利用客が増加した温浴施設側にとっては嬉しい「サウナブーム」だが、その一方で従業員が迷惑客に頭を悩ませるケースも。スーパー銭湯で店長を務める山下幸太さん(仮名・30代)は過去にとんでもないカスハラ客に遭遇したことがあるという。
◆オープン直後に現れた50代の迷惑客
「私が勤務するスーパー銭湯は3年前にオープンしました。当時私は平社員だったのですが、オープン当初はバタバタ。忙しいオープン初日に『アドバイス』と称し、アルバイトのオペレーションなどに口を出してきたのが、後に騒動を起こす50代ぐらいの男でした」
山下さんはシステムエンジニアからスーパー銭湯会社に転職。運営する企業も初めての温浴施設経営で、マニュアルなど、ノウハウがなかったという。当初男のことを気に留めていなかった山下さんだが、徐々に困った存在であることに気がついたそうだ。
「オープン当日、男はアルバイト従業員に『風呂の温度がぬるい』とクレームをつけてきて。現在は『多くのお客様が最適だと思う温度にしてあります』などと言って対応しないのですが、オープン当初ということもあり、従業員は謝罪したうえ『見直します』と言ってしまいました。するとほぼ毎日訪れては、『風呂の温度が熱い』『どうなってるんだ』とクレームを入れるようになり。1度バックヤードに呼んで説明をしましたが、それでも『俺は多くの温浴施設を回って適正温度を知っている』と喚いていました。結局、『うちはこの温度でやっている』とつっぱねたのですが。この時点で出入り禁止の対応を取るべきでしたが、不慣れな店舗を軌道に乗せることが優先で、気が回りませんでした」
◆来るたびに「上から目線でクレーム」
男のクレームはさらにエスカレートしていったと、山下さんは回想する。
「『水風呂や水飲み場の位置が悪い』とクレームをつける、『ほかの施設はもっと親切な作りになっている』『レストランの味が悪いし、メニューが少ない』『女性アルバイトが不親切』などと、来るたびにクレームです。しかも本人は『サウナ・スーパー銭湯を網羅した俺からの建設的なアドバイス』だと思っているようで、なにかと『他の施設では』『あの店は』と口にして、非常に鬱陶しい。さすがに施設としても見過ごせなくなりましたね」
◆女性アルバイトを狙う、姑息な手口
サウナ通を気取ってクレーム入れる男には、ある傾向があった。
「男は必ず小柄な女性アルバイトを狙ってクレームを入れるんです。私は身長180センチなんですが、私に直接クレームを言ってくることはなく、むしろ避けているようでした。他の男性従業員にも、クレームを入れることはありません。弱い立場を狙っている男に憤りを覚えた私は、女性従業員には顔を周知徹底させ、クレームが入った際には私をインカムで呼び出すように指示しました。しかし、男も手慣れているのか、クレーム後そそくさと店を出ていくようになって。そこで男が来店した場合は従業員で行動を逐次監視するようになりました」
従業員が男を監視していると、迷惑行為が次々と発覚したそうです。
「男は大きないびきをかいて寝てみたり、昨今のサウナブームで来店した若い女性のお客様に話しかけてサウナについて講釈を垂れる、セクハラ発言をする。しかも、ほとんど飲み食いせず、客単価が低い。店として、他の客を不快にさせる行為は見過ごせないということになりました」
◆県内のサウナは全て出禁になったはず
迷惑男は一体どうなったのか。山下さんが語る顛末とは。
「施設として出入り禁止の処分にしました。言い渡す際、男が暴れることも予想していましたが、意外と素直に応じていました。その後、同業者で情報交換をする機会があったのですが、男は新規オープン店に目をつけてはクレームをつけ、その反応を楽しむ常習犯で、界隈では有名でした。女性従業員を狙うなど悪質なので、名前と顔を共有し、足並みをそろえて出入り禁止処分に。少なくとも私の施設がある県では、恐らくこの男が行くことのできるスーパー銭湯やサウナは、ほとんどないと思います」
入ることで身も心も「ととのう」と言われているサウナ。最低限のマナーやモラルなど、人としての常識的な思考が整っていない人物は、利用する資格がない。
<TEXT/佐藤俊治>
―[話の通じないおっさんの末路]―
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など