マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。モードの帝王とも呼ばれるジョルジオ・アルマーニが7月卒寿を迎える。
クリエーターとして、経営者として
ミラノのモード界の帝王ジョルジオ・アルマーニが7月11日、90歳を迎えます。
現在もなお「アルマーニ グループ」の社長兼最高経営責任者であり、「ジョルジオ・アルマーニ」社の単独株主でもあるジョルジオ・アルマーニ。
彼が率いる「ジョルジオ・アルマーニ」社は世界でも有数のファッション&ライフスタイル・デザインメゾン。その中には「ジョルジオ・アルマーニ プリヴェ」、「ジョルジオ アルマーニ」、「エンポリオ アルマーニ」、「A/X アルマーニ エクスチェンジ」、「アルマーニ ジュニア」、「アルマーニ カーザ」などの幅広いブランドがあります。アパレルからアクセサリー、アイウェア、時計、ジュエリー、コスメティック、フレグランス、家具及びホームインテリアといったファッション及びライフスタイル商品のデザインから販売までを手掛け、販売のネットワークは世界60カ国以上に広がっています。またホテルも手掛け、その精力的な活動は留まることを知りません。
創業者が自分の名前を冠したブランドで、半世紀もの間、デザイン、経営部門で活躍しているのはジョルジオ・アルマーニ以外ではラルフ・ローレンしか見当たりません。それほど彼の手掛けていることは、たぐいまれな美意識に裏付けられるクリエイション力と、多くの人を引っ張っていくカリスマ性、そして経営能力が必要とされることだと思います。
2月のミラノ・ファッションウィークでもその元気な姿をショーのフィナーレで見せていました。コレクションは相変わらずエレガントで美しく、必要以上に女性を強調しない品格のあるものでした。
2月にミラノで開催された2024秋冬コレクション会場で、登場したモデルたちと
©SGP
ジョルジオ・アルマーニの成功は、もちろん彼のたぐいまれなるデザイン、クリエイティブにおける才能によるところが大きいのですが、それと同じように企業としての戦略までをアルマーニ自身が策定しているところが強みだと思います。
それがいつの時代にあってもブレない、アルマーニのスタイルを見せられる理由なのだと思います。
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始まりはメンズウェア
アルマーニは元々、メンズウェアからそのキャリアをスタートしました。そのため紳士服の構造や問題点を熟知していました。それまでのメンズウェアは重くダークなトーンの英国スタイルが主流だったのですが、パッドや芯地を外したり、位置を変えたりすることにより、着やすく軽いソフトなジャケットを生み出したのです。また従来、女性にしか使われていなかった柔らかく軽い素材を使い、色もベージュやグレージュのような微妙な色で紳士服を仕上げてみせたのです。このデザインが発表された1970年代は、新しいメンズウェアの時代が誕生したといっても過言ではないでしょう。
メンズウェアの成功を受け、アルマーニはレディスの世界にも進出します。1970年代から80年代は女性が積極的に男性と肩を並べて外に出て働く時代の始まりであり、アルマーニの服はアメリカのキャリアの女性たちから圧倒的な支持を受けたのです。
それからのアルマーニの作る服は、ソフトな素材で肩肘を張らないナチュラルさ、また女性を強く出さない抑えたセクシーさと、優雅で流れるようなシルエットで世界中の女性の心をつかんだのです。
90歳を迎える今も現役でモードの世界をリードするジョルジオ・アルマーニ
©SGP
世界のファッション・アイコンだった故ティナ・チャウに「もし服を1着しか選べないのだとしたら、迷わず『アルマーニ』のジャケットを選ぶ」とまで言わしめた着心地の良い軽いジャケットは、まさにファッション界の革命でした。
また映画界とも積極的にかかわり、アカデミー賞発表の際、レッドカーペットには「アルマーニ」を着たスターたちが数多く登場しています。
アルマーニは2010年にドバイ、2011年にはミラノにホテルをオープンさせ、彼の完璧なまでの美意識とデザインを空間にまで反映させています。
アルマーニのファッション界での功績はあまりにも大きく、すべてをここで書くことはできません。また彼の発する言葉は、ファッション界ではとても重く、影響力があります。アルマーニはこんな風に言っています。「私にとってファッションとは着られる服をデザインすることだ。着た人がくつろげるような服を」(『ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学』レナータ・モルホ=著 目時能理子・関口英子=訳 日本経済新聞出版社)
私は、1998年にミラノで初めてお会いし、その後、東京では当時の『marie claire』 編集部に来ていただいたこともあります。数回、パリでもお目にかかっているのですが、濃いブルーの上下をいつも身に着け、修行僧のようなストイックささえ感じさせるアルマーニ。そんな彼の射るような鋭い眼で見られるたびに緊張感が走ります。この不世出のデザイナーには、年齢などを超越し、あふれんばかりの才能をいつまでも発揮し、ファッション界に対して厳しいメッセージを送り続けてほしいと思います。
2024年6月27日
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