実はタワマンにもある「水害リスク」。高層階なら浸水の心配はないが…過去には下水が溢れ出す事態も

 沈む車にマンホールから噴出する汚水、水没する街……。河川から離れていようが、高台に住んでいようが油断はできない「都市型水害」。もし、自分が暮らす地域が水害に遭ったら?リスクと命を守る行動について徹底解説!

◆高層階に取り残される!?タワマンのリスク

 都市部に乱立するタワーマンション。高層階の住人は浸水の心配はないものの、あるリスクが存在する。

「それが、浸水による電気系統の故障です」と語るのは、住宅ジャーナリストの榊淳司氏だ。

「’19年の台風19号では武蔵小杉のタワマンが浸水し、地下の電気室が機能停止に。電圧で水を汲み上げられなくなり、トイレが使用できず下水が溢れ出す事態となりました。この武蔵小杉の騒動以降、マンションの電気室を2階や3階に設置することが一般的となっています」

 しかし、’19年以前に設計された多くのタワマンでは、いまだ電気設備が地下に配置されており、それが水害時のリスクになっているという。

「水害で電気系統が破壊されると、室内のライフラインはもちろん、エレベーターも利用できなくなります。地域の避難所も集合住宅の住人をすべて受け入れられるほどのキャパはなく、タワマン住人は自宅待機となる可能性も高い。特に、高層階に住んでいる人は部屋に籠城するしかないですね」

 そのため、タワーマンションでの防災は備蓄が何よりも大切だ。

◆必要な備蓄は「最低でも1週間以上」

「武蔵小杉のタワーマンションは8日で復旧しましたが、当時、被災したのは1棟だけでした。もし広範囲で災害が起きたら8日では済まないはず。水や燃料、簡易トイレ、消毒液などの備蓄は“最低”でも1週間以上必要です」

物件によっては、管理組合による災害対策マニュアルが用意されている。共有部を災害時の簡易避難所として設定していることもあるという。

「これらのマニュアルは管理組合が作成しています。もし中古タワマンの購入を検討しているなら、管理組合がどれだけ機能しているかを確認しておきましょう」

 タワマンであっても都市型水害の被害からは逃れられないのだ。

◆値上がり&加入率減少の「水災保険」

 予期せぬ水災に対して必要な備えとは? 備え・防災アドバイザーの高荷智也氏は保険への加入を推奨する。

「少なくとも、ハザードマップ上で水災リスクがある家は保険に入っておいたほうがいいです。基本的には、火災保険に水災補償をオプションとしてつけることができます。

 また、車の被害に関しては車両保険に水災補償をつけることも。賃貸に住まれている人は、物件の火災保険を確認し、水災補償がない場合は個別で加入するのも手。

 水災保険のオプションをつけることで、水没だけでなく台風や雷、などの被害の補償も網羅されます」

◆東京の「水災保険」加入率は全国平均より低い

 ただ、損害保険料率算出機構が発表した「火災保険 水災補償付帯率の推移」(’22年)によると、水災保険の付帯率は64.1%程度。

 東京に至っては59.5%と直近10年間の付帯率は、年々減少している。

 金融庁が公表した「火災保険水災料率に関する有識者懇談会報告書」は、近年相次ぐ自然災害により、火災保険料の値上げが続いており、契約者の立場からは割高に感じるため「水災補償離れ」が起こっていると推察している。

 事実、同資料によると’24年10月には平均13%の水災保険が値上げ予定だという。

「都市型水害はどこでも起こり得る災害です。命さえ無事なら、あとはお金が解決してくれるので、割高でも保険には加入することをおすすめします」(高荷氏)

 万が一、自宅が水没したら保険料程度の出費では済まないのは間違いない。

【住宅ジャーナリスト・榊 淳司氏】

榊マンション市場研究所主宰。首都圏マンション市場の分析を発信。著書に『2025年東京不動産大暴落』

【備え・防災アドバイザー・高荷智也氏】

「ソナエルワークス」代表。水害から企業のBCP策定まで幅広く防災を啓蒙。著書に『今日から始める家庭の防災計画』

取材・文/週刊SPA!編集部

※7月9日発売の週刊SPA!特集「生死を分ける[都市型水害]の恐怖」より

―[生死を分ける[都市型水害]の恐怖]―