1千万円「純金茶碗窃盗事件」の真相。32歳“自称イケメン”被告の「信じられない行動」が明らかに

 今年4月、東京都中央区にある「日本橋高島屋」の本館8階で開催されていた「大黄金展」で、販売価格1000万円越えの純金茶碗を盗んだとして逮捕・起訴された堀江大被告人(32)の初公判が、6月27日に東京地裁(小坂茂之裁判官)で開かれた。

 この事件を巡っては、被告人の行動や貴金属店の買取価格、高島屋の警備体制などナゾが多い。ましてや、被告人はイケメンを自称しYouTubeにチャンネルを開設・動画投稿をしていた。本記事では、そんな“ナゾ多き事件”に迫る。

◆被告人の驚きの行動が明らかに

 一時、社会をにぎわせた事件とだけあって、開廷の約30分前から法廷前には傍聴希望者で列ができており、なかには高島屋関係者であろうスーツ姿の集団や若者など約30名が並んでいた。

 開廷前、職員に連れられ被告人が入廷。被告人は上下灰色のスウェット姿で、傍聴人を見渡すことなく終始正面を向いてた。第一印象は小柄で、送検時のニュース映像よりも見た目が若く、大学生と言われても疑われないであろうほど。

 起訴内容は、被告人は4月11日午前11時40分頃、東京都中央区の日本橋高島屋本館8階で純金抹茶茶碗(販売価格1040万6000円)を窃取したというもの。裁判官から起訴内容に間違えはあるかと尋ねられ、被告人は「大丈夫です」と犯行を認めた。そして検察官の冒頭陳述により、被告人の当日の行動などが明らかになった。

 被告人は、北海道生まれで約5年前に上京。上京後は借金を重ね、一向に返済をしない被告人に対して、消費者金融から訴訟を提起されるほど追い詰められていたという。

 事件当日の4月11日、被告人は午前11時24分に高島屋に入店した。その後、午前11時32分に本館8階の「大黄金展」を訪れ、店員の行動や配置状況などを確認。午前11時40分には、商品を覆っていたクリアケースを外して、純金茶碗をリュックサックの中に入れ、会場を後にした。

 そして驚くべきことに、会場を後にした約5分後の午前11時52分に再び商品を盗もうと会場内に入っていたのだ。だが、店員の行動を見て断念、午後0時5分には高島屋を退店している。

 被告人は、東京メトロ日本橋駅まで歩き、東西線に乗って現場を離れた。ネット上で「金売買」と検索した後に、午後1時17分にタクシーを使って古物商のA店を行き、茶碗を転売・換金した。盗まれた茶碗は24金で重量は381グラム。しかし、売却価格はわずか178万円だったという。

 大金を手に入れた被告人は、犯行当日に「iPhone 15 Pro」と「Apple Watch」を購入。その後も、中古の「iPhone 7」や日用品など計41万円を使ったとのことだった。

◆「第二の被害者」は約500万円の損失

 実は、今回の公判で「第二の被害者」の存在が明らかとなった。A店が被告人から178万円で買い叩いた純金茶碗は、翌日には別の古物商のB店へと渡っていたという。

 B店の店員は、純金茶碗を入手した経緯についてこう供述していた。

「犯行日の14時頃、A店の店長から今回の茶碗の買取依頼を受けました。説明では、24金で重量は381グラムと聞いていました。翌日の午前中には茶碗が届き、重量が381グラムだったので486万円で購入しました」(B店の店員の供述調書から)

 今回の件について店員は、「まさか盗まれたモノだとは思わなかったです。約500万円の損失が出て困っています」と供述していた。

◆“犯行の稚拙さ”が目立つ結果に

 公判で犯行当日の行動が明らかになったことで、法律関係者や記者らは一様に首をひねる。筆者もその内の一人。なぜならば、被害額に似つかず一連の行動が場当たり的で稚拙さが多く目立つからだ。

 例えば、わざわざ店員や警備員などが配置され、防犯カメラもある中で白昼堂々犯行に及んだこと。犯行の瞬間が目撃されてもおかしくない状況下で大胆にも茶碗を盗み出し、さらには防犯カメラ映像を監視している職員がいる可能性も考慮していない。ましてや、再び会場内に入る。

 当然、事件が発覚したのは早かった。なんと、被告人が高島屋を退店する10分前には、店員の一人が茶碗がケースから忽然と消えていたことを発見したのだ。それどころではなく、店員は被告人を目撃していたというのだ。

「犯行当日の午前11時55分頃に、茶碗がケース内の台座に置かれていないことに気づき、事務所へ行きました。防犯カメラの映像を確認し、再度会場に戻ると犯人を見つけました。すぐに事務所へ知らせに行きましたが、会場に戻った時には既にいませんでした。その後、高島屋の中を探していたところ、店内の通路から犯人らしき人物が外を歩いているのを発見しましたが、すぐに近くにいったもののいませんでした」(店員の供述調書から)

 その他にも、被告人は逃走ルートをたどれてしまうのに、ICカードを利用して日本橋駅から被告人の自宅の最寄駅である江東区内の駅まで乗車し、さらに同区内の古物店で商品を転売している。案の定、犯行の2日後の13日には下車駅付近で警視庁の捜査員が被告人を発見。確保時の服装は、犯行時とほとんど一緒だったという。

◆高島屋の警備の甘さも露呈

 目立つのは被告人の行動だけではなく、やはり高島屋の警備の甘さも気になるところ。事件後、会場へ行ったC氏は筆者の取材に対してこう語った。

「会場内には、5000万円を超える純金の将棋駒や400万円するミッキーマウスの純金人形、金塊を持ち上げられたりとイベント性もありました。店員から商品を実際に手に取ることもできると言われたので、私は小判を持たせてもらいました」

 さらに、展示ケースについてC氏は「単なる被せ物のような感じで、施錠も警報装置もないようでした。ただ、事件後はケースと客との間に仕切りができていて、直接手が届かないように対策されたようです」とのこと。

 店員の調書には、「誰でも入店でき、誰でも手に取ったり購入することができます。ケースには施錠設備はありませんが、今まで勝手に開けたお客様を見たことはありませんでした」と供述されていた。

 他方、全国の高島屋で開催されている「大黄金展」だが、来場者が直接商品に触れられることで楽しんでもらう目論見もあるようで、過剰な警備は難しいとのことだ。

◆被告人のSNSから見える謎の人物像

 事件も“ナゾ”が多いが、被告人もまたナゾな人物なのだ。被告人は約5年前の2019年4月にYouTubeチャンネルを開設していた。自身のビジュアルに自信があったのか、チャンネルの説明文には「イケメンがイケメンを生かして、『あれ』『これ』をやるチャンネルです! モデルみたいなもんだね」などと記載されている。

 事件を受けて、チャンネル登録者数は増加しており、現在は491人(7月9日現在)。現在までに7本の動画が投稿されているが、無言でただ自身の顔を映しているショート動画ばかりだ。2020年8月には「イケメンが東京でいろいろ。」と題したショート動画が公開されており、上京したとされる時期と重なる。

 一方で被告人のSNSには、勉学に励んでいるのだろうか、参考書の写真付きの投稿も。他にも、病院への通院や体調の報告、「不安定が若さ」などと自身の持病について触れる投稿もあった。

 今回の初公判で、弁護人は被告人の「責任能力」に争う姿勢を示した。主張する責任能力の程度については簡易鑑定の結果を専門家と相談してから陳述するという。

 次回は、7月中旬の進行協議を受けて、公判期日が指定されることとなった。まだまだ公判は続きそうだ。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】

2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。