◆未就学児とその親世帯に増える複数感染
我々の日常生活に暗い陰を落としていた新型コロナウイルス感染症。感染法上の5類に移行してからは、毎日の感染者数の発表もなく、良くも悪くも感染症対策への意識の希薄化がみられる。そんな中、ヒューマン・データ・ラボラトリ株式会社が、医師544名を対象に「感染症流行の実態」に関するアンケート調査を実施(2024年5月17日〜22日)。
風邪を含む感染症患者さんの来院者が、コロナ禍以降増えているかについて、47.8%の医師が「増えている」と回答。そして、「同一の患者さんが感染症に複数回罹患するケースはコロナ禍と比べて増えていますか」という問いに対しては、45.2%の医師が「増えている」と回答した。
「感染症に複数回罹患」についてより細かく見ていくと、「同一患者さんが3か月間で感染症にかかった回数」は63.1%の医師が「2回」と回答、27.8%が「3回」と回答した。感染パターンとしては、「新型コロナ→インフルエンザ」が36.9%で最も多く、「インフルエンザ→新型コロナ」(13.6%)、「新型コロナ→新型コロナ」(7.4%)と続く。
これらの複数回感染に罹った患者の年代は最も多いのが「10歳未満」(20.2%)で、「80代以上」が15.6%。「70代」が11.4%で、高齢者と子どもが多く罹っていることがわかった。
◆“感染症ドミノ”免疫力の低下が原因
短期間のうちに複数回感染症にかかる現象、回答した医師の支持を集めたのが“感染症ドミノ”という言葉だ。コロナ禍以降、臨床の現場で何が起きているのか。医療法人社団五良会理事長の五藤良将先生は以下のように解説する。
「短期間に複数回、感染症に罹患する感染症ドミノは、免疫力の低下が主な原因だと思われます。免疫力が低下することで、病原体に対抗する力が弱まり、「感染症ドミノ」に陥るリスクが高まります。また、感染症ドミノが増加している大きな要因としては、コロナ禍による“免疫負債”が挙げられます。“免疫負債”とは、感染症に対する抵抗力が低下している状態を指します。約3年に及んだコロナ禍では、徹底した予防策や厳しい行動制限があり、多くの人が通常であれば日常的に獲得のできる感染症に対する免疫を学習することができず、この“免疫負債”を抱える状況に陥りました。このためコロナ禍以降は、様々な感染症にかかりやすくなっているといえます」
行動制限が緩和され、人と接する機会が急に増えたことも、感染症ドミノが起こる一因として考えられるという。患者の年代で10代未満の未就学児や70〜80代以上の高齢者に感染症ドミノが多く見られたことについては、「やはり免疫力が関与していることがわかります」と続ける。
「高齢者は、加齢によって免疫力が低下しやすく、感染症に罹るリスクも高いといえます。また、未就学児は、免疫系が未発達であり、もともと感染症に対する抵抗力が弱い状態です。そして、未就学児を持つ子育て世代も、子どもからの感染リスクが高く、免疫力が低下しやすいため感染症ドミノに注意が必要です。この他に、基礎疾患を持っている人は、感染症ドミノによって症状を悪化させたり、合併症を引き起こすケースもあるので要注意です。特に糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を患っている人は、健常者に比べて免疫力が低下しやすく、感染症にも罹りやすいため、感染症ドミノ状態にならないよう気をつけてください」
◆感染症ドミノを防ぐ生活習慣、医師の見解は?
感染症ドミノを防ぐためには免疫力を高めることが重要というわけだ。今回のアンケートでは、「免疫機能を維持するための方法」ことについても調査しているので改めて見ていきたい。
Q 免疫機能を維持するためのおすすめの方法は?(複数回答)
1位 睡眠時間の確保 70.2%
2位 バランスのよい食事 64.0%
3位 過度なストレスを避ける 36.2%
4位 腸内環境を整える 32.0%
5位 習慣的に適度な運動をする 19.5%
6位 リラックスする時間を設ける 12.7%
「睡眠時間の確保」(70.2%)や「適度な運動をする」(19.5%)、「リラックスする時間を設ける」など時間の確保をすると同時に、「バランスのよい食事」(64.0%)、「腸内環境を整える」(32.0%)といった食習慣の見直しも有効のようだ。では、具体的にどんな食事を心がけるべきか。アンケート調査に回答した医師の中から、感染症対策として「免疫機能の維持」を行っている200人を対象にした調査結果は以下のとおり。
Q 免疫機能の維持のためにご自身が摂ることを心がけている食材は?(複数回答)
1位 ヨーグルト等の乳製品 72.0%
2位 野菜・果物類 47.0%
3位 納豆等の発酵食品 44.0%
4位 肉類 33.5%
5位 魚類 28.5%
これらの食材がなぜ免疫機能の維持に有効とされるのか。前出の五藤良将先生は、こう解説する。
「私も『ヨーグルト等の乳製品』『野菜・果物』『納豆等の発酵食品』を摂ることを意識しています。特にヨーグルトには、乳酸菌等のプロバイオティクスが含まれており、腸内環境を整え、免疫力を高めます。また、野菜・果物は、ビタミンやミネラル、食物繊維、抗酸化物質が豊富で、免疫機能の維持をサポートします」
上位の食材を積極的に摂取することで、免疫機能を維持し、感染症ドミノの予防に努めよう。
五藤良将(ごとう・よしまさ)医師
医療法人社団五良会 理事長。日本内科学会認定内科医。防衛医科大学校卒業後、防衛医科大学校病院や千葉中央メディカルセンターなどでの勤務を経て、’19年に東京都大田区の竹内内科小児科医院を継承し院長に就任。さらに、横浜のセンター南(五良ファミリークリニック センター南)、’23年には白金高輪(五良会クリニック白金高輪)をオープンし、医療機関のマネジメントにも手腕を振るう。近著に『内臓脂肪 中性脂肪 コレステロールがみるみる落ちる 血液と体の「あぶら」を落とすスープ』(アスコム)がある。
【調査概要】
調査対象者:全国の医師(内科、小児科、耳鼻咽喉科) 544人
調査手法:ヒューマン・データ・ラボラトリ株式会社によるインターネット調査
調査時期:2024年5月17日~5月22日
<取材・文/日刊SPA!取材班>