働く人を苦しめる“迷惑客”は、どの業界にも存在する。筆者(綾部まと)はメガバンクで8年間、法人営業を経験してきた。支店には様々な客が来店するが、その中でも「高齢者の言動が目に余るケースもある」という話を聞いたり、実際に見たりしてきた。
行員を少しイラッとさせる程度ならばまだ許せるが、「人間として、どうよ?」と感じざるを得ない行為もあった。今回はそんな、銀行を訪れる“迷惑老人”のエピソードをご紹介する。
◆銀行の対応が不満で、閉店後にシャッターへ放尿
Aさんは、新入行員時代に関西の支店で目にした光景が今でも忘れられないという。
「銀行の支店は窓口が15時で閉まり、同時にシャッターも閉まります。僕は本部で研修があって、15時半くらいに店の前を通りかかりました。そうしたら、男性の老人がシャッターに向かって怒鳴っていたんです」
聞いていると、どうやら銀行の手続きに満足がいかなかった様子。その老人はシャッターに中指を突き立てたが、店からは何の反応もなかったそうだ。
「話しかけようか迷っていたら、彼はおもむろにズボンを脱ぎ始めました。そうして、シャッターに向かって放尿し始めたんです……」
Aさんの他にも通行人はいたが、ぎょっとするだけで、誰もその老人に声をかけることはなかったという。Aさんは店に電話をした。警備員さんが掃除をしてくれたらしく、翌朝にはキレイになっていたらしい。
◆生活保護の受給日に、開店前の店で大便をする
しかし、あんなものはまだまだ序の口だったとAさんは振り返る。挨拶の練習でロビーに立っている時に、事件が起こった。
「地域にもよりますが、うちの店では毎月5日に、開店前から行列ができます。5日は生活保護の受給日で、お金を受け取るためですね。銀行でお金を受け取り、そのまま近所のパチンコ屋に並ぶ人も多いですよ」
9時の開店と同時にシャッターが上がっていき「今日も多くの人が並んでいるな……」と思って眺めていると、その中にトンデモない客が紛れていたそうだ。
「ある男性の老人がスボンを脱いで、しゃがんでいました。何をしているんだろう? と思ってよく見てみると、なんと大便をしていたんです。並んでいるうちに、我慢できなくなってしまったんでしょうね」
その老人はスッキリした顔で入店し、番号札を引いていたという。店の前でもよおしたからといって、取引を断るわけにいかない。対応することになった窓口の女性の顔は、引きつっていたという……。
◆粗品目当てで来店する、女性老人
先程は男性客だが、女性客の中にも迷惑老人は存在するようだ。
「窓口では投信の契約者を増やすために、キャンペーンを組むことがあります。来店して説明を聞けば、粗品がもらえるという内容が多いですね」
その粗品を目当てに、毎日のように来店する女性の老人たちがいるのだという。
「彼女たちはいつも同じ顔ぶれです。『あそこの店で、こういうキャンペーンをやっている』という情報交換をしているようです。銀行は待ち時間もソファで座っておしゃべりができるし、冷暖房が効いているので快適なんでしょうね」
対応しなくてはならない窓口の女性は「またか……」とうんざりするものの、番号札を引いている以上は“お客さま”である。さっさと終わらせて、粗品を渡して帰ってもらっているという。しかし、その雑な対応があだとなってしまったようだ。
◆くじ引きで一等を引いてしまい……
その日は来店キャンペーンで、くじ引きをやっていた。なんと女性老人のうちの一人が、一等賞を引いてしまったそうだ。そうとなると、景品を渡さないわけにはいかない。
「その老人は、意気揚々と大きなバッグに景品を入れていましたよ。彼女たちはいつも大きなバッグや風呂敷を持ち歩いていて、銀行だけでなく自動車のディーラー店にもよく足を運んでいるみたいです」
Aさんは、全く悪びれない迷惑老人たちを見る度に、気が重くなっていたという。
「迷惑老人たちを見ていると、お金も趣味も仕事もない人が多いような印象を受けます。時間だけはあるから、しょうもないことをして時間を潰すしかないんでしょう。本格的な高齢化社会が到来すると、日本はどうなってしまうんでしょうかね」
◆迷惑行為以外にも、社会との繋がりを
筆者が銀行で働いていた頃も、バスの時間までATMで時間を潰す老人がいた。無人の個室ブース席である“テレビ窓口”で食事をして、そのままゴミを残していく老人も見たことがある。彼らはただマナーが悪いだけで、大きな問題には発展しなかった。
しかしAさんのケースは、明らかに悪質である。銀行員の業務時間を、本来費やすべきではないことに使わせているからだ。会社から時間を奪っているともいえる。会社の利益が出ないと日本が不景気になり、自分たちもいずれ困るはずなのだが……。
まだまだ社会には人手が足りないところがたくさんある。老人にはパートタイムの仕事やボランティア活動や孫の世話やスポーツジムで身体を動かすなど、迷惑行為の他にも社会との繋がりを見つけて欲しいものだ。
<文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother