中華の巨匠・脇屋友詞氏の元で、20年余り研鑽を積んだ平賀大輔シェフ。その名店生え抜きの実力派による料理の数々は、海老チリや麻婆豆腐などの中華の定番から、山椒マヨネーズで頂くスパニッシュオムレツや中華ス
町中華の気軽さとヌーベルシノワのお洒落さを兼ね備えた待望の一軒が、今年1月、渋谷にオープンした。金王八幡宮のすぐそばに店を構えた【ON the TABLE CHINESE】がそれだ。以前、【Dots】という名のチャイニーズレストランがあった場所と言えば、思い当たる中華ラバーも多いかもしれない。
渋谷駅から歩くことおよそ7~8分、緑に囲まれた金王八幡宮のすぐ近くに建つシックな一軒
コロナ前の2021年、あの脇屋友詞シェフが“新しい町中華”をコンセプトにプロデュースした店で、その跡地にできたのが同店。しかも、当時、件の【Dots】を脇屋シェフから任されていたのが、同店のオーナーシェフである平賀大輔シェフだった由。奇しくも、巡り巡って古巣でのスタートとなったわけだ。
グレーのトーンで統一した店内は、落ち着いた雰囲気。カウンター中心ゆえ、一人でも気軽に入れそうだ
黄色にdot柄のポップな外観が目を引いた以前の店とは打って変わり、新店はモノトーンで全体を統一。ダークグレーの煉瓦を配した壁に白い大理石のカウンター席がひときわ生える店内は、グッとシックな雰囲気に生まれ変わった。カウンターの他、テーブル席や個室もあり、1人でもグループでもOK。様々なシチュエーションに応えてくれそうだ。
扉を閉めれば、個室にも使えるテーブル席もあり、グループや接待の時には重宝しそうだ
「脇屋シェフからは、料理のテクニックはもちろんのこと、常にお客様の立場に立って料理を出す姿勢を学びました。」とは平賀シェフ。念願のカウンタースタイルにしてからは、お客様との距離も短くなり、よりお客様の要望を察知できるようになったと笑顔を見せる。
使い勝手の良さは、料理のオーダーシステムも同様。近頃は、おまかせコース一本の一斉スタートスタイルがすっかり定着しているが、ここはコースとアラカルトの二刀流。しかも、来店時間もゲストファースト。好きな時間にどうぞ、という配慮も嬉しい限りだ。「お一人でふらりとお越し頂いて、アラカルトで好きなように食べて頂くのもいいし、グループでの会食なら、個室でゆっくりコース料理を楽しんでもらっても。」とは、平賀大輔シェフ。そのコースも、6600円からと実にリーズナブル、かつ内容も決してそれなりではない。例えば、取材当日のメニューは次の通りだ。
『鮎の春巻』は6600円コースの一品。九州日田市から取り寄せた鮎は3枚におろし、間にピータンなどを挟んで揚げている
スターターにお凌ぎサイズの『翡翠生姜粥』が出た後は『前菜6種の盛り合わせ』、『幸福豚の焼きたて叉焼』とお酒が進みそうな味が続き、『あさりの旨味たっぷりの茶碗蒸し』で舌をリセット。その後、歯触り軽やかな『鮎の春巻き』が出て、メインには平賀シェフのスペシャリテ『天草和牛の黒酢炒め』が登場。コースに華を添える。
そして〆には『汁無し坦々麺』か『ニラ醤油麺』をチョイス……という充実の内容。デザートの『桃の樹液と杏仁豆腐』を頂く頃には、お腹もすっかり満たされているに違いない。フカヒレの付くコースでも13750円と、高額化が相次ぐ昨今のレストラン業界にあって得難い一軒と言えそうだ。
シェフの平賀大輔さんは千葉県出身。ワイン愛も強くソムリエの資格も持つほど。中でも、ナチュール系が好みだそうだ
「年に一度、記念日に行くような高級店ではなく、ちょっと上質な、普段使いできる使い勝手のいい店にしたかったんです。自分が行きたくなるような、ね。」屈託なく笑う平賀シェフだが、その経歴は錚々たるもの。19歳で脇屋シェフの門戸を叩き、以来、20有余年、脇屋シェフの薫陶を受けてきた達人だ。【トゥーランドット游仙境】を皮切りに、様々なポジションを経験。博多【蓮双庭】や厚木【上海ドールバイワキヤ】、そして前出【Dots】では、料理長を任された実績からもその実力のほどが伺える。
中でも、【蓮双庭】での7年間は、平賀シェフにとって思い出深い経験になったようで、当地で多くの生産者に知り合えたことが、今の平賀シェフの財産となっている。大分日田産の鮎に福岡「久保田農園」のハーブ、そして叉焼に使う豚も鹿児島「ふくどめ小牧場」の幸福豚等々、食材の多くを今も九州から取り寄せている。
『まこもだけの天草黒毛和牛の煎り焼き~ブラックペッパーソース』。これも6600円コースの一品。牛は、九州時代に知り合った天草の「田中畜産」、上に飾ったハーブも九州宮崎の「久保田農園」から取り寄せている
ご覧の『真菰の天草黒毛和牛の煎り焼きブラックペッパーソース』も、熊本「田中畜産」の黒毛和牛を使った一品。ランプやうちもも、シンシンなどサシの少ない赤身の部分を主に使っているそうで、「旨みが強く、和牛らしい風味があるところが気にいっています。」とは平賀シェフ。淡白ながらも仄かに甘みがあり、シャキっとした歯触りの真菰との相性も上々だ。
普通なら、真菰はカットして牛肉と共に炒めて供するのが、中華の常套だろう。が、平賀シェフは真菰に牛肉を巻きつけて焼き、下にはドフィノワ風に仕立てたじゃがいもを忍ばせ、ハーブをたっぷり飾りつけて提供。一見してフレンチと見まごうような一皿は、ヌーベルシノワの薫陶を受けた平賀シェフなららではのセンスだろう。それでいて、味わいはきちんと中華に着地している手腕も見事!
『スパニッシュオムレツ 山椒マヨネーズ』550円はアラカルトメニューの一品。平賀シェフ自身が好きでメニューに導入。こうした自由な感覚も魅力の一つ
中華の枠に囚われぬ発想は、アラカルトにも発揮されている。『麻婆豆腐』や『海老チリソース煮』など王道の町中華メニューに混ざり、『パテ・ド・カンパーニュ~中華スパイス』や『スパニッシュ・オムレツ~山椒マヨネーズ』といった遊び心あふれる一品が並び、食いしん坊の興をそそる。平賀シェフによれば「スパニッシュオムレツは僕自身が大好きなんで作っちゃいました。全く中華のアレンジはないんですが、意外にお客様の受けはいいんですよ。」とのこと。それも、ベテランシェフのなせる業。料理全体を通して中華のベースがしっかりしていればこその自由度の高さだろう。
お客様の要望で作り始めた月餅1個660円。要予約。小豆餡と砕いた飴がけのくるみ入り
『鶏泥湯』こと『鶏胸肉と干貝柱の旨み ふわふわスープ』1000円。シェフの力量が伺える一品
このパテカンやスパニッシュオムレツをつまみに一杯という時は、ソムリエの資格も持つ平賀シェフセレクトのナチュールワインがおすすめだ。曰く「常備しているワインは、フランスを始め、イタリア、オーストリアなど約100本ほど。7割方がナチュール。」だそうで、グラスワインは、900~1400円。赤白合わせて10種類ほどを用意している。また、4種6600円、6種11000円のワインペアリンもあり、コースに合わせるほか、逆ペアリングを楽しむのも一手。本来はワインを料理に合わせるところを、ワインにあわせ、アラカルトから料理を選ぶのも一興。アラカルトのある同店ならではの楽しみ方と言えそうだ。
ざっと100本ほどが揃うワインは、ナチュール中心。グラスワインは常時赤、白合わせて10種類を用意。グラス900~1400円
ちなみに、呑兵衛向けに“無限”ことフリーフロー15000円の用意もある。また、中国茶も12種類ほどを常備。右党には、中国茶、ノンアルコールワインなどを取り入れたノンアルコールペアリング6600円もある。
カウンターの奥に並ぶ香辛料の数々
中国茶や嬉野紅茶などノンアルコールも充実。ノンアルコールペアリング6600円もある
ON the TABLE CHINESE
【エリア】渋谷南口
【ジャンル】中華料理
【ランチ平均予算】-
【ディナー平均予算】14999円
【アクセス】渋谷駅 徒歩8分