―[貧困東大生・布施川天馬]―
東京大学といえば、日本最難関クラスの大学。多くは、幼少から塾に通い名門中高を通ってきた、いわゆる「エリート」です。しかし、一部には、まったくエリートらしからぬ道筋をたどった方もいます。
今回お話を伺うのは、現在会社を経営している神田直樹さん(25)。彼は、東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに就職。1年で退職した後、株式会社Overfocusを起業。現在は国語専門塾「ヨミサマ。」を展開するなど、教育事業に携わります。
「マッキンゼーを経て起業」とだけ聞くと、絵にかいたようなエリート人生を想像するのではないでしょうか。ですが、彼はいわゆる進学校の出身ではありません。通信制高校から、1年間の浪人を経て、塾に全く通わず東大に合格した傑物なのです。
彼はどのようにして、塾なし、通学なしの環境から東大に合格したのでしょうか。今回は、「もともとゲーム三昧の日々を送った」と語る彼の逆転勉強法を伺います。
◆「東大に行くために通信制高校を選んだ」のに毎日ゲーム三昧
「東大に通うための勉強時間を最大化するために、イベントや通学時間がない通信制高校を選択しました。もちろん、みんなのように高校に通って、文化祭などのイベントを楽しみたい思いもあったので、苦渋の決断でした。
やる気はありましたが、実際に勉強しようとなると、なかなか手につかない。それよりもゲームが楽しかったからです。学校に通っていたころは強制力があったので勉強していたのに、学校に通う必要がくなってからは毎日ゲームしかやらなくなりました。高校入学から半年以上、この状態が続きました」
勉強よりも、遊びのほうが楽しいし、行動にかかる負荷が低い。これは当たり前のことです。彼の場合は、やる気こそあったものの、それだけで「勉強し続ける自分」が維持できなかった。「やる気がある」だけでは意味がないのです。
◆偏差値75から45まで下がった
「1年生の12月に、初めて模試を受験したんです。日本人の高校生がみんな受けるような模試でした。ここで、偏差値45を取ってしまった。これまで受けた帰国子女向けの模試では、偏差値75を取ったこともあったので、これはショックでした。自分は、自分が考えているよりも勉強ができないと、面と向かって突き付けられた」
本当は、日本の高校に通って、学園祭に参加したかったし、友達と夏祭りにも行きたかった。それらを蹴ってまで通信制高校に入ったのは、「東京大学に入る」目的があったからです。しかし、今の自分では東大に入るなんて、夢のまた夢。
普通ならここで諦めているところですが、彼の場合は、もともと背水の陣で挑んだ勝負であったこともあり、逆に覚悟が決まりました。「東大しか受けない」覚悟をもって挑んでいるのだから、自分にはやり切る道しかない。
そう考えた神田さんは、さっそく生活の改善に取り掛かります。
◆やる気に依存しないためのルールをつくった
「たとえ『やる気』があっても、継続できないと意味がないんです。ですから、『やる気』に頼らない勉強をしようと決めました。具体的には、勉強時間を最大化できるような仕組みを作りました。機械的にそのルールに従えば勉強できるようにしたんです」
彼の考えたルールは、「毎日家を出て、バス停まで行く」「家では勉強を始めるまで座ってはいけない」「休憩時間を作らず、飽き防止のために様々な科目でローテーションする」などユニークなもの。
毎日家を出てバス停まで行けば、「せっかくここまで来たのだから」と、最寄りの図書館までバスに乗っていく可能性が高い。図書館まで行けば、少しは勉強をする。初めから「毎日図書館に行く」とルールを決めると、ハードルが高くて嫌になるかもしれないが、バス停までなら毎日通える。だから、続く。
勉強やダイエットなど、「行動に負荷がかかること」を続けるためには、やる気に依存しないためのルールを構築することが重要だといいます。「駅に着いたら必ず単語帳を開く」「水曜日は最寄り駅の一駅後で降りて、そこから歩いて帰る」など、自分の気分に左右されない決まりを作って、それを遵守し続ける。こうすれば、やる気を最大限排除しながら続く仕組みを構築できるそうです。
また、中学時代の彼に、親から課された面白いルールが「30分以上勉強してはいけない」こと。普通に考えれば逆ではないかと疑いたくなりますが、「このルールによって何事も30分以内に終わらせられるように段取りを考えるようになった」のだといいます。「時間によって問題を解決しない」教えがあったからこそ、神田さんはやる気や努力に依存しない仕組みを作ることができたのです。
◆1浪の末、主席と3点差の超優良成績で合格
結果として、彼は一年目の受験では落ちてしまいましたが、受験の感触は上々で、「この調子なら来年は行ける」と確信を持ちました。実際、2回目の受験では、二次試験の成績が主席と3点差にも迫る超優良成績で合格しています。この結果について「通信制高校に通っていたから、PDCAを高速で回せた結果」と語ってくれました。彼にとっては、管理される環境が彼の能力を妨げる枷になっていたのかもしれません。
人間はだらしないからこそ、自らを律するルールを作り続けることが重要なのでしょう。今も、仕事の際には「30分以内に終わらせる」を基本としているという神田さん。起業後は教育に関わる仕事をしています。結果を出す人間ならではの方法論を広めれば、生まれに関係なく、誰しもが目標を達成できる未来が見えてきます。今後の神田さんの活躍から目が離せません。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa)