“毎年20億円”税金を投入する札幌ドーム。「収支」や「命名権」よりも「十分な説明を果たすべき」問題が

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 札幌ドームが2024年3月期に6億5100万円もの赤字を出しました。2023年3月期は1億2000万円の黒字。日本ハムファイターズの本拠地移転の影響が大きいのは、あらゆるメディアで報じられている通りです。

 この問題はとかく収支のことばかり取り沙汰されますが、もっと本質的な課題を抱えています。施設を建設した目的を果たしていないのではないか、というものです。

◆典型的な天下り組織も批判の的に

 今回赤字を出した株式会社札幌ドームは、施設の管理運営を担っている会社。札幌市が55%の株式を所有しています。札幌市以外には、北海道電力、北海道新聞社、北海道銀行などが出資をしています。この方式を一般的に第三セクターと呼びます。

 この会社の代表取締役社長は山川広行氏。北海道銀行の副頭取を務めた後、2017年6月に社長に就任しました。副社長の石川敏也氏は現役の札幌市副市長。常務取締役の藤部安典氏は2023年5月31日に札幌市総務局共済担当部長の職を終え、その年の4月1日に現在のポジションに就いています。

 社長の山川氏は地方創生に取り組んだ実績を持っているものの、施設運営に明るいとは言えないでしょう。常務取締役は分かりやすいほどの天下りであり、こうした経営体制も批判される要因の一つとなっています。

 さて、札幌ドームは6.5億円の赤字を出しましたが、これが札幌市民に対してすぐさま影響を与えるわけではありません。この会社には十分な内部留保があるためです。

◆「毎年20億円近い税金」を投入するのは、“運命”だった?

 2023年3月末時点の繰越利益剰余金はおよそ16億円。それが損失によって削られ、2024年3月末に9億円となりました。ただし、事業開発積立金がまだ6億円残されており、利益剰余金全体としては15億円残されています。保有する現金は22億以上。中期的には、ある程度の損失に耐えうる体力を十分持っていると言えるでしょう。つまり、市などからの損失補填や、資金調達が必要な窮地にまでは追い込まれていないのです。

 ただし、札幌ドームには建設費として422億円投じられています。土地代や利子を含めると660億円という巨大プロジェクト。札幌市単体の負担は302億円で、借入金は395億円。借入期間は30年で、最終償還は2031年度。返しきるまでに、まだ7年あります。しかも、札幌市はドームの保全費用として2022年に6.5億円を計上し、2023年に9.2億円の予算を組んでいました。

 市債の償還と保全費用で、毎年20億円近い税金を投入していることになります。これは施設を立ち上げた時点で、半ば運命づけられていたと考えるべきでしょう。

◆「市民文化の向上」や「地域経済の活性化」が目的だからこそ…

 ポイントは毎年20億円の税金を投じて、何の意味があるのかということ。札幌ドーム条例の第1条にはこのようにあります。

<本市は、内外の優れたスポーツ、展示会その他の催物の開催の場を提供すること等により、スポーツの普及振興及び市民文化の向上並びに地域経済の活性化に寄与するため、札幌市豊平区羊ケ丘に札幌ドームを設置する。>(札幌市「札幌ドーム条例」より)

 つまり、このドームは札幌市の収益ではなく、市民文化の向上や地域経済の活性化に寄与することが目的なのです。その観点からすると、札幌ドームが赤字であるという批判はやや的外れ。

◆アマチュアスポーツ大会の開催数に「変化がない」

 札幌ドームは「管理運営業務計画書」において、2028年3月31日までの運営方針や計画を出しています。その中で、市民参加型イベントやアマチュアスポーツイベントの開催に力を入れるとしています。この活動はまさに目的に沿ったものだと言えます。

 しかし、実績が伴いません。

 2024年3月期のアマチュアスポーツ大会の利用日数は20日。目標は23日でした。目標未達。日本ハムが移転する前の2019年3月期は18日。野球の試合を支障なく行うためには、予備日や設営・撤去日などの必要になるため、アマチュアイベントの開催には制限が出るでしょう。

 とはいえ、現在は比較的自由に施設を使えるはず。それにもかかわらず、目標未達のうえに開催日数は日ハムが本拠地にしていた時期とほとんど変らないのです。

 草野球やサッカー練習場、トレーニングルームの市民の利用者数を見ると、2019年3月期が5万4000人、2024年3月期が5万8000人でした。やはり大きな違いはありません。

 札幌ドームのそもそもの目的に立ち返り、市民文化の向上という観点で見ても、運営会社の取り組みは十分だと言えるでしょう。

◆肝心の「稼働率」が目標を大きく下回る状況に…

 次に地域経済の活性化という点ではどうでしょうか。その柱となるのは、はやり大型のイベント、コンサートでしょう。数万人の観客を集めることができれば、周辺の飲食店や宿泊施設、公共交通機関、設営を行う人員などへの経済効果があるためです。

 しかし、イベント来場者数は低調そのもの。2024年3月期は99万7000人。前期と比較して4割も減少しています。日ハムの試合がわずか2日(前期は63日)と、減少することそのものは織り込み済みでした。しかし、もともとの計画では103万人の目標を掲げていました。計画に対しても3.8%(3万9000人)少ないという結果でした。

 稼働率も冴えません。2024年3月期は62.6%。「管理運営業務計画書」では72.1%という計画を立てていました。10ポイントもの開きがあるのです。暗幕で中規模イベントにも対応する体制を整え、稼働率を上げるという取り組みは明らかに失敗しています。

 札幌ドームは赤字を出していることや、収支改善のための命名権に応募がないことが批判されがち。しかし、そうした問題は本筋ではありません。施設が当初の目的に沿って運営されているのか。その成果が出ているのか。市民のためになっているのかという視点で考えるべきでしょう。

 少なくとも経営陣は、アマチュアスポーツ大会の開催日数が少ないことや、練習場などの利用者数が増えていないことに対する十分な説明を果たすべき。

 民間への売却や取り壊しを前提とした議論よりも先に、市民生活に資する体制を構築するため、経営体制の見直しに踏み込むタイミングにきているのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界