企業の広報担当者にとって、重要な広告媒体である「新聞」。では、新聞社サイドからは企業の広報担当者にどのようなことを期待しているのでしょうか? 本記事では、広報コンサルタントの三上毅一氏の著書『広報のプロが教えるメディアのトリセツ』(中央経済社)より、元日本経済新聞社記者へのインタビューから紐解いていきます。

日本経済新聞が広報・PRに求めるものとは?

元日本経済新聞社 記者/ジャーナリスト
松林 薫(まつばやし・かおる)

PROFILE
元日本経済新聞社 記者ジャーナリスト。
1973年、広島市生まれ。修道高校卒、京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。
1999年、日本経済新聞社入社。経済解説部、経済部、大阪経済部、経済金融部で経済学、金融・証券、社会保障、エネルギー、財界などを担当。
2014年10月退社し、同年11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。
2016~2018年度、関西大学総合情報学部特任教授。2019年~2021年度、社会情報大学院大学客員教授。2022年度~大和大学社会学部教授。

インタビュアー:著者

質問1:個人・編集部・番組としてどんな情報を求めていますか。

記者は「ニュース」を書くのが仕事です。つまり、「みんながまだ知らないこと」「今起きたばかりのこと」「世間で今まさに話題になっていること」を書けば、読者からも同僚からも評価を得ることができるのです。

そういったニュースを他人より少しでも早く得るために、記者は日々の取材活動をしています。では、どんな所からネタを拾ってくるのでしょうか。

もちろん、他のメディアが報じたニュースを取材することもありますが、企業の広報・PRや幹部、監督官庁の官僚らとの雑談も重要な情報源です。「こんな噂を小耳に挟んだんだけど……」といった情報提供が、ニュース発掘の糸口になることはよくあります。

裏返せば、広報・PRもこうした話し相手になれれば、メディアがどんなネタを追っているかなどの情報がリアルタイムで入ってくるようになるでしょう。

記者はライバルでもある他メディアの報道にも目を配ります。全国紙や経済週刊誌に目を通すのはもちろんですが、意外に注目しているのが業界紙・誌。テレビや全国紙が取り上げる前に載るニュースが多く、ライバル紙の記者を出し抜けるからです。

もし自分たちの業界に、記者も読んでいないようなニッチな業界紙があるなら、面白そうな記事をピックアップして記者に渡すと喜ばれるでしょう。

質問2:社内での企画の通り方について教えてください。

記者は事前取材をしたうえで連載や特集の企画を立て、所属する部の編集会議に持ち込みます。ここでデスクや同僚らと議論し、掲載予定が決まれば本取材に取り掛かります。つまり、この編集会議(デスク・キャップ会などと呼ばれる)が第一関門となります。

最も重要な評価ポイントは、もちろん「面白いかどうか」。テーマ自体が旬のネタだったり切り口に意外性があったりすれば、企画は通りやすいです。ここは事前取材と記者自身の発想力が問われます。

同時に重視されるのは「材料」です。当事者のインタビューが取れるのか、裏づけとなるデータはあるのか、といった点は厳しく問われます。

広報・PRが記者をサポートできるのはこの点になります。記者から事前取材を受けて、どんなテーマの記事を書こうとしているかわかったら、業界団体の統計や社内アンケートの結果など数字で示せる情報を提供するとよいでしょう。また、自社の社長などがインタビューに応じることができるなら、すぐ日程を調整すべきです。

連載や特集では、たくさんの取材先から話を聞いても記事に盛り込めるのは良くて半分ほど。記者が「コメントを使いたい」と思う人物を引っ張り出せるかどうかは、広報・PRの腕と働きにかかっています。うまくいけば、社内だけでなく記者の信頼も得ることができるでしょう。

質問3:読者層、読者が持つ関心分野や事象について教えてください。

日経の主要読者はビジネスパーソンと個人投資家、それに就活生です。他紙との併読が多いことや、平均年収が高めであることも特徴です。

経済紙なので経済ニュースに関心がある層が読んでいるのは当然ですが、中でも「読者の損得に関わるニュース」への反響は大きいです。

例えば、「商品が値上がり・値下がりした」「政策変更で誰かが割りを食う」「このサービスを使うとコストが下がる」といった記事は問い合わせが多い傾向があります。実利的な目的で読む人が多いということでしょう。

それは記者やデスクもわかっているので、週末や夕刊の特集では「節約法」や「投資法」などを取り上げることが多いです。

そうした記事で取り上げてもらえそうな商品・サービスは、自社の担当記者だけでなく週末紙面の担当記者にも売り込むといいでしょう。

質問4:自社の媒体の特徴を聞かせてください。

日経は社内で「本紙」と呼ばれる日本経済新聞を中心に、製造業などを扱う「日経産業新聞」、サービス業などを扱う「日経MJ」、金融・証券業を扱う「日経ヴェリタス(個人投資家向け)」を展開してきました。日経産業新聞については、2024年3月末で休刊となりますが、おそらく機能は電子版に引き継がれるのでしょう。

注意したいのは、日経MJなどの専門媒体は専属の記者を抱えているわけではないということです。

デスクはローテーションですし、記者は本紙と同じ。実際、日経記者の名刺を見れば、専門媒体の記者を兼ねていることがわかります。つまり、専門媒体向けの売り込みも、本紙の記者にすることになります。

逆に本紙に書いてもらいたくて売り込んだのに、記者から「日経MJに書きます」などと言われることもあるはずです。これは、ネタが一般読者向けではないと判断されたことを意味します。

本紙に比べ発行部数が少ないのでガッカリするかもしれませんが、電子版に流れれば本紙の記事と見分けはつきません。特に、日経MJはテレビ記者が流行を紹介するコーナーのネタとして注目しているので、意外に広報・PR効果は高いのです。

メディア露出の実績がないベンチャー企業や中小企業の広報・PRなら、むしろ「専門媒体や電子版だけでいいので」と売り込むのも手です。

記者は心理的なハードルが下がって引き受けやすくなりますし、掲載されれば、日経テレコン21などの記事データベースに収録されます。「日経記者が取材して記事にしたことがある」ということで信用が得られるので、他媒体の記者も取り上げやすくなるのです。

三上 毅一

㈱ベンチャー広報

CKO(Chief Knowledge Officer)最高知識責任者