2024年4月24日(現地時間、以下同じ)、アメリカでは約1億7000万人が利用している動画アプリTikTokを禁止する「TikTok禁止法」が米バイデン大統領の署名によって成立。TikTok側は「禁止は違憲」だとし、5月7日、アメリカ政府を提訴したことを発表した。裁判の結果次第だが、もし利用禁止になった場合、ファッション業界にも影響がありそうだ。マリ・クレール インターナショナルのアメリカ版デジタル記事よりお届け。
TikTokは、その核心と美学でファッションシーンを完全に変えた。しかし、このアプリが禁止される可能性が出てきたことで、私たちが知っているようなトレンドのサイクルが緩和し始めるかもしれない。
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TikTokとその忠実なコンテンツクリエイターたち(なかには小国規模のフォロワーを持つ人もいる)が、ファッション業界を永久に変えてしまったことは否定できない。2018年に米国でリリースされて以来、このアプリは業界にとってパンドラの箱であり、その影響はリアルタイムで現れている。TikTokは、小規模なブランドにとって競争の場を広げ、かつては机上の空論を振りかざしていた専門家たちに、悪名高くも排他的な業界にアクセスできるようにした。
このプラットフォームはまた、「75ハード・スタイル・チャレンジ」のような、3か月間、自分のワードローブにあるものだけを身につけることをユーザーに奨励するムーブメントによって、個人のスタイルを通じて自己発見することを促進している。現在、37万5000件以上のTikTok投稿に「#75hardstylechallenge」のタグが付けられており、参加者は75日間やり遂げられなかった人たちでさえ、このチャレンジが自分のクローゼットに惚れ直すきっかけになったと詩的に語っている。
しかし、TikTokには裏側もある。個人のファッションが“民主化”され、注目されると同時に、次なる最高の美学を求める熱狂的で絶え間ない探求が始まる。その結果、トレンドのサイクルは、かつてないほど速く動いている。
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「オフィス・サイレン(海外ドラマのオフィスシーンに登場するような、ミステリアスでクールな女性になりきること)」や「モブ・ワイフ(アメリカのマフィア映画に出てくるような、ボスのゴージャスで怖そうな奥さんになりきること)」のようなブームが矢継ぎ早に作られ、協議され、使い捨てのインスタントくじのように中毒性があり、浅はかなトレンドを生み出している。その流行にトライした1万人の参加者のうちの1人がバズって、その後、独自のコンテンツ制作のキャリアをスタートさせるかもしれない。
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TikTokのユニークなFYP(For You Page=あなたのためのページ)ベースのプラットフォーム(運営側がおすすめ動画を選び、大々的に宣伝する)は、インディーズデザイナー、クリエイター、そして消費者すべてがこの活動に参加できるよう、大きく門戸を開いている。
しかし今年4月の時点では、バブル崩壊が間近に迫っているようだ。バイデン大統領は、外国の敵対勢力が支配するアプリから米国人を保護する法案(Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act)に署名し、TikTokの親会社である中国の企業バイトダンス(ByteDance)には、米国にある子会社を(中国以外の企業に)売却するまで、9か月の期限が与えられた。バイトダンスが売却に失敗した場合、アプリのダウンロードやアップデートはできなくなる。
禁止の可能性は、TikTokが使えなくなった場合、ファッション業界にどのような影響を与えるかについて、多くの疑問を投げかけている。すなわち、ブランドは新しいプラットフォームに(またしても)どのように適応するのか、すべてのコンテンツクリエイターたちはどこに行くのか、そして私たちが過去6年間に経験したトレンドサイクルはどうなるのか、ということだ。バーチャルなファッションコミュニティに安らぎを見出したアプリのユーザーたちは、コーディネートのインスピレーションや、評価も批判もない自由なスタイルアドバイスを、次はどこで求めるのだろうか?
ニュースサイト『Puck』のファッション記者Lauren Sherman(ローレン・シャーマン)は、「(TikTokのおかげで)大手のファストファッションブランドよりもリソースがはるかに少ないブランドが、(TikTokによって)公式に名づけられたマイクロトレンド(極めて小さな流行)のすべてを取り入れやすくなった」と語る。
かつて大流行した「House of Sunny(ハウス オブ サニー)」のような、クリック数を競う独立系のブランドは、TikTokのディスカバラビリティ(発見されやすさ)がなければ、おそらく衰退していただろう。フォロワー以外のコンテンツと主要な探索ページにこれほど重きを置いているアプリは他にない。ルーマニアのソフトウェア企業『Social Insider』によると、フォロワー数が5000人以下のアカウントでも、TikTokに投稿してから16日後にはディスカバラビリティがピークに達し、インスタグラムのフォロワー数より飛躍的に多くのオーディエンスにリーチできる。
さらに、多くの小規模ブランドが、(アプリ内での)談話を強く好むTikTokの傾向のもとで、新たに発見したコミュニティや消費者に直接アクセスすることができ、成功を収めてきた。
@mirrorpalais
Quick dive into real silk vs fake silk
♬ original sound – Mirror Palais
2019年に自身のブランド「Mirror Palais」を設立したMarcelo Gaia(マルセロ・ガイア)は、透明性を高めるツールとして、また顧客や批評家への直接的な返答のプラットフォームとしてTikTokを活用している。彼の動画は、人件費、生地、技術のコスト内訳から、カジュアルな舞台裏の様子まで、多岐にわたり、43万7800ものユーザーのカルト的な支持を集めた。「私が歩道にチョークで何かを描いていたら、人々が私の周りに集まり始めたようなものです」と、そのデザイナーはTikTokでコミュニティを獲得したことについて説明する。
しかし、TikTokが禁止されれば、小さなブランドとその消費者を隔てる壁は、時間の経過とともに再建され、かつての状態に戻ってしまうだろう。
※( )内編集部注
translation & adaptation: Akiko Eguchi
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