シードのプラスチック消しゴム
プラスチック消しゴムと言えば、シードを思い浮かべる人も多いだろう。
「日本の最初にプラスチック消しゴムを作ったのはシード」という説も聞いたことがある。だが、シードのホームページを見ても色々検索しても、シードのプラスチック消しゴムは何年にどのような消しゴムを作ったのが最初かという情報がいまひとつハッキリしない。(ものによって掲載されている表記の仕方や年代が複数パターンある。)
そうなると明確な事実を優先して考えるべきと思われ、前回紹介した「昭和27年出願30年公開の堀口乾三の特許」とそれをもとに作ったパゴダが日本で最初というのが有力と思える。
ちなみに、昭和31年の業界誌に掲載されているシードの広告があるが、そこにはプラスチック消しゴムの気配はなく、まだ発売されていなかったか、されていたとしても大々的にではなかったようにとれる。
*シードの広告。オールステーショナリー(業界誌) 1956年12月号より
とはいえ、日本で最初でなくても、シードの最初期のプラスチック消しゴムがどんなものだったのかには大変興味がある。調べていると、2007年と少し古いが「ニッポンロングセラー・考」というWeb記事で紹介されていた。
https://www.nttcom.co.jp/comzine/no054/long_seller/index.html
ここで「P-100」という白い消しゴムと「P-101」という透明感のあるカラフルな消しゴムの写真が掲載されている。品番や外観からP-100が最初と思われるのだが、このP-100はこのWeb記事以外で紹介されているのは見つけられず、いくつかの書籍で紹介されているのはP-101のみであり、なぜP-100が紹介されないのかが気になる。(特に調べてはいないため理由は不明である。)
そしてもう一つ気になった点としては、P-100は白くて不透明、P-101はカラフルで透明感があることだ。この2種類の消しゴムは、元としている製法と特許が違うのではないだろうか。単に想像の域を出ないが、具体的にはP-100はパゴダと同じ堀口乾三の特許の製法を元にしており、P-101はノダロンの納多次績の特許の製法を元にしているということはないだろうか。
なお、P-101は同じ品番の消しゴムを持っている。町の文房具店で見つけたもので、そう古くはないがこれがプラスチック消しゴムの最初期の頃からの商品だとは思わなかった。
*シード P-101。年代不明。
最初期として紹介されているP-101は、字体が斜体ではないのと、消しゴム本体の色合いも違うので、デザインを変えて何代かつくられていたのであろう。
ここで最近見つけた別の「P-101」の品番の消しゴムを紹介しよう。この消しゴムは情報がなく、シードのプラスチック消しゴムの順番のどこにはまるかがわからない。商品名が「プラスティッククリーナー」と「消しゴム」「イレーサー」ではないところや、他のP-101にはついていないシードのカラスと壺のマークがついているところから、かなり初期のものではないかと思っている。正確には、初期のもので合ったら嬉しいな、というところだ。
*シード P-101プラスティッククリーナー。年代不明。
余談だが、シードのこのあたりの透明感のあるカラフルな消しゴムは、消しゴム自体に商品名やロゴが印刷されているのではなく、印刷したセロファンのようなものが巻かれている。
このように情報がないものの時代特定をするには、当時の広告かカタログなどの資料を見つけるしかなく、なかなか難しい。ただ、ずっと探しているといつかひょっこり出てきたりするので、気長に調べようと思う。
(広告の後にも続きます)
一周回って
シードの消しゴムについては、何か情報がないかと私の主な情報源である「名古屋文具新聞」を何度も何度も見直した。だが名古屋の業界紙のためか、大阪のシードは広告もほとんどなく、唯一見つけたのが、「東京支店再開」という短い営業案内の記事だ。昭和26年12月25日発行なので、戦争で閉じた営業所を再開したということだろうか。
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シード字消ゴム
東京支店再開
今次ビニールの配合による新製品ビニーナーの新発売にて棋界にセンセーションを惹起したシード字消しゴム本舗では、今般東京支店を中央区銀座六丁目四番地交詢社内205号室に設置した。
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*名古屋文具新聞 昭和26年(1951年)12月25日号より抜粋
え、ちょっと待って。
「ビニーナー」って何?
字消しゴムの会社のシードが、ビニールを配合して作った「ビニーナー」って、きっとプラスチック消しゴムだよね?
それも昭和26年!、1951年!!ここに来るまでいろいろ調べていた昭和30年前後より4年も早い話だ。
ビニーナー、VINYNER、BENEENER、、、、色々と検索してみたが、情報がでてこない。
昭和25年~26年の情報は元から少なく、もう一回名古屋文具新聞を穴の開くように見直したが何も得られず、昭和28年から30年頃の資料からも何も見つからず。
この「ビニールを配合したビニーナーという商品」だけでは情報が足りなすぎるし、正直なところ消しゴムかどうかも確証がない。
だが、ビニーナーがプラスチック消しゴムだとすると、「日本で最初」はほぼ間違いない。
シードはビニーナーの存在を把握しているのだろうか。
このあたりの話で紹介されているのが、ビニーナーではなくP-101であるところを見ると、知らないのではないかという気がする。(またはビニーナーは消しゴムではない、という可能性も考えられるが。)
つまり私は「日本で最初のプラスチック消しゴムはシードの消しゴムではなさそう」と思っていたが、ビニーナーがプラスチック消しゴムだった場合、一周回って「日本で最初のプラスチック消しゴムはシードの消しゴム」というのが有力になる。
おそらくこのビニーナーはプラスチック消しゴムで、売り出したが何らかの事情で販売していたのはごく短い期間であったのだろう。
ビニーナー、ビニーナー、ビニーナー、どんな消しゴムなんだろう。