将来に不安を感じ「仕事以外にも何か収入源がほしい」と考える会社員は少なくありません。その選択肢として「FX」を選ぶ人もいるでしょう。しかし、FXを始めるには正しい知識を身に付けることとリスク管理をすることが欠かせません。今回は軽い気持ちでFXを始めたものの失敗を続け、ついには家族に黙って子どもの教育資金にまで手を出してしまった…そんな会社員の事例を通して、FXで失敗しないヒントを解説します。

ちょっとした出来心が家族崩壊の危機に

松本直樹さん(仮名)は、地元の飲料品メーカーに勤める42歳のサラリーマン、妻と小学生の子供2人で暮らす4人家族です。実は数年前に軽い気持ちで始めたFXで、家族崩壊にもつながりかねない痛い目にあっていました。

松本さんがFXを始めたのは、新型コロナウイルス感染症による混乱が続く2021年前半。将来に不安を感じる中、「仕事以外にも何か収入源がほしい」と考えていたときに目に入ったのがFXでした。

松本さんは「このぐらいなら大丈夫、利益が出たら元に戻せばいいか」と、子供の教育資金を貯める口座から妻に内緒で30万円を出金。仕事で為替を見る機会が少しあり、相場観に自信を持っていた松本さんは、何となくの感覚でトレードを開始しました。

FXは勝ちトレードの方が多く、それなりに順調にトレードができていたそうです。しかし、利益をコツコツ積み重ねても、相場が予想から外れたときに大きく負けてしまい、なかなか資金は増えませんでした。負けるときの金額は大きく、5万円近く負けたこともあったといいます。



[図表1]2019年6月以降のドル円の週足チャート(TradingView)

[図表1]のチャートのように、2021年のドル円は、それまでのジリ下げの流れを上抜けして、まさに強い円安トレンドが始まったところ。そこから現在の超円安に至るわけですが、当時の松本さんは、「だいぶ上がったから、もうそろそろ下がるだろう」という相場観でした。

ある日、松本さんは円高方向に張ったポジションを持っていましたが、想定外の円安が一気に進行します。「これは行き過ぎ。明日には戻るはず」とポジションを決済せずに寝たところ、次の日には円安が加速しておりポジションは強制決済、大きな損失が出てしまいました。

愕然とした松本さんですが、「さすがにこれ以上は円安にならないはず」と考えます。しかし、円安は止まりません。松本さんの思いと逆方向に動き続ける相場の中で、投資資金はすぐに底をついてしまいました。追加で入金して負け分を取り返そうか迷っていたところ、奥さんが教育資金用の口座から出金があったことに気付きます。

奥さんに問い詰められて松本さんは平謝り。損失分は松本さんの趣味のお金などを削って補填すること、二度と同じことは繰り返さないことを約束して、なんとか許してもらいました。

ちなみにドル円は、その後も円安が40円以上進行しました。「もし追加入金していたら負け続けたでしょうし、考えるだけでゾッとします。後戻りできなくなって下手すると破産、妻にも愛想をつかされていたかもしれませんね」と松本さんは苦笑いで振り返ります。

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大事にならなかったのは不幸中の幸い

松本さんはトレード云々の前に、それほど大きな金額ではなかったとはいえ、教育資金に手を出したことは強く反省しなければなりません。投資は余裕資金で行うのが大前提。家庭のお金を勝手に引き出したことも、家族の信用を失う行為です。追加入金する前に奥さんが気付いてくれたのは、不幸中の幸いだったでしょう。

トレード面では、ルールなしに感覚で利食い/損切りの判断をしていたことが大きな問題でした。頼りになるのは「最近円安すぎる」といった水準感だけで、しかもその相場観に固執していたようにも見受けられます。その結果、相場観がズレはじめた途端、運用資金が一気に減ってしまったわけです。

また、人間には認知の歪みが起こりやすいため、感覚的にトレードをしていると利益確定が早くなり、損失確定が遅くなりやすい傾向があります(参考記事はコチラ)。松本さんは勝ちトレードの方が多いわりに資産が増えていなかったことからも、まさにこの状態だったと考えられます。

これは俗に「コツコツドカン」といわれる現象で、利益を出せないFXトレーダーが陥りやすいパターンのひとつ。何となくトレードをするのではなく、客観的なルールを作って丁寧にトレードに取り組むべきだったと考えられます。