生まれも育ちも東京のマキヒロチさんにとって「東京」とは?
最後に、「マキヒロチさんにとって東京とは?」と質問すると──
「一言では表せないですよね。私、生まれも育ちも東京で、外に出たことがないんです。あるときその話を仕事関係の方にしたら、『私が地元に置いてきたつまんない友達みたいね』って言われて(笑)。
そこで改めて東京って私の何なんだろう?って考えたんですが、明確な目的がないまま東京に住み続けていて……東京の漫画を描いているのに、そこに暮らす自分自身のことはあんまり落とし込めていないかもしれません。だからこれまで作品が続いてきたのかな」
一言で表現できない東京の多様性を感じるからこそ、「住みたい街ランキング」に踊らされない審美眼で、街の魅力を描けるマキさんらしい作品が生まれるのかもしれない。
ちなみに「東京は好きですか?」と聞くと、迷わず「好きです」と答えるマキさん。漫画の連載は、移住や二拠点生活などの新しいライフスタイルも取り上げられてはいるが、あくまでマキさんの軸は東京にあるようだ。
「ヤンキーは生まれた街を出ない、という説がありますけど、私にはヤンキー気質があるのかもしれませんね(笑)」
「静かな東京」探しで始まったインタビュー。その静かさとは、住む人、見る人の視点によって得られる「自分の風景」の中にある静かさなのかもしれない。そして東京の街の多様性は、同じ街でも騒がしくもなり、静かな場所にもなる。結局は、それが東京の魅力であり楽しさであるということに行き着く。
ポストコロナで東京の何が変わったか?あるいは「私」の何が変わったか?そして何が変わらなかったか?改めてマキさんの漫画を読んで、東京の街を歩いてみたいと思う。
マキヒロチ
第46回小学館新人コミック大賞入選後、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にてデビュー。主な作品に『いつかティファニーで朝食を』『おひとりさまホテル』(新潮社)『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(講談社)など。『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』は講談社の漫画アプリおよびウェブコミック配信サイト『コミックDAYS』にて連載中。