たいみち

誰でも知っているけど知られていないこと

 少し間が空いてしまったが、前回の続きのプラスチック消しゴムの話だ。プラスチック消しゴムは誰でも知っている。だが、いつからあったのか、どこが最初なのかということは知られていない。正確に言うとわからないのだ。
 前回からプラスチック消しゴムの始まりについて色々調べてみたが、断片的な情報しか見つけられなかった。それでも残しておけば、いつか続きがわかるかもしれないと思い書いているわけだが、そんな状況なので内容に中途半端なところがあるのはご容赦願いたい。
 前回の内容はこちら https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/019011/
 忘れてしまった方も多いと思われるので、さらっと見返してから今回分を読んでいただく事をお勧めする。

(広告の後にも続きます)

海外のプラスチック消しゴム

 海外のプラスチック消しゴムはいつからあったのだろうか。キリンプラステック字消は「世界で初めて」を謳っており、SEEDのホームページでは「昭和30年代には、世界に先駆け『プラスチック字消し』を発売しました。」と紹介されている。
(http://www.seedr.co.jp/keshigomu/hakubutu2.html)

 だがパゴダビニール字消の箱に書かれている紹介文では、「アメリカではもうすでに字消しはビニールの時代です。」とあり、日本が最初ではないように見える。

*パゴダビニール消しゴムの箱

 特許を見てみよう。消しゴムのカテゴリでアメリカの特許を見て行くと、1946年にプラスチック消しゴムの特許に当たると思われるものを見つけた。(US2404322)
 ポリ酢酸ビニール系の合成樹脂から消しゴムを作るという内容で、科学的な用語が多く心もとないが大筋プラスチック消しゴムの製造方法が述べられているように読める。この特許に基づいた商品の存在は不明だが、製品としては作られなかったか、作られたとしても定着しなかった可能性が高い。1946年は昭和21年だ。このタイミングでいいものが発明されていたとしたら、日本でももっと早く作られていたはずだ。

 その次は1951年申請、1954年登録の特許があった。(US2676160) こちらは、現在も使われている消しゴム「ART GUM」(※1)との比較した説明で「塩化ビニールと可塑剤」によってつくる消しゴムということが明確に書かれている。こちらも具体的に商品が作られたのかは不明だが年代的にもこの特許のあたりからアメリカでもプラスチック消しゴムが登場したのではないだろうか。
 ちなみに文献を当たると、1951年発行の「Typography and Design」という書籍にプラスチック消しゴムが出てくる。
 これは絵や文字を書く際の書き方や使う道具についての書籍のようで、道具についての説明の中で以下のような記述がある。
 「字消しはもちろん必要です。さまざまな形状、サイズ、素材で入手できます。ゴム、プラスチック、ガラス繊維などで作られています。プラスチック製または練り消しゴムは、レイアウト担当者に人気があります。」
(本文は英語。ChatGPTにて翻訳)

 では、初期のアメリカのプラスチック消しゴムは、どういうものだったのだろうか。これがなかなか見つけられず、色々検索を重ねた結果1つの消しゴムを見つけた。それは1954年以降の雑誌などに広告が掲載されており、画像が粗かったり情報が少なかったりで苦戦したが、何とかメーカーと品番を特定した。例えば、下の画像は1954年のAMERICAN ARTISTという雑誌に掲載されている広告画像だ。



*AMERICAN ARTIST(1954年)より抜粋

 他の広告画像も似たり寄ったりの状態だったが、メーカーはアメリカのWeldon Roberts、品番は666と判明し、幸運なことに現物が入手できた。(ただし、時代はもっと新しいものと思われる。)


*Weldon Roberts、No.666の消しゴム

 紙の箱に入っており、PLASTICと書かれている。だが、「KNEADABLE」であったことは意外だった。 
 KNEADABLEは練り消しのことだ。(練り消しは、粘土のように柔らかく、絵を書く時にパステルや木炭など柔らかい画材を消すのに使われることが多い。)
 この消しゴムは、アメリカでは最初期に存在したプラスチック消しゴムであり、日本よりも早く販売されていた可能性が高い。前出の「Typography and Design」で紹介されていたのは、この消しゴムであったとしてもおかしくない。
 だが、パゴダの箱に書かれている「アメリカでは字消しはビニールの時代」と書かれている消しゴムとは違う気がする。
 更に1954年の特許(US2676160)とも関係なさそうだ。



*Weldon Roberts、No.666の消しゴムと箱

 ではアメリカの「練り消しではない」プラスチック消しゴムで、1950~60年頃のものはどういったものがあるのか。
 かなり探したのだが、それが見つからないのだ。その時代どころか、アメリカ製のプラスチック消しゴムというのがあまり見当たらず、ドイツのメーカーが作った製図用の硬い消しゴムの方が目立っている。
 ここでふと思ったのは、アメリカではプラスチック消しゴムにあまり興味がないのではないか。アメリカの消しゴムというと、「ART GUM」「Ostrich」など薄茶色の四角い塊のような消しゴムが古くから使われている。これらはプラスチックではなくゴム製品だが、質感などはプラスチックに近い。そのため「ART GUM」や類似する消しゴムがあればそれで充分だったのではないだろうか。
 だとすると、 「(練り消しではない)プラスチック消しゴムは日本が最初」かもしれないが、アメリカにとってプラスチック消しゴムが特に大事なものではなく、画期的と思ってもらえなかったようだ、と思うと少し寂しい。


*アメリカで古くから使われている「ART GUM」及び同様の消しゴム。昔ながらのゴムゴム素材の消しゴムよりなめらかである。