「斜陽のボウリング業界」でも関係ナシ。創業51年の老舗「笹塚ボウル」は“地域の社交場”になっていた

 国民の“定番レジャースポット”として地位を築いてきたボウリング場。人々のライフスタイルや趣味・嗜好の多様化の多様化に伴い、その利用人口は全国的に減少している。経営の悪化や建物の老朽化のよって閉店を余儀なくされるボウリング場も多い一方、昨年に創業50周年を迎えた老舗として知られるのが「笹塚ボウル」だ。

 斜陽と言われるボウリング業界の中で生き残ってきた経営戦略について、笹塚ボウルを運営する株式会社京王興産業 代表取締役社長/CEOの財津 宜史さんに話を聞いた。

◆老朽化に伴うリニューアル費用回収のために飲食機能を強化


 ボウリング場の閉鎖ラッシュが相次ぐなか、今でも営業を続けているのは「自分が誰よりもボウリング場が好きだから」と財津さんは述べる。

「ボウリングが好きなわけではなく、“ボウリング場”が好きなんですよ。笹塚ボウルは祖父が始めたボウリング場で、母親が2代目を継ぎ、僕は3代目にあたります。2000年初頭くらいから、笹塚ボウルで働くようになりました」(財津さん、以下同)

 財津さんは、飲食店や他のボウリング場で数年間勤務したのち笹塚ボウルに入社したが、当時は売り上げが低迷していたという。状況を打破するため、飲食の売り上げ強化を目的とした設備リニューアルを2000年代中盤に行った。

「リニューアルのコンセプトに掲げたのは『レストランの中にあるボウリング場』でした。各レーンにあるボウラーズベンチで食事やお酒を提供したのは、おそらく笹塚ボウルが先駆けだったと思います」

◆「ボウリング場を舐めるな」社内からの反対意見も

 だが当時は、ボウラーズベンチでの飲食がタブー視されていた。

「ボウリングシューズの裏は、ボールを投じた際にかかる力を逃がし、膝の負担を軽減するために、滑りやすいフェルト素材が張ってあります。 もし、シューズの裏に水滴が付くとスライドできずに転倒してしまう。なので、ボウラーズベンチには水滴のあるものを持ち込んではいけないというのが常識でした」

 そんななか、財津さんは笹塚ボウルのボウラーズベンチを「ソファに替える」という試みを提案。ソファであれば水滴が落ちても染み込むため、ボウリングシューズの裏に水滴が付く心配はない。しかし、社内からは「ソファにすると長居してボウリングをしなくなるのではないか」という反対意見も多く挙がったという。

「現在、笹塚ボウルの運営責任者を務めているスタッフとは『ボウリング場を舐めているのか!』と言い合いになりました。それでも、最終的には先輩方も僕の意志を尊重してくれたというか。ボウリング場が減ってきて、客単価を上げるには『飲食機能を充実させることもひとつの方法』だと、先輩方が認めてくれたのはすごく感謝しています」

 飲食機能を充実させ、ボウリングのゲーム代や貸靴代に頼らない収益構造を強化したことで、笹塚ボウルの経営状況は改善されたのだ。

◆「地域のコミュニティスペース」としての価値

 笹塚ボウルの設備リニューアルにはもう一つの狙いがあった。貸切イベントや企業のコンペ、懇親会など、ボウリング場を「イベント会場として利用する」というニーズも取り込むことが可能になったのだ。

 2011年の東日本大震災も大きな転機になった。帰宅困難者を受け入れる避難所として笹塚ボウルを開放した時、財津さんは「地域に大きいスペースがある施設は体育館とボウリング場しかない」と気づいたという。

「ちょうど、『ボウリング場に何かできる役割はないか』と考え始めた頃だったんです。この地域で広いスペースを提供できるのは笹塚ボウルぐらいだと思って、それ以来“地域のコミュニケーションのハブになる”ことを目指してきました」

 日中は地元の高齢者が通い、夕方は中学生や高校生がボウリングを楽しみに来店する。夜は企業コンペが開かれ、深夜は音楽好きの若者が集まる。笹塚ボウルに来る目的は違えど、地域に老若男女が交わる場所が少ないからこそ「地域の人たちが交流できる社交場」を意識してきたというわけだ。

◆唯一無二の「ボウリング×DJイベント」を実現

 そして、2022年にはバンド演奏ができるライブステージや常設のDJブースを設置。特に、DJブースには財津さんの並々ならぬこだわりが詰まっている。

「若い頃からクラブカルチャーが好きで、25年はクラブに足を運んでいます。そこで出会ったDJと仲良くなり、笹塚ボウルのイベントにブッキングしたこともありました。ただ、ボウリング場だからと言って、“音”が良くなければ、実力派のDJには出演してもらえない。良質なサウンドシステムにするために、某クラブオーナーから約3年間クラブ営業の“いろは”を学ばせてもらいました」

 音楽を聴きながら踊ってもいいし、 ボウリングをプレイしても、フードを頼んでもいい。ボウリング×DJイベントが楽しめるのは、まさに笹塚ボウルの強みであり、大きな独自性につながっていると言えるだろう。

◆ボトムアップ経営で「地域No.1給与」を目指す

 これから先、笹塚ボウルが目指すのは“地域で一番給料のいい会社”だと財津さんは話す。直近の改装を終えて以降、都内の最低賃金にもかかわらず、働き手がどんどん集まっているという。

「昔のようなトップダウンの経営には無理があるので、ボトムアップで意見やアイディアを出し合いながら、より良いボウリング場へと進化していくために試行錯誤しています。なかなかうまくいかないことも多いですが、スタッフ一同協力しながら最適なあり方を模索していきたいですね。

 コロナ禍では利益が40%落ちるなど、苦難も経験しましたが、1.8億円の融資を受けたことで乗り越えることができました。そして、投資家が見つかり次第ですが、コロナ前から構想していた笹塚ボウルのベトナム出店に向けて、取り組んでいければと思っています」

 ブームの終焉からコロナ禍まで幾度とない危機を乗り越えてきた笹塚ボウル。ボウリング場で本格的な飲食を提供し、さらには実力派のDJを招いた音楽イベントをやるという、他にはない柔軟な取り組みこそが、今もなお多くの人に愛されて生き残ることができている秘訣なのだろう。

<取材・文・/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている