定食チェーンの店舗数1位の「やよい軒」と店舗数2位の「大戸屋」が、異なる経営路線で競い合っている。飲食チェーン大手のプレナス傘下のやよい軒は抜本的な経営改革を行うためにMBOで非上場化した一方で、大戸屋は同じく飲食チェーン大手コロワイドの傘下に入り再建を図る。
店舗戦略面では、量的満足を志向する顧客を標的に効率性を重視したオペレーションで顧客満足度を高めるのが、やよい軒で、大戸屋は手作り感を強調し質的満足を志向する顧客をターゲットに高付加価値の定食メニューで顧客満足を追求する。
品揃え・価格ライン・運営スタイルなどを相互比較しても、両店の違いは明白だ。効果と効率の対立軸で、お互いが差別化を図り、競い合う両店の違いを見ていきたい。
◆やよい軒と大戸屋を徹底比較
2024年3月期の売上は、やよい軒334億6000万円、大戸屋278億9400万円、店舗数もやよい軒が613店舗(国内361店舗:直営262店舗)、海外店舗252店舗(2024年2月時点)、大戸屋が419店舗(2024年3月31日時点)となっており、売上、店舗と共にやよい軒が上回っている。
やよい軒は、九州が地盤だが、各地域にバランスよく出店している。一方、大戸屋は総店舗数の6割が関東圏に偏在しており、全国的な知名度はやよい軒のほうが勝っているようだ。
ちょっと価格が低めでご飯がお替り自由であることを強みとして顧客吸引力を高めるやよい軒は、量的欲求が強い人に選ばれる傾向がある。一方で、ちょっと高めでご飯の食べ放題は実施していないが手作り感があり、質的欲求が強い人は大戸屋を選ぶようだ。
◆価格幅の広さで違いが明らかに
これらは、市場のポジショニングマップを見ても明らかだ。両店のメニューを見ると、やよい軒の定食は「しょうが焼き定食」730円(税込、以下同)から「特カットステーキ定食」1990円と価格帯が幅広い(大豆ミートのメニューはさらに安い)。定食チェーンで1990円があるのは驚きだが、肉の量で価格差をつけているようで、決して在庫の無駄が発生するものではないようだ。
やよい軒は効率性を重視し、グループ企業の「ほっともっと」と食材の共通化などのシナジー効果を最大限に発揮した業務プロセスになっている。しかし、それでも最近の物価高騰で、さすがに価格を上げざるを得ず、大戸屋との価格差が縮小してきているのは明白だ。
ちなみに、やよい軒は朝食を380円から用意しており、11時までが朝食タイムだ。特にミニすき焼き定食480円は、早めのランチに利用する節約志向の会社員に人気らしい。
一方で大戸屋は「大戸屋ランチ」890円から「炭火焼き鉄板トンテキ」1440円まで品揃えしている。ボリュームゾーンは若干高めだが、価格幅は狭いのがわかる。手作り感が漂うメニュー構成になっており、特に「鶏と野菜の黒酢あん定食」は人気のようだ。
◆戦略・マネジメントにおける両店の違い
■やよい軒
店舗の大胆な改革のためにMBOを実施し非上場化!
やよい軒はプレナスが展開するご飯食べ放題が売りの定食チェーンである。1980年、ほっかほっか亭のエリア・フランチャイジーである「ほっかほっか亭九州地域本部」を設立。九州全般でほっかほっか亭を展開したが、1990年12月プレナスに商号を変更。
そして2008年にほっかほっか亭総本部と対立し、「ほっかほっか亭」を「ほっともっと」に転換。同チェーンの店舗展開を開始し、現在では日本の持ち帰り弁当業界で最大の店舗数を誇る。
プレナスは経営権の強化に向け、2022年、MBO(経営陣による買収)実施による上場廃止を発表。翌年、2023年東京証券取引所プライム市場上場廃止した。これは、外食売上3位のすかいらーくも実施した事業の再構築策だ。
店舗の大規模改革など大胆な経営改革に伴う一時的な業績悪化は付き物である。その際、株主から経営責任を問われる可能性が強いための対策である。短期的な利益ではなく、中長期的視野に基づく経営に取り組み、持続的に企業価値を向上させたいことから非上場化に踏み込んだのであり、物言う株主が増える中で、よくある手法だ。
◆「ほっともっと」とのシナジー効果を発揮!
やよい軒の業績は、セグメント別では売上しか公表されておらず、売上(2024年2月期)は334億6000万円で、前年売上297億2600万円に対して、12.6%伸ばしている。コロナの影響がなくなり客足が回復していることも増加の要因だが、四季折々の季節メニューの販売や公式アプリによる顧客への積極的な発信が、顧客の来店頻度を高めているようだ。
仕入れ原価の高騰や諸経費の上昇で一部商品の価格を改定したが、客足への影響は軽微のようだ。今年に入り、2024年度第一四半期(3月~5月)の既存店の売上実績を見ると、3月115.8%、4月114.6%、5月112.8%となっている。プレナスの連結売上は1102億3700万円であり、中核事業の「ほっともっと」が売上構成比68.8%、「やよい軒」が20.9%と約9割を占める事業構造になっている。
ちなみに、プレナスの費用構造を見ると、原価は48.7%となっており、連結売上の約7割を占める弁当事業のために若干高めである。飲食店は弁当店と異なり、飲食スペースを用意しており、水やおしぼり、その他各種サービスも提供し、なおかつ接客サービス員も必要だから、その分費用が掛かるために、原価は低めに設定しないと採算が合わない。
◆やよい軒の原価率は…
弁当や惣菜の原価は、外部業者への外注依頼分であるアウトパック品では35%程度で、店内加工品が50%程度が平均のようだ。やよい軒は飲食店なので、飲食店の従来のメニューの原価率は、弁当店である「ほっともっと」のメニューと比べると10~15%低くしないといけない。そして業界標準であるFLコストの60%内に抑えることが必須となってくる。飲食店は店内メニューをテイクアウトをする場合の売価と原価は同じにしている店が多く、テイクアウトが出れば出るだけ利益に貢献していると推測する。
プレナス本体の連結自己資本比率は63.6%と財務基盤は強固であり、安定しているようだ。中食のほっともっと事業と外食のやよい軒事業は当然ながらシナジー効果を発揮しており、事業基盤も安定だ。主力メニューの食材を共通化し、スケールメリットによるコストダウンを実現している。
ご飯のおかわりはライスロボットで、お客さん自らがセルフで行っている。ほぼ全ての店舗に券売機が設置されており、食券購入と共に調理場に伝達され、店員さんが券を回収し、ホールとキッチンが注文を再確認しながらスピーディに料理提供するオペレーションになっている。
やよい軒も最近の人手不足の影響を受け、営業時間の変更を余儀なくされたり、定休日を設けないと営業できない状態の店もあるようだ。店舗運営の円滑化を求め、現在、その対策も講じている。店舗貸し出し型のフランチャイズ制度や既に実績のある直営店舗を譲渡し、低リスクでオーナーになれるなど、さまざまな制度を導入して店舗網の整備と店舗運営の強化に努めているようだ。
◆業務プロセスを刷新する「大戸屋」
■大戸屋
コロワイドの傘下で、相互の強みを融合
店内調理にこだわり、手作り感で差別化を図り優位性を訴求する大戸屋。だが、やはリそれでは非効率な点が目立ち、価格が割高になってしまい顧客離反を招いてしまった。また、創業者の急死で、創業家と経営陣が経営権をめぐり、対立するなどのお家騒動で社内外が混乱。
その状況を打開するため、2020年、救済役であるコロワイドより大戸屋へのTOBが実施されて成立した。従前の取締役11名中10名を解任して、新たに7名を選任。コロワイドの蔵人氏が代表取締役社長に就任。復活の体制が整い、大戸屋はコロワイドの子会社になり再生を図っている。
相次ぐ顧客離反が招いた業績不振から債務超過にも陥っていたが、それも2021年2月にコロワイドを引受先とする第三者割当増資を行い、債務超過は解消した。今は外食大手のコロワイドの傘下に入り、相互の強みを融合させながら、業務プロセスの刷新を図っている。
まず、非効率だった業務の一部である素材から加工処理の工程をセントラルキッチンに集約させた。そして店舗の負担を軽減させ、最終仕上げで手作り感のある商品がスピーディーに提供できる仕組みを確立し、課題だった提供時間の迅速化にも取り組んでいる。
◆コロナ前に比べて営業利益は約6倍の伸び!
