「アライ」って何? その役割は?

レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)に、さらにクィア(Queer)やクエスチョニング(Questioning)を付け加えた、性的マイノリティ(性的少数者)を表す言葉「LGBTQ(エル・ジー・ビー・ティー・キュー※)」。


「レズビアン」は女性の同性愛者、「ゲイ」は男性の同性愛者、「バイセクシャル」は両性愛者、「トランスジェンダー」は「身体の性」に違和感を持つ人、「クィア」は典型的とされる性の在り方に当てはまらない人を包括的に表し、「クエスチョニング」は自分の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていない人のことを指す。こちらの記事も参考に:LGBTQなど性的マイノリティを取り巻く問題。私たちにできること(別タブで開く)

過去には日本では「存在しないもの」として扱われてきたこともありましたが、今ではメディアやSNSで毎日のように取り上げられるようになったことでその認知度は高まり、性の多様性への理解も広がりつつあります。

2024年4月に開催された「東京レインボープライド2024」(外部リンク)でも、「LGBTQ」の当事者はもちろん、多くの「アライ」がパレードに参加し、大きな話題となりました。


2024年4月20日・21日に開催された「東京レインボープライド2024」のパレードの様子

「アライ(Ally※)」とは、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ当事者のことを理解、支援しようとし、差別や偏見をなくすために行動する人のことです。性の多様性を尊重し、誰もが生きやすい社会をつくるために「アライ」は重要な存在といえます。


英語で「同盟」や「仲間」を意味する「Ally(アライ)」が語源

今記事は、どんな性の在り方でも公平に生きられる社会の実現を目指す一般社団法人fair(外部リンク)の代表理事を務める松岡宗嗣(まつおか・そうし)さんに、性的マイノリティに対する現状と「アライ」の役割、性の在り方に関係なく誰もが生きやすい社会をつくるために必要な視点について話を伺いました。

松岡さんは、自分も当事者(ゲイ)であることをオープンにし、政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報の発信に力を入れています。

「アライ」は性的マイノリティ当事者に寄り添う「味方」

――日本における性的マイノリティへの理解は、昔と比べるとずいぶん進んだように感じます。松岡さんは、現状をどのように捉えていますか?

松岡さん(以下、敬称略):確かに、昨今はSNSの普及や「LGBTQ」関連の話題がニュースで取り上げられることも増え、性的マイノリティに関する理解は広がってきたように感じます。昨年(2023年)6月に「LGBT理解増進法(※)」が施行されました。多くの課題を含む法律でしたが、これまでなかなか実現しなかった法整備が進んだという点では少しずつ変化が生まれてきたといえます。

しかし、まだ自分の身近に性的マイノリティ当事者がいるという感覚を持っている人は少ないのではないでしょうか。

2020年に厚生労働省が公表した職場の実態調査(外部リンク)では、自分の職場に性的マイノリティの当事者がいることを認知している人はほとんどいないことが分かっており、回答者の約7割が「わからない」「いないと思う」と回答しているんです。

多くの人が、性的マイノリティ当事者が世の中にいることは分かっているけれど、身近な存在として捉えられていないというのが、現状ではないでしょうか。


正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。全ての国民が、その性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず、互いに人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指し、性の多様性に関する国民の理解と、国や起企業、自治体の努力を求める理念法。罰則規定はない。参考:内閣府「性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進」(外部リンク)

自分の職場に「LGBT」当事者の存在を認知している人は3割ほどしかないない(「認知している」「認知していないが、いる可能性を想定」の合計)。出典:令和元年度 厚生労働省委託事業「職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」


性的マイノリティに対する社会の現状について語る松岡さん

――そのような中、性的マイノリティ当事者が抱える問題について、どのような変化を感じていらっしゃいますか?

松岡:自分の性自認や性的指向を開示すること、いわゆるカミングアウトをする人は増えつつありますが、全体的にはまだ少なく、誰もがカミングアウトできる状況ではないと考えます。

カミングアウトをして受け入れてくれる人がいる一方で、職場でハラスメントを受けたり、学校でいじめられたりと、当事者の生活に大きく影響を及ぼすケースはまだまだ少なくないと思います。

そこでキーパーソンとなるのが、「アライ」の存在なんです。

――具体的に「アライ」とは、どのような人のことを指し、どのような役割を担っているのでしょうか?

松岡:一般的には、「性的マイノリティではないけれど、性の多様性を理解し、支援したいと思い、差別や偏見をなくすために行動する人」のことを指し、もともとは「性的マイノリティの権利運動の中で共に闘う人」という位置付けだったと思います。

そのため「アライ」として声を上げることで、当事者に対するものと同じように差別的な言葉が投げつけられる可能性もあり、勇気が要るものです。

今もその役割に変わりはありませんが、昨今は「理解したいと思っている」と表明する人も「アライ」と呼ばれることもあります。定義や役割がより柔軟になり、ハードルが低くなりつつあるといえるかもしれません。

――ハードルが低くなれば、「アライ」と表明する人は増える気がしますね。

松岡:そうですね。実際に、私は大学時代に「LGBTQ」に関するさまざまな啓発イベントを企画しましたが、その時は「誰もが誰かのアライになれる」というキャッチフレーズを掲げていました。今も「誰でも味方になれるはず」という思いは変わりません。

もちろん理想としては、寄り添うだけじゃなくて、当事者の権利を守るために一緒に声を上げてくれるところまで含めて「アライ」になってほしいですが、誰にとってもステップは必要だと思いますし、裾野を広げるという点で1人でも多くの「アライ」を可視化することが重要だと思っています。

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活動する中で強く感じる「アライ」の重要性

――現在、松岡さんは一般社団法人fairの代表を務めていますよね。どのような経緯から立ち上げることになったのでしょうか?

松岡:きっかけは大学時代、「LGBTQ」に関する活動に関わりはじめる中で抱いた違和感でした。

私自身は、自分がゲイであることを家族や友人たちにカミングアウトした際、比較的スムーズに受け入れられたのですが、当事者の友人のほとんどが、周囲にカミングアウトをしていない状況でした。

なかには「死にたい」と思ったことがある人や、カミングアウトをして家から追い出された人もいました。そういった話を聞く中で「なぜ、このような問題が起きるのか。当事者のせいではなく、社会の側に壁があるからではないか」と強く思うようになりました。


松岡さんの公式インスタグラム(外部リンク)では、性的マイノリティの問題や取り組みに関するさまざまな情報を、分かりやすく発信している

――生きづらさ解消に向けて立ち上げられたfairでは、具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

松岡:どんな性別の方でも公平に生きられる社会を目指すためには、やはりセーフティネットとなる法整備が必要だろうと考え、性的マイノリティに関する情報を発信しています。

当事者がどのような困難に直面していて、背景にどんな法制度の問題があるのか。どうすれば、生きづらさが改善されるのか。そういった情報を世に発信できれば、法整備に関する動きを後押しできると思っています。

他にも企業や学校、自治体等で性の多様性に関する講演や研修、最近では「LGBTQ」に関するメディアコンテンツや企業発信などに監修として関わらせていただくこともあります。

――企業や学校での講演や研修は、幅広い世代の性的マイノリティの理解促進につながりそうです。

松岡:そうですね。企業や学校における制度を整えたり、適切な認識を1人でも多くの方に広げていったりするためには、キーパーソンとして「アライ」の協力が不可欠です。

なかには熱量がとても高い「アライ」の方もいて、少しでも多様な人たちが生きやすい学校、職場をつくりたいという思いを持ち、この課題を自分事化して積極的に行動している方も少なくありません。そういう方々と接するたびに、「アライ」の存在の重要性を実感しますし、もっと増やしていきたいと思います。


「LGBT理解増進法」の成立を受けて緊急記者会見に臨む松岡さん(写真右から2人目)。写真提供:一般社団法人fair