「遺族の悲痛な心情も至極当然」交際男性を“麻薬成分入りテープ”で殺害した女性に懲役5年判決

同居する交際相手に麻薬成分が入った薬剤テープを貼付するよう誘導し死亡させたとして、傷害致死などの罪に問われていた川崎さくら被告(49)の裁判員裁判が18日に東京地方裁判所で行われ、野村賢裁判長は被告人に対し懲役5年を言い渡した。検察側は懲役6年を、弁護側は執行猶予付き判決をそれぞれ求めていた。

被告人は、2022年11月、持病の治療のため処方されていた鎮痛作用のある麻薬成分入りの医療用医薬品「フェントステープ」を、交際相手の男性(当時50)の胸に貼らせ死亡させたとして、傷害致死と麻薬および向精神薬取締法違反の罪に問われていた。6日の初公判で被告人が起訴事実を認めたことから、主に量刑についての審理が進められていた。

判決では未決勾留日数330日が刑に算入されるほか、逮捕時に押収されていたフェントステープ9枚を没収することも付言された。

薬剤テープ危険性「十分に認識していた」判断

被告人は「持病のつらさをわかってもらいたい」として、交際相手の男性に対し「(被告人の)元夫から殴られる」「薬剤テープを体に貼付する」等の“選択肢”を与え、男性自身が薬剤テープを体に貼付することを選択。貼付等の結果、男性は薬物中毒で亡くなった。

自身への処方量が1日3~4mgであるのに対し、男性には17mg分を貼付した被告人。体調の異変を訴えた男性に対して、4mg分をはがさず、「自分のつらさをわかってもらうのに十分ではない」などと考え、自身への処方量が1日1錠である筋弛緩(しかん)剤を5錠投与した。

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こうした犯行態様について、野村裁判長は「被告人はフェントステープが機能障害などの副作用を引き起こすことは十分に認識していたと言える。被告人自身は医師の処方のもと使用していたが、他人に使用することなどあってはならない」と、判決文を厳しい声色で読み上げた。

なお、被害男性は被告人の代理で病院での受診や、処方薬の受理などもしていた。これを踏まえて、裁判長が被害男性について「(フェントステープの)危険性を知っていたと伺われる部分もある」と指摘する場面もあったが、それでも「十分に危険性を認識していたとは言えない」と判断した。

体調の異変を訴えた被害者に“さらなる加害”

弁護側はこれまでの公判で、被告人の「愛着障害」の症状が、犯行に影響を与えていたと主張していた。

これに対して、裁判長は「愛着障害から(自分のつらさをわかってほしいという)願望を抑制できなかったことや視野狭窄(きょうさく)が生じていたこと自体は否定できない」と認めた上で、「しかし、危険性を十分に認識しながら行為に及び、さらに体調の異変を訴えた被害者に対してもさらなる害を加えたことなどから、被害者に苦痛を与えることを目的にしていたと考えられる」と述べた。

また、苦痛を伴う選択肢から男性がフェントステープ貼付を選び、被告人が実行に移すまで「相応の時間があった」とも指摘。「視野狭窄が終始ではなかったとすれば、(愛着障害が犯行に)与えた影響は一部にとどまり、斟酌(しんしゃく)にも限度がある」とした。

証言台に着席し、静かに判決を聞いていた被告人は涙を抑えるためか、時折ハンカチを目元に添えてた。その一方で、検察側に立てられたついたての奥からは、先日の公判で意見陳述も行った被害男性の妹と思われるすすり泣きの声も法廷内に漏れ聞こえていた。

裁判長「遺族の悲痛な心情も至極当然」

裁判長は「被告人は(テープ)貼付については反省を見せる一方で、危険性についてはあいまいな答弁に終始し、責任に真摯(しんし)に向き合っているとは言い難い。結果は重大で、遺族の悲痛な心情も至極当然のこと。100万円の弁償金も遺族が受け入れを拒絶していることや、元夫が用意した金銭であることからも、量刑を考慮するに足りるものではない」と判決文を読み上げた。

最後に、弁護側が社会福祉士を入れて更生支援計画を作成したこと等については評価。「刑事責任は検察側が主張するほど重い部類ではないが、弁護側が主張するほど軽い部類でもない」として、懲役5年が相当だと改めて判決を言い渡した。