森の佇まいを運ぶ野の花々


木々の足元を彩る黄色のドロニクムも森からやってきたワイルドフラワーです。

選りすぐりの栽培種のチューリップやスイセンが植え込まれた植栽はカラフルな宝石箱のよう。それを引き立てるのが、フワフワとそこかしこに生えているヒナギクだったり、儚げなワスレナグサの群生。森の一角にいるように、よく林縁に生えている黄色のドロニクムも木陰に揺れています。野の花と園芸種の共演はまさに庭空間ならではの技ではないでしょうか。

この時期、スズランも庭のあちこちで満開になってきていて、摘むのが追いつかないほどだとか。スズランは、元々庭に群生していた場所もあれば、義理のお母様からの一鉢のスズランが一面に広がった斜面もあり、いずれにしても土地に合うようです。フランスでは5月1日にスズランを贈る習慣がありますが、お庭のスズランは毎年少し早くから最盛期となります。

スズランの群生に混じって、可愛らしい八重のオダマキがつぼみをつけていたり、庭の中には、ほっこりする風景がたくさんあって飽きません。種播きで増やしたもの、あるいは種が飛んで自然に増えた植物など、それぞれの様子をよく観察しつつ、そのままそっとしておいたり、場所を移動させたりと、丁寧にお手入れされているのがよく分かります。

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小さな庭のよいところ

毎年春には数々のスイセンとチューリップが彩るエリアは、季節が終わるとダリアに植え替え、夏から秋にかけては、選りすぐりのダリアが花盛りになります。ダリアの球根は季節の後に掘り上げて、また春の準備に。季節に沿って花が溢れる小さな庭は、じつは大変な手間に支えられています。

スペースが限られているので好きな植物がすべて植えられるわけではない、慎重に取捨選択しなければならないのだけれども、逆に自分にとってはそれがよいのだと思う、と言う英理子さん。植栽の選定は自分の「好き」が基準ではあるけれども、後は土地に合うのか、気候に合うのかということも大事です。特に、ここではまだ急激な変化にはなっていないけれども、夏の暑さや水不足などの気候変動に対応するには、環境に適応できるということがより大事になりそう、と庭友の間でも話題になっているそう。


庭のスズランを摘んでブーケに。素晴らしくよい香りです。

それぞれの植物の気に入った場所を見定めて定植したり、移動したりと、植物それぞれとの対話の中で作られてきた庭空間では、草花が皆ハッピーなのか、居るだけで気持ちが和んできて、いつまでも佇んでいたくなります。抜け感のあるお洒落はパリジェンヌが得意とするところですが、この庭の、リラックスする柔らかなワイルド感は、それに通じるところがあるような気がします。


庭の中心のガーデンテーブル。お茶の時間には自然と家族が集まって過ごす和やかな場所に。

森を思わせる野の花々と、こだわりの園芸植物たちが、恵理子さんの振るタクトを見ながらそれぞれに歌い、そのリズムが柔らかなイル=ド=フランスの光と空気に溶け込んでいくような素敵なナチュラル・ガーデンです。 

Credit

写真&文 / 遠藤浩子
– フランス在住/庭園文化研究家 –


えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。