焼肉業界“閉店ラッシュ”の中で「焼肉きんぐ」「牛角」2大食べ放題チェーンが堅調である理由

 夏に元気をくれる焼肉。しかし、帝国データバンクが7月5日に発表した焼肉店の倒産件数(負債1000万円以上、今年1~6月)は、前年同期比2.5倍の20件で過去最多ペースだ。円安を主因とした輸入肉の価格上昇が“ミートショック”となって、経営を圧迫しているのは疑いようがない。

 競争が激化する中で、幅広い客層に人気の焼肉食べ放題はテーブルオーダーバイキング方式の店が主流だ。焼肉だけではなく、サイドメニューも食べ放題のフルライン食べ放題は、夏休みに入った子供たちを連れていくには最適の店だ。中でも牛角vs焼肉きんぐの闘いがより熾烈になっている。

◆焼肉チェーン業界1位「焼肉きんぐ」

 2007年創業の後発でありながら、売上は770億円(2023年6月期、富士経済マーケティング便覧)と焼肉チェーン業界1位が「焼肉きんぐ」だ。前年の業績はコロナ収束後に回復傾向の中での好業績だったが、今期も売上106%、客数も103%(2024年6月期)と堅調に推移している。現在の店舗数は324店舗(直営203店舗、FC121店舗、2024年6月時点)と、業界2位の店舗数であるが、ほとんどが大型店舗で売上は1位である。

 今後はブランド価値向上に向け、①年間12店舗にのぼる積極的な改装投資(2024年6月末見込み)、②国産牛を含む競争優位性のあるメニュー展開、③お客様のお肉を焼いてあげるおせっかいマスター(年間約300名)を輩出、④他店とのサービスにおける差別化を訴求などに取り組んでいる。

 もちろん、労働力減少に備え飲食版DXも積極的に推進したり、特急レーンの導入、自動案内システムの導入、など省力化投資にも力を注いでいる。最大の課題である集客力は会員数500万人を突破した公式アプリを積極的に活用している。

 

 利益確保策としての原価対策は、メニュー改定に合わせた商品・メニューミックス適正化など商品全体で理論原価率を低減させ、粗利益率を改善。主要食材における調達コストや加工費用の見直しを進め、品質を維持したまま調達先の多様化を図っている。食べ放題は4コースあり、2780~3980円(税別)を用意している。ランチ食べ放題も1980円(税別)で注文でき、比較的安めの価格設定になっている。

◆国内店舗数1位の「牛角」

 国内店舗数1位の「牛角」を運営するのは、外食売上5位のコロワイドグループ傘下のレインズ・インターナショナルである。牛角は一人焼肉の「焼肉ライク」の創業者である西山知義氏が1996年に東京三軒茶屋の一角で、小さな店舗からスタート。

 今や国内最大数の店舗数だけでなく、北米・アジアを中心に全世界825店舗を展開する世界最大規模の焼肉チェーンとなった。2015年からは、コロワイドグループの100%子会社になり、店舗はフランチャイズで展開されており、食材供給など卸機能や店舗の運営指導などを担われている。

 牛角は単品メニューと食べ放題と両方に対応した店舗スタイルだ。食べ放題は4コースあり、3180~5680円(税別)の和牛コースを用意している。食べ放題専門店も拡大中で2980~4680円の4コースがあり、ランチ食べ放題も1980円で注文できる。また、新業態である「牛角焼肉食堂」のフードコートへの出店も増えている。

◆幅広い世代に好まれる焼肉食べ放題

 焼肉食べ放題店は競争が激化しており、差別化が困難になっている。そうなると、肉質の勝負となるのは当然だろう。スケールメリットによる仕入れ力の差が、素材提供型の店だけに、優勝劣敗を決める主要因になる。

 昔は米国の牛肉パッカーからすれば、日本は大量の牛肉を買ってくれる上得意客的な存在で優位性があったが、今は中国や韓国に買い負けしているのが現況だ。そこに円安などの要因が加わり、安くて品質の高い肉の仕入れが困難になっている。さらに仕入環境の悪化や人手不足などの厳しい経営実態がある。

 物価高や原材料価格の高騰などが続く中で、米国産の牛肉価格もさらに高騰中だ。焼肉食べ放題店が使用する牛肉は米国産などの輸入牛がほとんどだからである。牛肉以外も高騰しており、例えば豚肉も高くなっている。豚肉は輸入・国産ともに高騰している。今後もさらに値段が上がる可能性があるようだ。

 その原因は①円安により輸入豚肉の価格が上昇して国産への引き合いも強まる、②去年の夏の猛暑で出荷頭数が減少、③輸入飼料代の価格高騰などである。また、焼肉と言えば白米が合うが、そのお米も昨年の猛暑で弾力性があり食べ応えのある1等級が不足している。これから夏休みを迎える中、焼肉食べ放題を提供する店は大変だろう。