大戸屋ホールディングスの2023年3月期の決算資料によると、売上238億4600万円、営業利益2億7100万円、営業利益率は1.1%となっており、本業の儲けはわずかとなっている。値上げを断行し、2019年、2020年と売上・客数がともに低下し、業績が著しく悪化し、2021年には債務超過に陥った。
そのため、コロワイドの傘下に入った2023年3月期は自己資本比率37.4%まで回復し、かろうじて経営の安定性を保っていた。コロワイド傘下で推し進めた業務改善とコロナ収束後の客足が戻ってきたことで、業績は確実に上がってきており、過去最高売上、過去最高営業利益となったようだ。
コロナ収束後の通常に戻りつつある影響もあり、売上は278億9400万円(前年比17%増)、営業利益は16億4600万円で、約6倍の伸びだ。人手不足対策や賃金上昇などにより、人件費比率は前期比0.6%悪化しているが、原価率は在庫管理の徹底などにより前期比2.9%改善したので、粗利益が増額し、営業利益の伸びに貢献したようだ。
【大戸屋の業績(2023年~2024年、IR資料より)】
売上:238億4600万円→278億9400万円
原価:103億7600万円(43.5%)→113億1400万円(40.6%)
粗利益:134億7000万円(56.5%)→165億7900万円(59.4%)
販管費:131億9800万円(55.3%)→149億3300万円(53.5%)
営業利益:2億7100(1.1%)→16億4600万円(5.9%)
今期に入っても、4月(11.2%増)、5月(10.6%増)と連続して、前年比2桁成長を実現している。チェーン理論に基づいたコロワイド主導による業務改善と経営改革および資本注入が功を奏しているようで、決算資料に結果が表れている。
◆直営店の成功モデルを開発してパッケージ化
店舗数は、総店舗数419店舗数(2024年3月時点)である。内訳は、国内直営149店舗、国内FC159店舗、海外直営9店舗、海外FC102店舗となっている。本来なら、フランチャイズシステムに力を注ぎ、他人資源を活用した積極展開をしていきたいところだが、現時点ではそれは難しいようだ。
そもそもフランチャイズは素人でも早期にビジネス展開ができるように、本部が儲かるパッケージを加盟店に提供しなければならない。その対価を本部がロイヤリティとして受け取るといった仕組みで、資本は異なるが、経営理念共同体である。したがって直営店の成功モデルを加盟店に提供しなくてはならない。
しかし、手作り感にこだわり、原価が高い費用構造のために成功の再現性としてのパッケージを提供できないのが実情だ。そこを急務な課題として、コロワイド主導の上で取り組んでいるようだ。
出店戦略の特徴として駅前・繁華街立地のビルインタイプ・ショッピングセンター内が中心だが、路面には出店せずは2Fや地下などがほとんどだった。これは賃料が低いからという点と女性をターゲットにして展開していたことが理由だ。女性は食べるのを見られるのを嫌がる傾向があり、路面店では外から見られるからだ。ショッピングセンターのフードコートへの出店モデルも開発され、出店を拡大するとのことだ。
◆大戸屋の今後を占う!
今後の出店戦略として、大戸屋は郊外・ロードサイドへの出店体制を強化するようだ。これは、コロナ禍で立地の偏在からの反省を踏まえた上での結論みたいである。また、成熟した外食産業の中で市場規模の縮小も視野に入れ、同業他店だけでなく異業種・異業態の動向も注視しながら、店舗・商品戦略の柔軟な対応も念頭に置くようだ。
今後の中長期的計画によると、店を取り巻く環境(国内総人口減少、原材料価格の高騰など)に適切に対応して、売上高増による利益体質の強化にベクトルを合わせ、経営指標として2027年3月期の売上315億円、EBITDA (利息、税金、償却前利益)30億円、ROE(自己資本利益率)15%を目標値にしている。
特に力を入れているのは人材基盤の強化とのことだ。多様な働き方や活躍機会の提案等を推進することで、より従業員のモチベーションを高め、人材の定着を実現していく対策を強化している。
最近はやよい軒の価格が上がってきたことで、大戸屋とやよい軒の価格差が縮まってきたようである。日本一店舗数が多い弁当事業をコアとするプレナスが展開するやよい軒。一方で、M&Aで急速に拡大してきた外食売上ランキング5位のコロワイド。双方が明確な差別化手段を講じて顧客を奪い合う競争には見応えがある。商品・価格・サービス・立地・販促などで競い合い、その恩恵を享受できることを客さんは期待している。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan