スイス・ジュネーブで開催された世界最大の時計見本市 今年の潮流や最新モデルを紹介

毎年スイス・ジュネーブで開催される世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(WWG)」。高級時計市場の最新の潮流や注目の最新モデルを紹介する。

超絶技巧を取り入れた ハイエンド時計 

メゾンの技術の粋を凝らした超絶時計からも目が離せない。その代表格がIWC の見せた「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」だろう。直径44・4ミリ、厚さ14・9ミリのプラチナケースの中に、400年間で3回の閏(うるう)年をスキップする機能を盛り込んだ。さらにダブルムーンフェイズは4500 万年にわたって正確に月の満ち欠けを表示するという。まるで小宇宙を腕時計に閉じ込めたよう。超絶の機能は実用性というより、メゾンの圧倒的な技術開発力を象徴するものなのだろう。こうした想像を遥かに超える驚異の時計との出会いが、見本市に駆け付ける醍醐味の一つでもある。 


「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」IWC/0120-05-1868

パテック フィリップは「ワールドタイム」の新作で、12時位置に表示される選択されたタイムゾーンの時刻と同期した日付表示を行う世界初の機能を盛り込んだ。この新機能は、自動的に日付表示針が前進・後退し正しい日付を表示する。一見、地味な機能だが、「新世代のワールドタイム」と呼べるほど、使い勝手のいい実用的な一本に仕上がった。まるで「アナログなスマートウォッチ」。カーボンパターンをあしらったブルーグレー・オパーリンの文字盤や、同色のデニム柄のカーフスキンのバンドも若々しくカジュアルな雰囲気を醸し出す。 


「ワールドタイム」パテック フィリップ(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター)/03-3255-8109

ケースの薄さをぎりぎりまで追究するメゾンもあった。ピアジェの「アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」は、2018年に発表したケース厚わずか2ミリのコンセプトモデルにトゥールビヨンを搭載してみせた。開発に6年の時を要し、時計作りの限界に挑む姿勢に感服する。こうした各メゾンによる技術への挑戦が新しい高級時計の未来を切り拓いていく。


「アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」ピアジェ/0120-73-1874

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環境問題に配慮するメゾンも 

その一方で、ユニークな時計をただ企画して、発表するだけの時代は終わりつつある。アパレルや他の工業製品などと同様、時計作りにも社会的責任が問われるようになっているからだ。そうした動きを先取りして、「サスティナビリティー」や「エシカル」の要素を新作に反映させるメゾンも目立った。ショパールは、25年までにスティール製ウォッチの90%以上にリサイクルスティールを採用すると昨年発表。今回発表した「ミッレ ミリア クラシック クロノグラフJX7」でもケースにリサイクルスティールと、生産や流通の過程を明確にしたエシカルゴールドを用いた限定モデルを披露した。 


「ミッレ ミリア クラシック クロノグラフ JX7」ショパール(ショパール ジャパン プレス)/03-5524-8922

ゼニスはダイバーモデルの新作「デファイ エクストリーム ダイバー」に付属する交換可能な3本のストラップのうち、ウェットスーツの上から着用できるエクストラロングのストラップに漁網をアップサイクルして作った素材を使っている。 


「デファイ エクストリーム ダイバー」ゼニス(LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ゼニス)/03-3575-5861

オリスもユニークなアップサイクルの新作「アクイスデイト アップサイクル」を発表した。こちらは文字盤に再生PETプラスティックを使用。その色柄は一つひとつ異なり、身に着ける側の所有欲も満たしてくれる、文字通りのアップサイクルな一本だ。 


「アクイスデイト アップサイクル」オリス(オリス ジャパン)/03-6260-6876

スイス時計協会の統計によると、23年のスイス時計の輸出額は267億スイスフラン(約4兆5856億円)と前年より.76%増え、過去最高を更新した。もっとも、昨年後半以降、中国の景気後退などが影響して、その伸び率は失速し、今年1~2月期は前年同期比でマイナスに転じた。 

一方、円安の進む日本では、急増する訪日客が高級ブランド品を「割安だから」と買い募るケースが目立ち、高級時計の市況もその影響を受けているという。 

また、一部製品に人気が集中し、一般顧客が希望する時計を手に入れづらい状況も続いており、セカンダリーのマーケットが注目を集めている。 

そんな中で、多くのメゾンが時計作りの本質を見つめ直し始めている。要はハイテク時代に時計を作り、所有することの悦びや本質的な意味をどのようにアピールしていくか。

好況の続いた高級時計の市場が転換点を迎えつつあるように感じた。


WWGは一般にも公開され、家族連れも目立った

text: Naohiko Takahashi

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