20年以上イタリアンのシェフとして活躍されていた伊藤龍二さんが妻・亜衣さんと念願だった“朝食とおやつ”のお店を京都・西陣にオープンしたのは、2021年6月のこと。町屋の温かみある空間で提供されるお菓子はどこか懐かく、優しい味わいに胸が高鳴るものばかりです。「来てくださった方に、“美味しい時間”を存分に味わっていただきたい」。そう語るおふたりに話を伺いました。
京町屋を改装した、静かで温かい空間
観光客で賑わう中心地から少し離れた京都・西陣エリア。大通りから少し歩いたところに、ひっそりと店を構えているのが、伊藤龍二さん・亜衣さん夫婦が営む「お菓子 つくる」です。
「お店をするなら夫婦ふたりが大好きな京都の町家でやりたい。」風情ある京町屋をリノベーションした店舗は、温かく優しい雰囲気に包まれています。
店内に一歩入ると、目に飛び込んでくるのはL字型のカウンター。目の前で調理工程が見られるライブキッチンは、調理を担当する龍二さんが、「やってみたい」と思っていたアイデアを実現。お菓子ができあがる過程を目にすることで、待っている間のわくわく感が一層高まります。
漆喰の白壁にグレーと木目を基調としたモダンな店内は、洗練された落ち着きのある空間です。
甘いものが好きなふたりが辿り着いた“朝食とおやつ”
昔から甘いものが大好きだったという龍二さん。製菓学校を卒業した後は、フレンチやイタリアンで20年以上シェフとしての経験を積み、満を辞してオープンしたのは“朝食とおやつ”のお店でした。
「母が喫茶店をやっていたので、幼少期から店で朝の時間をゆったりと過ごすお客様を見ていて、いいなぁと思っていました。」
その頃の思い出や、普段の生活で亜衣さんが美味しそうに朝ごはんを食べている姿を見ているうちに、「この幸せな朝の時間を、お店でも再現できないか……」と考え、自然と“朝食とおやつ”というコンセプトが生まれたとのこと。そんな「お菓子 つくる」では、時間帯によって異なるメニューを提供しています。
一日の始まりとなる朝は、優しい味のお菓子でほっとしてほしいので、ドーナツやホットケーキなど、素朴な味わいのお菓子を提供。一方で、おやつの時間には、少し刺激のあるものを楽しんでほしいので、甘いだけでなくスパイスや香草を使った味の変化に富んだお菓子を提供。
「ひとことでお菓子と言っても、時間帯によって食べたいものが異なると思うんです」と亜衣さんは話します。
それぞれに“顔がある”、素朴で愛らしいお菓子たち
イタリアでは“マンマの味”と呼ぶような、お母さんが作る“家庭的で素朴な味わい”を大事にしている
朝食で提供するドーナツは、龍二さんがイタリアで学んだドーナツをベースに、独自のアレンジを加えて作られています。
「ドーナツやホットケーキの焼き色、形はその時々で微妙に違いますし、スコーンには形を同じに整えることもありません。日々、オーブンの癖や機嫌を見ながら、全てをコントロールしすぎないことで、お菓子に個性が出て、素朴な優しい味わいを表現できていると思います。」
亜衣さんは「ひとつひとつのお菓子に“顔”があるんですよ」と加えます。それぞれのお菓子が“自然体であること”を大事にしているのも「お菓子 つくる」の魅力です。
顔のあるお菓子はまるで子どものよう。テイクアウト用の注文を受ける時、ディスプレイの前で「どの子にしますか?」と聞いてしまうこともあるそう
また、美味しさの秘密を聞くと、「お菓子作りで重視しているのはバランス。ただ美味しい食材を詰め込んだだけでは、美味しいものは作れません。バランスを考えて作ることで、深みのある美味しさが生まれるんです。」と龍二さん。
おやつの時間に提供するパフェは、そんな食材の調和を徹底的に考え抜いた、「お菓子 つくる」らしさを感じられる看板メニューです。
写真は「いちごぱふぇつー」(現在は販売終了) 内容は季節ごとに変化しますが、スパイスや香草、台湾茶など、多彩な食材がぎゅっと詰まっている
「うちのパフェは、お酒を使わずにスパイスや香草を使うことで、自然体にこだわりつつ、味わいに変化球やおもしろさを出しています。1口目では、スパイスや香草の味はあまり感じられないですが、食べ進めることで、後からじんわりと広がる。最終的に美味しい口で終わることを大切にしつつ、単調な味わいにならないようにしています。」
メニューのジャッジ基準は、妻の笑顔
お客様の大半は女性。味や口当たり、食感などは亜衣さんの判断や意見を信頼しています、と龍二さん
提供するメニューの最終ジャッジを行うのは亜衣さん。「私の好きな味・食べたいものを出す。これが当店の1番のこだわりです!」と笑顔で教えてくれました。
ふわふわに焼き上げたホットケーキには、ほんのり甘い砂糖のシロップをかけて
朝食で提供しているホットケーキは、ふわふわで温かく優しい雰囲気。
「私はシロップをたっぷりかけるのが好きなのですが、お客様はほとんどかけない方が多いんです。『生地の味が美味しいから、そのまま食べたい』とおっしゃってくださって。少しもったいないな、と思いますが、そう言ってもらえることが嬉しいです。」と亜衣さん。
「楽しかった」よりも、「美味しかった」の記憶を残したい
伊藤さん夫婦が、お店を運営する中でもっとも大切にしている想いが「美味しい口で終わる」こと。そのためにも、味に集中できる空間作りを心がけています。
店内は基本的に静けさを保ち、オープンキッチンではありますが、龍二さんからお客様に話しかけることは基本的にありません。その理由は、「楽しかった」よりも、「美味しかった」という味わいの記憶を強く残してほしいから。
季節の装いなど、思いがけなく笑顔が浮かぶような、遊び心のある仕掛けも欠かせません。
「会話を楽しむことも素敵ですが、それだと帰った後、「何を食べたっけ?」と食の記憶が曖昧になってしまうことがどうしてもあります。お店に時間をかけて来てくださったからには、美味しいお菓子を存分に味わってもらいたい。だからこそ、できる限り静かにすることで、記憶に残りやすい環境を作り出しています。」
たまにお客様の表情を確認することがあるのですが、お菓子を食べている時、思わず口元が緩んでしまうような幸せそうな表情をされていると、何よりも嬉しい気持ちになります。
お菓子がくれる幸せを、もっと違う形で、たくさんの方に届けたい
「この店はお菓子屋さんではない、もっと楽しいところであるべき」という龍二さんの考えのもと、今後はお菓子を別の形で楽しんでもらうためのイベントも企画しています。
企画担当は亜衣さん。「妻のアイデアはピカイチなんです。」と龍二さんが言う通り、すでに「喫茶の日」という人気イベントを開催。現在は「クレープの日」の実現に向けて準備中です。
「美味しいものを食べて、元気になって、みんなが楽しくなる場所にしたい。」そんな想いをもつふたりのお店では、今日も幸せを運んでくれる優しいお菓子が待っています。
◆お菓子 つくる
住所:京都府京都市上京区瑞光院前町36-2
営業時間:8:30~11:00頃(LO/10:15)、13:00~17:00頃(LO/15:30) ※売り切れ次第終了
定休日:月・火曜休、他不定休有(最新情報はSNSをご参照ください)
Instagram:https://www.instagram.com/okashi_tsukuru_kyoto