日々多くの人たちが利用する電車。電車内で迷惑な行為をする乗客に腹が立った経験は誰もがあるだろう。都内において、週末の終電間際は、まさに“地獄絵図”。痴漢被害の心配もあるが、酔っ払った状態で乗り込んできた人や、そのまま熟睡してしまった人も怖いのだ……。
◆終電間際の電車内は“地獄絵図”
筆者(現役グラドル・吉沢さりぃ)がずいぶん前に、国分寺に住んでいたときのことだった。推しているバンドのインストアイベントが新宿であったので、帰りにバンギャ友達と酒を飲み、タクシーを使う財力もないので終電間際の中央線に乗った。
中央線は基本的に混んでいるが、終電間際の下りは本当にヤバい。何かの苦行じゃないのか?と思うほどに混んでいるし、とにかく遅延、遅延、遅延……!
週末だったので、電車に乗るというよりも「電車になだれ込んだ」という表現の方が近い気がする。流されていくと、そこは優先席前。
優先席には、べつに優先されるべきではない人たち……酔っ払って爆睡しているサラリーマンと若いカップル、耳にイヤフォンをした若い女性が座っていた。
荻窪についた頃だ。緊急停止ボタンが押されたようで、電車が止まった。「またかよ」と舌打ちでもしたくなった瞬間、「うっぷ!」という嫌な声が聞こえた。
◆泥酔していたサラリーマンが限界突破!
事件は目の前で起きていた。泥酔して爆睡中だったサラリーマンが、まさかの嘔吐。満員電車で逃げ場もなく最悪である。しかも季節は夏だ。みんな一斉に嫌な顔をする。「マジかよ」と誰かが言った。
早く目的地に着かないかなあと思っていると、筆者の左隣の人が「大丈夫ですか?」とポケットティッシュを差し出した。「え、誰に?」と思っていると、なんと筆者の右隣のお兄さんの抱えていたギターケースが大変なことになっていた。寝ながらなのに勢いがすごい。本人よりも目の前のお兄さんに思いっきりかかっていたのだ。
筆者も周りの人もウェットティッシュや水などをお兄さんに渡した。
当たり前だが、お兄さんはすごい形相だった。そらそうだ。みんなの救援物資で拭いてはいるが、ぜんぜん取れていない。しかもギターケースは大きくて、本革っぽいのだ。他人ごとながら「最悪だ」と見ていた人は全員が同情していたと思う。
険悪なムードの中、そのサラリーマンはというと、寝続けていた。
寝続けていたというか、寝たふりを続けていた。いや、確かにわからんでもない。こうなったら、もう寝たふりするしかないだろう。
◆いつまで“寝たふり”を続けるのか…
電車は急停車したまま動かず、サラリーマンは起きず、ギターケースの汚れは落ちないまま、10分が過ぎた頃だった。
「起きてください」
ついに、被害者のお兄さんが声をあげた。もちろん、サラリーマンは寝たふりをして起きない。
「起きてください、起きてください」
だんだん語気が強まっていく。絶対に起きるボリュームだったが、サラリーマンはびくともしない。先ほどまで優先席に座っていた人たちは、すでに立ち上がって避難していた。優先席にはサラリーマンが1人。
大きく肩を揺らされて「もう寝ている設定は無理なのでは……」と、そこにいた全員が思っていただろう。
◆名刺入れを死守しようとするサラリーマン
彼の胸元のポケットには名刺入れがあった。
お兄さんが名刺入れを抜き取ろうとすると、なんとサラリーマンは急にその手をシュッと抑えた。「さすがに起きたのか?」と思いきや、目はきっちり閉じていた。
寝たふりを続けながら胸元の名刺入れをとられまいと両手で抑えるサラリーマンにお兄さんは声を荒げた。
「おい!ふざけんなよ!」
まわりの乗客はみんな失笑、「起きてちゃんと謝りなよ」という声が聞こえてきた。
お兄さんはぶんぶんとサラリーマンの手を振り回し、ついに名刺入れを抜き取った。だが、それでも目を閉じたまま名刺入れの端っこを掴んで離さなかったので、筆者も他の人たちも爆笑してしまった。起きてるじゃん!
お兄さんは名刺入れから、名刺を1枚取り出して「明日会社に連絡しますね」と声をかけると、次の駅でさっそうと降りていった。
サラリーマンは体勢を変えることなく、ずっと寝たふりを続けていた。「この人は寝たふりをいつまで続けるんだろう?」と興味はあったが、国分寺に着いてしまったので、その後のことはどうなったかはわからない。飲み過ぎは良くないですね……。
<文/吉沢さりぃ>
―[乗り物で腹が立った話]―
【吉沢さりぃ】
ライター兼底辺グラドルの二足のわらじ。著書に『最底辺グラドルの胸のうち』(イースト・プレス)、『現役底辺グラドルが暴露する グラビアアイドルのぶっちゃけ話』、『現役グラドルがカラダを張って体験してきました』(ともに彩図社)などがある。趣味は飲酒、箱根駅伝、少女漫画。X(旧Twitter):@sally_y0720