サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No42となる今回は、本誌No128に登場した『スクープ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。


恒例の川村さんによる精巧なスケッチ。今回はみっちり3種のサンドイッチが。

「なんてことのないおいしさを、食べたかったんだよなぁ」

『スクープ』でサンドイッチを買った何度目かの帰り道、大きく首を縦に振りたいくらい、自分の探していた味に合点が行き、そして、しみじみ思った。でも、なかなかないのだ、なんてことのないおいしさって。だいたい、なんてことのないおいしさとは何なのか、うまく言葉で説明がつかない。いくつかの微妙な匙加減なのだろうとは思うのだけれど、これって言うのは難しい。


『スクープ』は朝からオープンしているコーヒーショップ。イートインスペースは店内奥にも。サンドイッチはランチタイムでの提供。

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来るたびに、飲食店で賑わう通り。

フォブール・ポワッソニエール通りは、今や、パリで最も飲食店の移り変わりが激しい通りだ。以前は、衣服の問屋が多かったところに、1軒のバーガーショップがオープンしたことがきっかけだったように記憶している。たしか、2012年あたり。それからというもの、2か月くらい足が遠のいていると、久しぶりに通ったときには、新しい店が毎度どこかしらにできているような、飲食店で賑わう通りに様変わりした。そんなわけで、結構頻繁に来るこの通りをその日も歩いていた。ランチタイムで、人気店には行列が伸びている。『スクープ』の前にも10人ほどが並んでいた。気づけば、もはや古株の部類に入る存在だ。すでに10年ちかく経っているはずだが、いまだに行列ができている。人気の秘密は何だろう、と気になった。


サンドイッチの具にもなるリンゴが木箱にたくさん。ランチタイムのセットメニューでは、これら果物を搾った自家製ジュースとサンドイッチの組み合わせも可能。

店の前に行き、改めて、窓際に置かれたサンドイッチメニューに目を通した。ハムにくるみのクリーム。シェーヴル(ヤギ乳のチーズ)に洋梨とルッコラ。コンテには、トマトコンフィとリンゴ。これまで、「いつか試そう」と先延ばしにしていたシンプルな具材の組み合わせをそれぞれ、いざ想像しようとしたら、いまいち味のイメージがすんなりと湧かない。そうしたら、俄然気になり始め、食べてみることにした。


本誌連載で紹介した、ハムとくるみクリームのサンドイッチ。当初冬の間だけ出すつもりで、ある日メニューから外したら「あれはないの?」という声が多数出たため、レギュラーメニューになったそう。

たとえばピスタチオ、あるいはヘーゼルナッツ入りのハムは食べたことがある。でも、くるみというと合わせるのはチーズが常で、ハムとの組み合わせは、食べたことがないように思った。ハムに対して、くるみのえぐみが強すぎはしないかなぁと想像したのだが、むしろ、えぐみがいい働きをしていた。ピーナッツバターよりも、アーモンドクリームと合わせるよりも、断然好きだった。くるみの欠片を加えているのではなくて、クリーム状にしたものというのがコクを一層味わえて、スタンダードなジャンボン・ブールに代えて、これからはこちらを選びたくなりそうだ。