていきたいと思っています。
西田 分からないことだらけで悪戦苦闘しましたが、完成して本当に良かったと感じています。25年からの一般販売も見据え、開発に力を注いでいるところです。今は考えることばかりでとても大変ですが、開発を終えて気軽にプランニングできるようになったらとても楽しいと思いますし、わくわくしますね。最近、3Dプリンターハウスをサウナ施設として活用するプランの制作も始め、楽しみながら取り組んでいます。
―問い合わせも増えていますね。今後の抱負は。
永野 全国各地から、そして有名な方からも問い合わせをいただき、非常にありがたく思っています。見学に来られる方も続々と増えています。それと同時に、購入を検討していただいている方々に、満足していただける商品を提供していきたいという気持ちが高まっています。その実現のためにも今は非常に大切な時期で、日々開発に励んでいます。まだ課題は山住みですが、それがあるから楽しいし、やりがいを感じていますね。
西田 宿泊施設など事業用で展開されたいという方、住まいとしてご検討されている方など、さまざまな方に興味を持っていただいています。3Dプリンターハウスの施工はすべてが特殊で、今もトラブル続きですが、次のステップに向けてチームで取り組んでいきたいと思います。