◆意外と厳しい経営実態


 焼肉食べ放題店は週末のファミリー客を標的顧客に選定しているから、郊外立地の大型店が多い。焼肉はテーブルごとに無煙ロースターやダクト工事が必要で、坪あたりの投資額は100万円程度と言われ、他業態と比較すると初期投資の負担が大きい。

 いくら坪当りの賃料が低いとはいえ、駐車場を含めた広さが必要だから、大型店は固定費の負担が大きい。だから、営業利益率5%程度と小型店の10%程度と比較すると利益率は低い傾向にある。もちろん利益率が低くても売上が大きい分、利益額は多くキャッシュは回り、現金創出マシンとしての役割は果たしている。

 焼肉に限らず、外食店はイニシャルコストとランニングコストの低減に力点を置き、投資回収速度を早める計画を策定する。しかし、現在の資材や厨房設備など出店コストが高騰する中で、値上げが思うようにできず、経営はより厳しさを増しているのが実情だ。

◆食べ放題を導入するメリット

 焼肉食べ放題は客単価も高く、店側も一定の利益を確保した上で安心して提供できる。お客さん側も会計が最初に決まっているから、いくらになるか心配することなくお腹いっぱい食べられる。オペレーションも単純・標準化・専門化でき、コックレス化によって人件費などの運営負担も軽減できる。

 メニューに関してもセントラルキッチンである程度の加工をしていれば、店のアルバイトでも十分に対応が可能で、運営しやすい。注文されるメニューもパターン化しており、商品管理や在庫管理も容易だ。タレ変・素材変などでバリエーションを豊かにし、選択肢の多さという魅力をアピールしている。

 一方で、高級和牛や専門性の高い一品料理を提供する焼肉店は、高いお金をもらう以上、それ相当の職人が必要となり、人件費も高くなるから、売上が上がればいいが、なければその固定費で経営負担が大きい。

 一般的に焼肉食べ放題の費用構造は原価38%、人件費22%、業務費、12%、管理費20%、営業利益8%の店が平均だ。重点管理費用は当然に原材料費と人件費であり、これらFLコストを徹底的に管理すれば、儲けが出る。

◆注文してくれると有難いメニューは?

 食べ放題の品目の中でも、原価10%の商品もあれば70%の商品もある。メインの焼肉の中でも上牛タン、ロース、カルビは歩留まり率が低い。ハラミなどは原価が高く、これらに集中すれば店は収益的に苦しい。特に希少部位である牛タンは上価格帯の食べ放題でしか入れられないのが現状だ。

 高原価の肉ばかり食べられると原価が高騰するから、他の一品メニューに分散させて原価率の安定に努める。ホルモン、キムチ、サラダ、わかめスープなどの低原価商品に誘導し、標準原価である38%程度を維持したいもの。そうやって、店もお客さんも双方が満足する良好な関係を維持しなければ店の存続は厳しい。

 実際にお客さんだって、いくら焼肉の食べ放題を注文して、食べまくろうと気合を入れても、肉ばかりはそんなに食べられるものではない。また、和牛や国産牛を入れた上焼肉プランは店の儲けが一段と違う。上肉の証である霜降り肉は脂でしつこくなるから、量を食べられず、すぐにダウンしてしまう。

◆焼肉食べ放題は今後も堅調か


 もともとは高級な食事だった焼肉。1991年、牛肉の輸入自由化を起点に、安価な牛肉が大量に市場へ出回り、一般大衆でも食べられる低価格を売りにした焼肉チェーンの参入が相次いだ。焼肉市場は、高級焼肉専門店とコスパを重視した低価格焼肉チェーンとの二極化が進展。

 もちろん、中間層をターゲットにした店も独自性を発揮しながら工夫を重ね、存在感を訴求しており、焼肉市場は群雄割拠の状態で、各々が競い合いながら自店の存在価値を高めてきた。

 現在の焼肉の市場規模は店舗数約2万2000店、売上規模約1兆2000億円と推計されている。冒頭で述べたように焼肉店の倒産件数は、過去最多ペースで推移しているようだが、牛肉を食べ慣れた世代が今も元気で、肉を好む肉食シニアとして存在感を発揮している。

 食べ放題を安く提供できる合理的なオペレーションの確立と提供するサービスを拡充し、加えて、高品質・低コストの仕入れができるか否かが、栄枯盛衰の分岐点だろう。苦難が続く焼肉市場のなかでも、食べ放題チェーンは堅調な動きで推移しそうだ。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan